2人のアダルトチルドレン
愛子が小学5年生の時、両親は離婚をした。
それから母は女手1つで愛子を育ててきた。小さい頃から愛子は鍵っこだった。
仕事で母親の帰りは20時より早い事はほぼ無い。兄弟もいなく家にいつも1人、TVを見たり本を読んだりして愛子は母親の帰りを待つ。
母は家ではよく疲れた顔をしていた。自分の為生活の為に母が頑張っている事は幼いながらも理解はしていたのだが不満も不安も愛子は抱えていた。
母は愛子によく手をあげた。時間をかけずに子供をわからせるにはそれが手っ取り早かった。
「もっとしっかりしなさい。あんたがちゃんとしないと私が変な目で見られるのよ」
「父親がそばにいなくたって立派に育ててみせる」
「あんたはよく男を見極めなさいね」
母からよく出て来た言葉はそんなものが多かった。
愛子の家庭にも少子化による1人っ子のマイナス面、特に幼少期において親からの無償の愛を受ける事が不足している<アダルトチルドレン>の弊害は起きていた。
問題を抱える親の元で育った子供達。彼らは親からの<条件付きの愛>を受け取る為に親の意向に従わなければならない。躾と言えば聞こえはいいがそんな簡単な物ではない。上手な躾の仕方を知らないのには理由もあるのだとは思うが、親になった以上の責任を放棄しているとも言えなくもない。
そんな親子の間には共依存が生まれる。
親が子供の精神を支配する行動が、子供の<支配された>という特別な感情を生み出し、奇妙な安心感が生まれてしまう。お互いその関係に依存するのだ。
反抗するよりも支配されている方が家庭で問題は起きない。大樹も愛子も小さい頃から自然とその処世術が体に染み込んだ。
そして自分がされてきた事を相手にもしてしまう負の連鎖が起こる。それを断ち切る事は本当に難しい。2人とも気づいていないせいもある。いや、もし気づいていたとしても難題なのだろう。
愛子は高校卒業後、とある田舎町の医療福祉大に入学した。
母は愛子を立派に育てる為、勉強には力を入れさせていた。愛子が人の為になる仕事を望んだのも母の影響である。看護士になりたかった。
それだけではなく、母から解放されたかったのかもしれない。自分を全く知らない人達に囲まれる生活を望んだのもあるのだろう。
きっとここでの新生活は自分にとって素晴らしい物になる。そう信じたかった。同じ価値観の人間が、または素敵な白馬の王子様がきっと現れる。私を救ってくれる。1人で引越しのダンボールを開けながらそんな期待を胸に秘めていた。
部活やサークルには所属しなかった。昔から恋愛が主な活動だった為である。それでもクラスの皆とは仲良くできて友達になれた。もちろんその中には男子もいたのだが王子様はいなかった。後ろ髪を引かれそうなダメンズもいなそうだ。
自分の恋愛対象になりうる人をこっそりと隈なく探した。恋愛無しでは生きていけない。
恋がしたい。今度こそ素敵な恋がしたい。今すぐしたい。
そんな衝動に駆られつつも中々これといった人は見つからない。初めての1人暮らしに戸惑って頭の中を恋だけで埋め尽くす事ができないせいもあった。
母からは仕送りをもらっていたものの、あまり負担をかけるわけにもいかなかった。
友達と昼食を終えた愛子は生協へと向かった。そこにはバイト募集も置いてあると聞いたのだ。
沢山壁に貼り付けてある募集を端から順に目で追っていく。勉強もしなくてはならないのでなるべく時給はいい方がいい。まぁ勉強の時間よりも恋愛する時間を捻出する為ではあるのだが。
田舎町で時給が1000円を超える物など皆無に近かった。もちろん夜のお店など生協にある訳はなく、するつもりも無い。時給7~800円の募集が続く中、1つだけ時給¥1000~と書かれた用紙があった。
・福祉大生 歓迎
・未経験でも大丈夫
ワードで作成されたと思われる用紙を愛子は穴が開きそうなほど見つめた。電話番号などを手帳にメモし、その場を離れて午後の授業が行われる教室へと向かった。
夕方家に着くと、携帯と手帳を取り出して電話をかける。数回のコール音の後電話が繋がった。
「私、福祉大1年の久住と申します。学校の生協でアルバイトの募集を見てお電話したのですが」
「はい、アルバイトですね?今丁度人手が足りなくて困っていたんですよ」
