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教えて!一子先生!

 一子の部屋は、ゲームだらけの兄の部屋と比べると質素で常に整頓されている。


 本棚には問題集や参考書が綺麗に並べられ、その上に置かれた小物やトロフィー、友人と撮ったであろう写真の入った写真立てにはホコリひとつ付いていない。


 そんな部屋に、いきなりノブ夫がずかずかと入ってきた。

 中間試験の為に勉強机に向かっていた一子は、無菌室に雑菌でも入ったかのような顔でノブ夫を見た。


「もぉ!ノックぐらいしてよ、お兄ちゃん」



「ちょっと聞きたいんだけど」



「だからノックしろって言ってンだろが、クソ兄貴。何勝手に乙女の聖域に入ってきてんだ、ノックアウトされてぇのか?」



「ノックもせず急に部屋に入り勉強のお邪魔をしてしまいすみませんでした」



 妹の殺気に負けて、土下座するノブ夫。



「そうそう、そうやってとっとと謝まりゃいいんだよ。で、何?」



「教科書の問題で分からんとこがあって」


 そう言って、ノブ夫は高校の教科書を見せた。一子は呆れ顔だ。




「…お兄ちゃん、私中学生だよ?年上としてどうなの?」



「まぁ、俺もそれは思ったけど、お前頭いいだろ。それにもう時間があんまねぇのよ。明日、テストだから」



「明日!?」



「そ、明日、中間試験。日本史とか現代文とか…だったかな?なーんもまだ手つけてなくてさ。ノートと教科書、大急ぎで見直し中」



「バカじゃないの?普通、もっと前から勉強するでしょ」



「普通は人によりけりだ。頼む。哀れな兄貴を助けると思って」



「兄貴だからって助ける義理はありません。こっちだって来週テストなんだから。友達に聞いたら?」



 一子は迷惑そうにピシャリと言った。

 ノブ夫は困り顔だ。


「俺のダチもバカばっかだからなぁ。父ちゃんは戦国しか分かんないし…なぁ、テスト明けに服買ってやるからさ、教えろよ〜」



 一子がピクリと反応した。服には目がないのだ。



「…絶対だな。誓約書」



 と、実に可愛いげのないことを言ってから、一子はノブ夫にルーズリーフに誓約書を書かせた。

 そこには、約束を破ったら鉄拳をお見舞いするとも書かれている。



「で、問題は何?」


 一子が嫌そうに聞くと、ノブ夫は日本史の教科書の問題を読み上げた。



「十七条の憲法を作った人は誰か答えなさい」



「は?聖徳太子じゃん」



「早ッ!即答かよ!」



「いや、これ常識。てゆーか、教科書の復習問題なら、ページ遡って説明文読みゃ書いてあんでしょ」



「あー、なるほど。そこから答えを探せばいいのか。気付かんかった」



「そうじゃなくて、そもそも説明文を理解して、ちゃんと暗記してから取り組む問題なの!

 覚えてりゃ解けるの!復習の意味も分かってないんじゃないの!? ホンットバカ!!」



「そう怒るなよ。要するに、教科書をちゃんと読みゃあいいんだろ?


えーと、聖徳太子…は、厩屋皇子(うまやのおうじ)とも呼ばれ…何だそりゃ?」



「厩屋は、馬を飼ってる建物だよ。聖徳太子はそこで生まれたの!昔の偉い人は、生まれた場所の名前を付けられたって話、知らないの?」



「へぇぇ、じゃあ、トイレで生まれたらトイレの皇子だな」



厠皇子(かわやのおうじ)…」



 訂正しつつ、一子は不覚にも吹き出した。兄は頭は悪いが、この発想は良いと思った。何より語呂が良い。



「かわや……昔のトイレは、かわや、って言うんだな。やっぱ物知りだな、一子は」



 ノブ夫が感心しながら、一子の笑いに気付くことなく、教科書を読み進める。



「え?何、コイツ、十二階つくった…って?十二階建てを造ったってこと?昔の人なのに結構すごくね?」



「いや、それ建物じゃなくて冠位だから!冠位十二階!」



「何それ?」



「えーと、確か役職や階級を十二個の色で分ける制度みたいなもんだったと思う」



「なんか嫌な制度だな。似合わない色になったら気の毒だ。ピンクとか」



「えっ、ピンク、あったら良くない?可愛いじゃん」



「いや、派手すぎじゃね?」



「いやいや、お兄ちゃんでもきっと似合いそ…って、こんなくだらないことダベッてる場合じゃない!勉強勉強!」


 一子は我に返り、再び自分の勉強机に向かった。


「えーっ、まだまだ聞きたい問題があるのに〜」


 ノブ夫は一子の座る椅子にすがり付く。



「ちゃんと答えたでしょーが!自分で解け!」



 一子はノブ夫に蹴りを食らわした。

 妹は成績優秀だが、兄の方は頭が悪すぎて妹が勉強を教えても、良い結果になることはなかった。



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