第5話 男子たるもの早寝早起きが基本!
朝の虎太郎は目覚めが悪い。
その寝起きの悪い虎太郎の左右に、クラスメートの美少女と、妹が添い寝をしていた。
「むみゅぅぅ……しゅぴっぃい……ZZZ」
ここは虎太郎の自室。昨日はプールの授業があったので、とてもつかれた。なので眠りはいつもよりもずっと深い。
「おにーちゃん、ぐっすりだね。恋菜おねーちゃん♪」
「あぅぅ、そ、そうだね。こたろーちゃん、よく寝てる」
虎太郎の右側で横になっている少女は恋菜。夏だというのに綿地のパジャマ姿である。
恋菜は冬に全裸で寝てても風邪を引くことのない強靭な肉体をしているのだが、虎太郎の家で添い寝をしてあげるときは必ず綿100%のパジャマを着てあげることにしていた。そのパジャマが、いちばん肌の触り心地がいいのだ。虎太郎にとって。
140センチの虎太郎は、190センチの恋菜に抱きつくように眠る。たっぷり柔らかな豊乳に、顔を押し付けて眠りにつくのがいつものスタイルだ。
恋菜はバランスが崩れて虎太郎が転がってしまわないように、包み込むように身体と胸を虎太郎のために傾けていた。
もちろん虎太郎が呼吸できるように、胸で顔を圧迫しすぎないようにと、配慮も忘れない。パジャマを着ていないと、どうしても柔らかい胸が虎太郎の顔を包み込んで苦しくさせてしまうし、胸の谷間が汗ばんで虎太郎が寝苦しくなる。パジャマはすべて虎太郎のために着ているのである。
「でもそろそろ7時半だし、起こさないとだねー」
左側で寝ているのは虎太郎の妹の白雪。ショートヘアーの中学生だ。可愛すぎる兄ほどではないが、元気な魅力にあふれた少女である。ちょっとおバカなのが魅力で、かなりバカなのが欠点だ。
成長過程の中学生らしい身体で虎太郎の背中に寄り添って、虎太郎の体が冷えないようにしていた。
二人の身体で包み込んであげれば、とても虚弱な男子である虎太郎が風邪を引くことはない。
「お、お、起こさないと。こたろー、は、今年こそ、皆勤賞を、とるんだから」
「おにーちゃんは結局、夏には夏風邪、冬にインフルエンザに掛かって、休んじゃうと思うけどね」
「あぅぅぅ、こ、今年は、掛からないように、き、気をつけるから。へーきだよ!」
「そりゃ白雪も、おにーちゃんが風邪引かないように気をつけるけどさ。にーちゃんが病気になったら、白雪だって悲しいもん」
白雪が頬をポリポリと掻く。そのまま天使の寝息をたてる虎太郎の顔を見た。とても真面目で責任感の強い虎太郎は、学校を休んだことは一度もない。病気を除いて。そして病気にならなかった年は、小学一年から一度もない。
高校初めての夏。虎太郎は「今年こそ夏風邪を引かねえぞ!」と宣言をした。本人は限界まで努力をしている。あとひと押しできるのは、周囲の努力だ。
恋菜はなんとか虎太郎の夢、一年皆勤賞を取らせてあげたかった。もちろん白雪も同意見だ。ただしそれはとても難しい。
「ともかくおにーちゃん起こそうか。ちゅーー♡ おにーちゃん、朝だよ♡」
恋菜のおっぱいに抱きついている虎太郎の、左ほっぺに白雪がキスをした。
「ん、んん……」
虎太郎が恋菜のおっぱいの間で、すこし首を動かした。起きかけている。
「よちよち、こ、こたろーちゃん。お、おきて。あ、あ、朝だよ♡」
虎太郎が苦しくないように、柔らかく胸に埋もれていられるような優しい抱き心地で、恋菜は虎太郎の頭を撫でる。女子高生の優しい匂いにつつまれ、柔らかい胸に抱かれて、虎太郎はそのまま……
「ん、しゅぴー……ZZZ」
……また夢の世界に戻っていった。
「ちょっと恋菜おねーちゃん。寝かしつけてどうすんのよ!?」
「あ、あれ? こたろーちゃん、おっきしよ。おっきだよ♡」
「んん……」
「よちよち、か、か、可愛いね、こたろーちゃん♡ なでなで♡」
「しゅぴーーーー、ZZZ」
安心しきった顔で、ぐっすりおねむの虎太郎。低血圧で昨日のプールで身体の疲れている虎太郎が、自主的に起きてくれることはまずない。目覚まし時計なんて使ったら心臓がびっくりしてしまう。