電話口の男性はそう答えて苦笑していた。
「面接の日時はいつがよろしいですか?」
いつでもよかった愛子は、私は学校終わりならいつでもと答えた。
「じゃあ少し急ですけど明日の17時とかどうでしょう。土曜日は19時から授業なので」
何の準備もしていなく少し面食らったが、愛子はその時間でお願いしますと言った。
「ああ、私、塾長の松木と申します。それで明日なのですが主任の栗原が面接しますので」
学習塾コネクトの塾長の松木は割と若い声をしていた。30代だろうか。
「はい、栗原さんですね?」
そう確認した後、よろしくお願いしますと告げて愛子は電話を切った。
翌日、聞いていた目印を頼りに塾の場所を探した。まだ地理にさほど詳しくなかったので少し迷ってしまった。建物は割りと小さめで個人経営の塾のようだった。名前を聞いた事が無かったのもそのせいだろう。
「こんにちはー」
ドアを開けて挨拶をすると奥から20代半ばくらいの男性が顔を出した。
「本日面接させて頂く久住と申します」
愛子はそういって軽く会釈をした。
「久住さんですね?塾長から話は聞いています。栗原です。よろしく」
堅苦しくないフランクな雰囲気と言葉遣いだなぁと思いつつ愛子は大樹を眺めた。自分と比べると少し大人な感じを漂わせていた。
塾内は割りと小奇麗で生徒用の机に案内されると2枚の紙が用意されていた。
「じゃあ、まずは簡単なテストを」
大樹はニッコリと微笑んでいる。
「テスト……ですね」
まあ面接だけとは思っていなかったが大丈夫だろうか。何の復習もしていなかった。
「中学生LVの簡単なものですから」
そう言う大樹の笑顔は悪魔のようにも見えた。
1時間ほどかけて数学と英語のテストの解答欄を埋めた。とりあえず全部埋めたがどうだろうか。
「では面接を」
それに付け加えて、缶で申し訳ないですが、とお茶を出された。大樹が先にプルタブを開けて飲み始めた。飲みながらでいいので、そう言って面接が始った。
テスト前に渡してあった履歴書を見ながら大樹の質問が始まった。
「久住 愛子さん……。今までは苦渋に満ちた愛が多かったですか?」
でもいいお名前ですね、と開幕から駄洒落で攻めてきた。愛子は苦笑いと相槌だけに留めた。
この春からこちらに来て1人暮らしなんですねぇ、慣れましたか?と大樹は言う。受け答えを済ませた後、失礼ですが、と大樹は次の質問の前フリをした。
「お母さんとお2人だったのですね?」
そう言った大樹の表情は今までずっと笑顔だったせいだろうか、なぜか必要以上に暗いものに伺えた。今までも片親だった事を聞かれた事はよくある。皆少しすまなさそうにしているのだが、大樹のソレは少し違って見えた。
「お母さんの負担を減らす為ですか。偉いねぇ」
大樹の表情が優しいものへと変化した。その後はよくある質問が続き20分程で面接は終了した。
家に到着した愛子は夕飯の準備をしながら面接を思い出していた。個別授業なので中学生をある程度教えられれば平気だと大樹は言っていた。塾の講師に対する不安は薄れていたのだが、愛子には少し引っかかるものがあった。
あの栗原という男性の事が少し気になっていた。自分より7~8歳だろうか、年上の男性との接点が今までほぼ無かったのも関係あるのかもしれない。さほどカッコイイとは思わない、でも清潔感のある大樹を気になっていた。小さい頃に父と離れ年上の男性に対するファザコンのような感覚も少しあるのだろうか?
ただ。
一見、清潔感はあるのだが。なんとなく違和感を、大樹には何か陰があるような気がする。
ご飯を普段よりもゆっくり噛みながら、愛子は大樹の事を考えていた。
えー、迷ったんですがより理解して頂く為、説明過多になったかもしれません。
依存症になってしまった大樹と愛子の理由と経緯をもっと上手く表現できれば良かったのですが。
ちなみに多分ですが、<愛ってなぁに?>1話前半と<redo>1~6話と、これを書いている人は同一人物です(笑)
慣れない事をすると疲れます。エロがいいよエロが。
エヴァンゲリオン・輪るピングドラムで得た知識をベースに頑張ってみました。
ラブサーバー・redoに続き、会社企業名は全てコネクトです。訳がわからないよ。
1作目からこれまで超低評価作品ですが、我慢して最後まで読んで?(読者依存)