ウラ部隊との接触
ナカショーの夜の街は、ミキが働いていたダマヂとは比べ物にならないほど質素であった。ネオンの付くような飲み屋は一件たりと無く、爺さん婆さんが昼は食堂、夜は飲み屋としてやっているような店ばかりである。
もちろん昔はそこそこに若い女を置く飲み屋もあったのだが、ウラ部隊が街に現われて金や女を略奪していくようになってしまい、そんな店も次々と店じまいをしてしまったので、今ではまともな神経の女ならば、夜は全く出歩くことがなくなってしまった。
ミキはそんなナカショーのうらぶれた飲み屋で、革のツナギに身を包み、独りでカウンターに腰掛けバーボンのストレートを飲っていた。
「お姉さん、今日はもうそこらへんにしときな、『あいつら』が来たら面倒なことになるから……」
店の年老いたマスターがミキをたしなめる。
「『あいつら』ってのはこの店にも来るのかい?」
ミキがマスターに訊き返すと、
「ああ、『あいつら』、三日に空けずこの店に来ちゃあ、タダ酒飲むわショバ代を巻き上げるわ、やりたい放題だよ、お姉ちゃんも面倒事に巻き込まれたくなかったら、早く帰りな」
「そうなの、そりゃあ是非ともお目に掛かりたいものね」
「お姉さん、気は確かかい!?」
マスターをよそに、ミキはジッポライターで両切りタバコに火を付け、ゆっくりと煙をくゆらしている。
ミキがタバコを吸い終えた頃、バーの扉がバタンと開き、軍服を着崩した、見るからに兵隊くずれのならず者風の男が二人入ってきた。
「オヤジ、ショバ代は用意してるんだろうな!」
「はいはい、こちらに用意してありますので……」
とマスターが封筒を差し出そうとするのをミキは押しとどめ、
「お兄さん方、こんな店のショバ代なんかより、もっといいものがあるわよ?」
ミキがならず者達に微笑みかける。
「へえ、ねえちゃん、おめえが身体で払ってくれるのかい?」
ならず者達がお互いの顔を見合わせ下品に笑う。
しかしミキが、
「そんなもんよりもっといいネタがあるんだよ。その代わり、あなた達のボスに会わせてくれない?」
と言い出すと、二人の顔色は一変した。
「おめえ、ただのパンスケじゃねえな?大佐に何の用だ!」
「あんたらにとって重要な情報を売りたいってのさ」
「何だ、言ってみろ!」
「今度のナカショー警備隊の話さ、とてもいいネタだよ?でもこれ以上は、大佐とやらににでも会わないととてもじゃないけど話せないネタだけどねえ」
「……いいだろう、大佐に会わせてやる。だがもしも下らねえ話だったら、おめえもタダで済むと思うなよ?」
「ああ、ネタは保証するよ」
「付いて来な」
ミキは二人組の男と、ナカショーの夜の闇へと消えていった。