優しく起こしてあげるのが、添い寝している少女たちのお仕事だ。
ちなみに朝ごはんは、添い寝の順番ではない猫子が、一階の台所で作っている。
超人気の者の虎太郎の添い寝は、希望者を募ると人数が爆発的に増えてしまう。よく知らない人を家に上げたくないので、虎太郎は添い寝と朝ごはんだけは、幼なじみの恋菜と猫子に限定していた。
「だから寝させちゃだめでしょ、恋菜おねーちゃん!」
必ず添い寝につく妹の白雪が、恋菜を叱るように言った。
「あぅぅ、こたろーちゃん。ね、寝顔が素敵すぎて、つい可愛がっちゃう」
「だめじゃん。もう。じゃあ白雪が起こしちゃうから」
白雪が虎太郎のほっぺたをむにーーーっと、引っ張った。
「むぅ、ゅむぅぅ……」
柔らかいほっぺを摘まれ、おもちのように伸ばされ、いやいや身を捩る虎太郎。
「し、白雪ちゃん。こ、こ、こたろーちゃんかわいそうだよ」
「起きないじゃん。ほらほらおにーちゃん、朝だよー。朝ご飯食べて学校いくよー」
むにーー、むにーー
「ううぅぅ、むぅぅ」
「あぅぅ、こたろーちゃん、ほっぺ痛くないよ♡ よちよち」
「む、……ふみゅぅ……しゅぴーーーZZZ」
髪を優しく撫でられて、またしても眠りが強くなり、体ごと恋菜に預ける虎太郎。
「だから寝かしつけちゃだめでしょ、恋菜おねーちゃんってば」
「あぅぅ、だってぇ」
虎太郎が嫌がることが世界で一番苦手な恋菜である。恋菜にとっては自分が傷つくより、虎太郎が傷つくほうがずっと辛い。そして現実に、恋菜が骨折したところで2週間もあれば治るが、虎太郎は完治に三ヶ月以上かかる。
恋菜は幼稚園児の時からずっと虎太郎を第一に思ってきたために、虎太郎の嫌がることをなるべく避けようとしてしまうのだ。
つまり寝かすのは大得意だが、起こすのは大の苦手である。
「もう強硬手段とるからね」
「あぅ、し、白雪ちゃん。お顔に乗っかるのはダメだよ。ま、前にやって、お、怒られたでしょ」
「怒られたっけ? でもあれが一番寝起きがいいよ。おにーちゃんもスパッと起きるし」
白雪は虎太郎の上に乗っかるのが好きだ。だがショーツ姿でぐりぐり顔面騎乗すると、起きるというよりも呼吸困難になる。
虎太郎はそれで目覚めること、起きてすぐ妹のパンツが目の前にあることがとても嫌なので、妹にその行為を禁止している。
もちろんすっかり忘れてまた翌日やるのが白雪だ。今も怒られた事実は忘れている。それでもきちんと起こせたという都合のいい事実は憶えているのが、白雪の脳クオリティーであった。
虎太郎を起こせずにいる2人。
トントントン、と。階段を登る音がした。
「そろそろ起き給えよー、バッテンな諸君たち。虎太郎御大はまだ夢の住民かいね?」
一階で朝食を作っていた猫子が、虎太郎の部屋にやってきた。
「猫おねーちゃん。あのねあのね、白雪が起こそうとしても、恋菜おねーちゃんが寝かしつけちゃうんだよ」
「そんなバッテンなのかい、恋ちゃん?」
「あぅ、あぅぅ猫ちゃん。わ、わ、わたしも、起こそうとはするんだけど……。ね、ね、寝させちゃうの」
「恋ちゃんは優しすぎるのがバッテンだねぇ。御大も昨日はお疲れだったから、眠りも深いんだろう。ではハナマルな知恵を、猫が発揮するときかな」
そう言いながら猫子が手に持っていたものを前に出した。
それはフライパン。朝ごはんを作っていたフライパンを、そのまま持ってきていたのだ。
フライパンではソーセージがじゅうじゅうと焼けている。肉の焼ける香ばしい匂いが、部屋に漂った。
「あぅぅ、美味しそう。わ、わたし、猫ちゃんのソーセージ大好きだよ」
「ふふふ、それはかなりの卑猥語だね、恋ちゃん。猫がふたなりになった気分だよ」
「あは、はぅ? な、に。それ」
「恋ちゃんは知らなくてもよいことさ。さぁ、ハナマルな朝ごはんの香りだ、虎太郎御大、そろそろ起き給え」
「むぅう……しゅぴぃ……くんくん」
虎太郎が恋菜の胸の谷間で、クンカクンカと鼻をうごかした。
