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恐妻家おまわりさんの夜の顔  作者: 尻敷かれ人
3/5

猫屋敷を訪問してみました 昼の部

急ごしらえで申し訳ありません。

「美子ちゃん。うちのエリコちゃんはタロット占いができるんだ。昔お師匠様から教わったらしく、結構あたるんだよ」

「へぇ。初めて見ます」

 おそるおそるのぞき込む彼女だが、どちらかと言えば好奇心の方が優っているようだ。カミさんの手元に視線が吸い寄せられている。タロットカードをシャッフルしテーブルクロスの上に3つデッキを作り、再び一つに戻す。妻は目を閉じ、ゆっくりと何かを問いかけるかのように口を動かし、そして一枚ずつ確認していく。クロスしたカードを作っていったと思えば、2枚、3枚と並べてめくっていく。そのよどみのない姿を彼女は固唾をのんで見守る。

 5分ほど問いかけを続けていた彼女は、顔をおもむろに上げるとしばらく天を仰ぎ、そして目を見開いた。


「たぶん、西の方角に大きな屋敷がある。その屋敷の中に手がかりがあるようだよ。どうやらそこに何らかのトラブルに巻き込まれて閉じ込められている暗示がある」

「ひっ」

 彼女は口に両こぶしをあてると後ずさる。

「どうしたんだい?びっくりした?」

「う、ううん。ただ、わたし、夢の中に出てきたレンの場所に似ていた感じがして」

 すこし目を見開きながら首をふるわせて答える美子ちゃん。

「まず、行ってみることが肝要のようだね。何も小細工無し。恐れずに行ってみろってさ」

「おいおい、無責任やな。もうちょっと良いアドバイスはもらえなかったのかい?」

「これでも精一杯のサービスさ。ほらほら、早く行ってきな。日が暮れちまうよ」

 彼女は俺にだけ分かるように片目をつぶって見せる。こういう場合は妻の提案に素直に乗った方が良い方に転ぶということを俺は嫌と言うほど思い知らされている。気が乗らないが、とりあえず行ってみるか。よっこらしょっと声を上げて腰を浮かした。

 美子ちゃんは頑なにその場所を探しについて行くといったが、俺は丁重にお断りして、彼女を家に送り届ける。といっても隣の家だけどね。なおも食い下がる彼女にカイト君だけ借りるといって白と黒の斑模様のカイト君を自転車のかごの中に入れる。カイト君はおとなしくかごの中から顔を出し、少し不満を表すかのようにニャアと一声鳴いた。何、不安かい?なーに、心配いらないよ。こう見えても昔は激チャリのいっちゃんと呼ばれたバリバリのシャカリキ小僧だったんだぜ。今だって毎日天気のいい日にこの愛機ママチャリ2号とパトロールに出かけてるんだから。無駄にサスペンションつけて走破性にこだわってみて、乗り心地はそこそこだと思うよ。カイト君、お巡りさんに任せなさいな。どっしりのってなさい。ちゃんとバスタオルも敷いたんだし。よし、んじゃいいっちょ行ってきますか。


 西日がきつく差し込む中。俺は洋館の中に踏み込んでいた。洋館の中は荒れ果てていた。もう20年以上も使われていないとのことだが、以前ここには都会からUターンしてきた脱サラの人が好みで建てた家らしいが。1人暮らしだったこの男は、20年前に病気で病院に入院し、それ以来この家に帰ってこれなかったらしい。この家はもう主を失っているのだが、村はずれに位置するこの家を好きこのんで訪れようとする人は居ないはずだ。しかし、奇妙な点があった。なぜか車の轍の跡が残っていたのだ。それも複数。私は注意して家の中に進入する。すると、そこにはほこりにまみれているはずの屋内になぜか鍵が何重にもかかっている部屋を見つけたのだった。私は外に回って窓から中をのぞき込む。

 その時だった。カイト君がニャアと言って屋敷の庭に向かって走り去っていった。俺は後を追いかけるが、角を曲がるとカイト君は軒下にあった穴の空いていた換気口から中に入っていったようだ。どうしようもなく俺は換気口の中を胸ポケットからだした懐中電灯で照らしてみる。中からはひんやりとした風が顔に吹き付けてくる。少し土の香りがする。猫のおしっこのにおいも混じっている感じがした。おや、中に光っているのがある。ライトに反射して見えるのはどうやら猫の瞳らしい。何個もの猫の瞳に見つめられ、少しぞっとする。しかし、この中に噂の三毛猫のレンちゃんがいるかもしれない。俺は通風口に顔を近づけ、持ってきた猫の餌をばらまく。これでうまくおびき寄せればいいが。

 通風口から離れた木陰で身を隠しながら猫たちが集まってくるのを待つ。しかし、なかなかやってこない。腹減った。冷やし中華を食べ損ない、おにぎりを食べながら自転車をこいできたが、また小腹が空いてきた。しかものども渇きっぱなしだ。水筒を持ってこれば良かったが。あいにく水筒はこの間パトロール中に落として壊してしまったんだった。500mLペットボトルに入れてきた水はすでに空っぽになっていた。あちい。そんな俺の視線の先に、道路を上ってくる一台の黒い車が見えた。俺は木陰にしゃがみ込み、姿を隠す。

 その車は元庭だったとおぼしき草が繁る場所に停まり、中から黒い服に身を固めた男達が2人ほど降り立った。正面玄関からドアを開けて中に入り込む。そしてしばらくするともう1人中から降り立った男がいる。背の高い痩せ型の男だ。隙無く周りに注意を払っている。そして中からは黒い犬が現れた。やばい。ドーベルマン・ピンシャーだ。黒犬は鼻をひくつかせるとゆっくりと俺の方に顔を向け、いきなりこちらに向かって走り出した!

うーんはちゃめちゃ。

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