ユメノナカデ
僕は夢を見る。
真っ白な部屋に女の子が一人。
それが僕の夢。
毎日毎日同じ夢だ。
「こんにちは。またあったね」
僕は彼女に話し掛ける。
「こんにちは」
彼女も毎回ちゃんと返事をしてくれる。
だけど彼女から僕に話しかけてくることは今まで一度もない。
ほんとにここには何もない。
「ここは夢の中なのかな?」
僕は普通の日常では使うことはまずないであろう言葉で聞く。
彼女は床に三角座りをしながら答える。
「そう。」
返事をちゃんとしてくれるのは有り難いのだが、少し無愛想すぎる気がしないでもない。
こんな夢の中には特に何もないので僕も彼女の隣に座る。
彼女は一瞬こちらをチラッと見たが興味無さげにまた何もない永遠に続く真っ白が広がる前を向いた。
僕達は何かをするわけでも何か言葉を発することもなく、ただずっと前をぼーっと眺めていた。
眺めていた、と言っても真っ白な空間が広がっているだけだ。
少しばかりの沈黙が続いた。
気まずいとかそういのは一切なかった。
むしろ心地よいと思うほどだ。
だけど、僕は彼女にたくさん聞きたいことがあった。
「ねぇ、君は夢の住人なの?」
「わからない。」
「ここは僕の夢なんだよね」
「うん。」
「なんでこんな真っ白で何もないの?」
「.....。」
不思議だ.....。
そりゃあ彼女にだってわからないことがあって当たり前だし普通だ。
けど、ほとんどの質問に眉ひとつ動かさず答えてくれる彼女が何故か黙り混んでしまった。
本当にわからないのだろか。
それとも言いづらいことなのだろうか。
僕は後者のような気がする。
ほんとは物凄く聞きたい.....けど彼女が聞いてほしくないなら聞かないでおこう。
ふと彼女の方を見ると、ゆっくり立ち上がっていた。
そして僕を見下ろしながら
「また、明日来て」
そう言った。
その瞬間目の前が真っ暗になった。
目が覚めるのか.....。
..........。
今日も僕は夢を見る。
真っ白な部屋に女の子が一人。
それが僕の夢。
いつもと変わらぬ夢。
「こんにちは。またあえて嬉しいよ」
僕は彼女のもとに歩みより言う。
「.....嬉しい?」
彼女は不思議そうな表情で僕を見て首をかしげていた。
そう、僕は彼女に会えるのが嬉しいことになっていた。
いつからかはわからない。
ただ彼女と過ごす時間はとても心地よかった。
これは夢だとはわかってはいるのだけれど、それでも彼女と過ごすこの時は存在しているのだから、彼女だって確かに今ここに存在しているのだ。
「うん、嬉しいよ」
「.....そっか」
彼女はどことなく嬉しそうな、それでいて不安そうな表情をした。
僕なんかに言われても反応困っちゃうよね。
少しへこんだ。
今日も彼女と並んで座る。
手を床につく形で座っている僕の手の上に彼女がそっと自分の手を上に重ねた。
心臓がとまるかと思った。
何か言わないとダメか、など色々考えた。
けど彼女の不安そうな表情を見て冷静なった。
彼女の手はとても小さくて冷たかった。
そして僕は何も聞かなかった。
いや、聞けなかった。
今まで自分から喋りかけてさえこなかった彼女が僕に自分から触れてきたんだ。
それぐらいの内容なんだろう。
なら、僕は彼女が自分から話始めるまでは聞かない方がいいのかもしれない。
そう思った。
「.....あのね」
彼女は無理に作ったような笑顔で話始める。
うん。と僕は余計なことは言わず相槌を打つ。
「私ね。消えちゃうんだ。」
「え」
「私もこの夢も今日で終わり。」
「.....。」
「明日からあなたは普通の夢が見られるんだよ。」
彼女は寂しい微笑みで言う。
僕はなにも言えず彼女を優しくそっと抱き締めた。
「もう会えないなんてやだよ」
彼女は僕にしがみつきながら静かに涙をこぼした。
僕はなんと言えばいいのかわからずただただ彼女を抱き締め続けた。
少し意識が遠退きつつある。
目が覚める前兆だ。
終わる前に言わなくちゃ。
「ねえ、そんなに泣かないで?」
「だって....!」
僕は片手を彼女の頭に優しくのせた。
「大丈夫。僕は絶対に君に会いに来るから。約束する。」
そう言い残して僕は目を覚ました。
..........。
今日も僕は夢を見る。
真っ暗な空間にただひとり。
僕の目の前には箱が置いてあった。
中には数えきれないほどの夢がびっしり。
幾つか手にとって見てみた。
楽しい夢。面白い夢。怖い夢。変な夢。恥ずかしい夢。幸せな夢。
たくさんの色々な夢があった。
これから僕が見る夢なのだろうか。
「確かに楽しそうだ」
箱からこぼれ落ちる夢をゆっくり拾い集める。
これも、これも大切な僕の夢。
すべて拾い上げる。
残りひとつ。足下に空白の夢が落ちている。
こぼれ落ちた物はすべて拾ったけど、小さな僕の掌に収まるのはただ1つだけだ。
「こんなにたくさんいらない。たったひとつだけでいいんだ。」
僕は拾った夢をすべて箱にしまった。
そして、そっとただ1つ寂しそうに落ちている夢を拾い上げる。
僕のただひとつ大切な夢。
「僕の夢はこれだ。」
..........。
僕は夢を見る。
真っ白な部屋に女の子が一人。
それが僕の夢。
毎日毎日同じ夢だ。
「ごめん、お待たせ。」
「遅いよ....!遅いよ、ばか!」