「効果あり。さすが猫さんの知恵はハナマルだよ。さぁどんどんいくよ」
猫子は肉の焦げる匂いを虎太郎に積極的にかがせようと、更にフライパンを近づけた。
「しゅぴ……はんばぁーぐ、うまぁ……」
かわいい寝言をいう虎太郎。ハンバーグが食べたいらしい。
覚醒まじかの虎太郎は、食欲のままにすぐ近くのものをパクっと口に含んだ。
虎太郎の目の前にあったもの。それは恋菜のおっぱい。パジャマは着ているけれど、柔らかさを阻害するブラジャーはしていない。布一枚隔てて生乳だ。
「あ、、はぅ? こたろーちゃ……」
たっぷり102センチの豊乳の、一番咥えやすい突端部分を、寝ぼけたままの虎太郎が口に咥えてしゃぶった。母親に授乳をねだる赤ん坊のように。
「きゃゃん♡ あぅ、ひぃゃゅあぅぅぅう♡♡♡」
嬌声をあげてビクッと体を震わせる恋菜。巨大抱きまくらとしてくっついていた190センチの少女が全身を揺らしたので、もちろん虎太郎もパチっと目を覚ました。
「うわぁ!? なんだなんだ? って、恋菜か。朝から変な声出すな!」
起きながら虎太郎は、朝から変な大声を上げた恋菜を叱った。
「はぅ、はぅぅう♡ ……び、ビックリさせちゃった? ご、ごめんね、こたろ-ちゃん」
「いいけどよ。起こす時くらいはもっと静かにおこせよ。ちゃんと起きるんだからよ」
と、ぜんぜん起きようとしなかった虎太郎が言う。
そしてベットの前でフライパンを持って立っている、エプロンに制服姿の猫子が虎太郎の目に入った。
「猫はなんでフライパン持ってんだ? 朝飯はソーセージか。うまそーだな。俺は一本な」
「はいはい、御大には太くて長い例のアレをご用意しておきますよ」
「ソーセージだぞ!」
「肉の詰まった棒状のアレですよね」
「ソーーセーージ!」
「双子かい?」
「っち、もういい。朝から猫につきあってらんねーよ。おら白雪も起きろー」
「はーい、寝坊助おにーちゃんと違って、白雪はもう起きてまーっす。ところで猫おねーちゃん。最後の双子ってなんなの?」
「それは双生児とソーセージをかけた、猫さん渾身のジョークだよ。ハナマルだったね。朝から見事に寝室を爆笑の渦に叩き込んでしまった。まいったまいった、ハッハッハ」
本人以外は誰も笑わず、猫はフライパンを持ったまま台所へともどっていった。
意味がわからず、白雪がさらに洒落とやらの回答を聞く。
「おにーちゃん。双生児ってなに?」
「肉の腸詰めだ。へんなこと覚えなくっていいから、白雪はいいかげん九九くらい覚えとけ」
「九九くらいは覚えてるよ!」
「分数の割り算は?」
「うう、……おにーちゃんはなんで算数のことばっか聞くのさ。白雪は柔道で生きていくから、別に算数はできなくっていいんだもん」
「せめて算数は卒業して、数学レベルになれ。バカ白雪」
虎太郎はやれやれと言いつつも起き上がった。虎太郎が起きる時間に合わせて、室温はエアコンをきかせてちょうどよくしてる。
すぐさま恋菜も起き上がり、虎太郎の着替えを手伝おうとする。
虎太郎の目に、恋菜の胸元に雫があるのを見つけた。
「あっと、悪ぃな恋菜。よだれこぼしちゃったか?」
「あ、あぅ、これ? い、いいよ。気にしないで ……き、気持よかったし……」
「はぁ? よだれこぼされて気持ちいとか、変態かよ。さっさと着替えて、 飯食って学校行くぞ。今年こそは皆勤賞取るんだからよ」
「あぅぅ。は、はい」
「はーい、白雪もかいきんしょー頑張りまーっす」
手を上げて元気に答える白雪。
「てめーは頑張んなくてもいい。小学から一度も学校休んでねーだろうが」
3人は言い合いながら服を着替えを始めた。白雪も恋菜も、朝の着替えはここで済ますのが日課だ。制服はそれぞれ持ってきている。
まずは恋菜と白雪が虎太郎の着替えを手伝い、その後二人がささっと制服に着替えた。
台所に行くと制服にエプロン姿の猫子が、朝ごはんを並べておいてくれた。ソーセージとパンを食べて、学校へと向かった。
7月は始まったばかり。夏風邪の恐怖は、いまだその陰を見せていない。