マダムKからの依頼
翌朝、ミキはマダムKに、傭兵部隊兼歌手グループのリーダーになる事を了承した旨を伝えた。
「よろしい、それじゃミキさんは今日からうちの子だから、このIDを渡します、大事な物だから無くさないようにしてね」
マダムKは、ミキに写真入りの黒いIDカードを手渡した。
「安定した仕事は欲しいけえのう。あんたの事は完全に信用した訳じゃねえけえど」
とミキが付け加えると、
「あら、それはこちらも同じことよ」
マダムKも言い返す。
「ミキさんには、一緒に戦ってもらうチームのメンバーをスカウトしてもらいます。もうメンバー候補者の目星は付いているんで、ミキさんには候補者に直に会ってスカウトしてもらって、その結果でこのプロジェクトを進めるかどうかを決定します」
マダムKは候補者らしき面子の顔写真入りのプロフィールのファイルを手渡した。
ミキは口をへの字に曲げながらファイルをパラパラとめくると、
「なんじゃ、でえつもけえつも若え女ばっかりじゃあのう。こんなんでほんまにチームになるんか?」
「AAが使えて、若い女性で、となると、どうしても面子は限られてくるからね」
「……せえで、スカウトの予算はどれくれえなあ?」
「それが、今回私達がミキさんを迎え入れる為のテストになってるのよ、ついてきて」
マダムKは、ミキをビルの地下へ続くエレベーターへと招き寄せた。
ミキ達が乗った地下へと降りるエレベーターの扉が開くと、そこはミキの予想以上に広い空間で、AAの格納庫になっていた。
「こりゃあ……ワイが乗っとった……」
そこには、ミキが軍人時代に乗っていたのと同じ型のAA、TOYODA社製AA-86がハンガーに掛かっていた。
直線的な角張ったデザインに、隊長機を示すアンテナ。制式採用後十年近くを経た今となってはいくぶん旧式のAAだが、ミキが現役当時は南軍でもごくごく一部のエースパイロットにしか与えられなかった機体である。
カラーリングは黒一色にされているが、右肩にはミキがかつて乗っていた機体と同じ、稲妻のエンブレムが輝いている。
「私達がミキさんにしてあげられる援助は、今のところこれだけ」
「……つまりは、あたあワイの実力で捕めえてけえ、ちゅう事か?」
「そういう事。今から一ヶ月の間に、プロフィールを渡した四人全員を誰一人欠けることなく連れてくること。一人でも欠けた時には、この契約はナシね。でもミキさんの腕なら、それくらい出来るでしょ?」
ミキは自分のあてがわれた機体に駆け寄ると、タラップを登り、すかさずコクピットへと乗り込んだ。
そしてミキは、首に下げているドッグタグをコクピットのパネルにゆっくりとかざしてみた。
ミキがいつも首から下げているオキャーマ陸軍のドッグタグはICチップが内臓されており、これがAAの起動キーを兼ねているのだ。また、AA機体の個人ごとのセッティングや戦績も、このドッグタグには記録されている。
(……動くんか!? )
一瞬の沈黙の後、起動音と共に計器類が一斉に目を覚ます。
ミキの正面にあるコクピットのディスプレイには、ミキのかつてのコールサイン「Blue Lightning」の文字が輝いていた。
ミキは今回あてがわれたブルーライトニングの調子を見るため、しきりにAAの機体を足踏みさせたり、両手を握りしめたり離したりしている。
もう二度とAAには乗るまい、と決めて軍から離れたミキであったが、実際に自分の乗っていたAAに触ると当時の気分が色鮮やかに甦えり、熱い血が騒ぎ始める。
「……若干調整が甘えけど、まあ後から直しゃええわ」
ミキが久しぶりに乗るブルーライトニングに夢中になっていると、下からマダムKの
「ミキさーん、それじゃああと4人のスカウト頼んだわよ!」
と叫ぶ声がした。
「任せえ!残り4人、雁首揃えて連れて来ちゃる!」
ミキはブルーライトニングのスピーカー越しに答えた。