真夜中のナイフ・ファイティング
一方ミキは夜のナカショーの街をゆっくりと帰っていった。
もちろんミキの後ろには、先ほどのトカと呼ばれた男が後をつけて歩いている。
ミキはそのまま街外れの路地まで来ると、後ろをくるりと振り返る。
「隠れても無駄じゃ、出てけえや」
とミキが暗闇に向かって叫ぶと、へっ、という笑い声と共にトカが物陰からのっそりとミキの前に姿を表した。
「ネエちゃん、俺の尾行に気が付くとは、やっぱりただのネズミじゃねえな」
トカは懐からおもむろに大きな山刀のようなナイフを取り出した。
「痛い目をしたく無かったら、大人しく言う事を聞きな」
「へえ、おめえナイフを使うんか?」
ミキも素早く腰に仕舞ってあったアーミーナイフを取り出して構える。しかし、どう見てもトカの持っているナイフの方が大振りで、得物の大きさではどうにも
ミキは分が悪い。
ナカショーの街外れの薄暗い路地で、ミキとトカはお互いにナイフを構えたまま、にらみ合いが続いた。
最初に静寂を破ったのはトカの方であった。トカがミキの方へ踏み込むや、ナイフの切っ先を真っ直ぐミキへと突き立てた。
ミキは素早く体を躱したが、革のツナギの腕が裂け、うっすらと血が滲んでいる。
「少しゃあ使えるようなのう……」
「次は外さねえぞ」
言い放ったトカは、じりじりとミキとの間合いを詰めていく。ミキはみるみるうちに、壁際へと押されていった。
ミキがちらり、と腕の傷に眼をやったとき、
「死ね!」
トカのナイフがミキの胸に向かって直進する。
するとミキは、自分の手からパッとナイフを離しトカの右腕の関節を捉えたかと思うと、次の瞬間トカの身体がくるりと一回転し、地面にどすんと叩き付けられていた。ヤワラとアイキドーを合わせたような、特殊部隊の格闘術である。
次の瞬間ゴキッという音がしたかと思うと、倒れたトカの人中(鼻の下の急所)にはミキの突きが命中し、トカは意識を失ってしまった。
全く、一瞬の間のできごとであった。
「ヨゴレのくせにええナイフ持っとるのう。もろとこ」
とミキはつぶやきながら、ポケットから取り出した結束バンドを使い、手錠の要領でトカの手足を器用に縛りあげると、丸太のように横たわる彼を抱えて夜の闇へと消えて行った。