★第一部★
『たとえ科学が人を蘇らせようとも、心は変えられない。
それすら可能になったとき、人は人でなくなる』
研究日記 123○×日
明日、待ちわびた日がついに訪れる。三十年前から人生を賭して取り組んできたこの研究にもようやくピリオドを打つことができる。
先日行われた最終試験の結果は良好。復元されたチンパンジー、オランウータン、ボノボは身体的欠損なく、一ヶ月たった今も健常であり、素性を隠したまま世界各地の動物園に寄付され、他と馴染んで生活しているという。一方、遺伝子情報をサンプリングされた個体に関しても異常は確認されておらず、元の生活に戻っているという。最後のテストケースである個体と復元体の対面、つまり自分自身との対面、接触も問題は起きなかった。知能の高い霊長類たちは対面した瞬間、それが過去の自分であることに気付いた様子で戸惑いを見せた。が、時間の経過と共にそれを紛れもない事実と受け入れつつ、自己と隔てた固体として認識したようすだった。
【DNA情報を電子化し、それに質量を持たせる特殊な素粒子レーザーをあてがい、物質を復元させる】
その意味を理解し、人間の倫理を超越した私の研究に必要な莫大な資金の援助を幾多の企業や各国の富豪たちが申し出た。この研究が成されれば、様々な意味で世界が変わるだろう。しかし、それらは私には関係のないことだ。私は今まで、自分の目的の為だけにこの研究に没頭してきたのだから。あした世界が壊れようとも、私はナルミを蘇らせる。
この日をどれほど待ったことか。
ナルミ、明日、君に会える。
それがわかっていても待ち遠しくてたまらない。