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いつもいつも

 「お前って重たいんだよ」


 その切り捨てるような冷たく棘のある言葉を久住クジュウ 愛子アイコはこれまでも何度か耳にしていた。




 中学の頃から愛子が好きになる男のタイプは似たような感じだった。他にとりえのないイケメンであったり、ダメンズだったり。


 

 見た目以外にも自分に自信を持っているイケメンはまだいい。愛子が好きになるのは割りと見た目だけの残念イケメンが多かった。


 残念イケメン達はその見た目からそれなりに自信を持っている。よく告白もされるしまあ当然だ。自分に魅力を感じない愛子が惹かれるのもわかる。だが一見自信満々な彼達は以外と脆い。見た目以外の自己評価が低く捨てられた時のダメージは他者よりも大きい。その恐怖から複数の恋人を作り保険をかける。相手は自分にご執心、自分は安全な場所にいたがるのだ。いわゆる<回避依存症者>である事が多い。


 ダメンズに関しては私がどうにかしてあげなきゃ、と強く思う。人から必要とされない自分でもこの人の役には立てる。そう考えて尽くしている自分に酔いしれる。相手を追いかけている自分が好きで、いつかこの人が変わってくれると考える。友人にやめたほうがいいよと言われても一切耳を貸す事はない。


 「あなたには彼の良さがわからないのよ」


 愛子が友人によく言う台詞の1つである。

 


 そんな男達に嵌りやすいのが愛子のような女の子だ。実際には可愛い部類に属するものの自分に自信がなく、初めのうちは相手の顔色ばかりを伺う。例え首尾よく交際が始まったとしても常に見捨てられる不安がつきまとうのだ。


 「こんな時間まで、今日はどこ行ってたの?」


 相手の行動を全て把握したがる。


 「どうしてすぐメールくれないの?」


 放置される事が不安でたまらない。


 「あなたにはこういう服が似合うと思うよ」


 「牛丼好きってなんだかちょっと。パスタとかどう?」


 「お揃いのアクセしよ?」


 「初恋の人ってどんな人?」


 「今まで何人と付き合った?」


 「携帯見せられないのは見られて困る事してるから?」


 「浮気する男って最低。あなたは違うわよね?」


 「次、いつ会える?」


 「私の気持ちわかってる?」


 「最近私に飽きてきたの?」


 「体が目当てなの?もっといっぱいキスしてよ」


 「手をずっと握ってて。安心するの」


 「これ私大好きなの。あなたも好きになって?」


 「あなたのいい所、私だけは知ってるわ」


 「あなたを応援するのが私の役目」


 「体に悪いんだから煙草やめたら?あなたの為よ」


 「あなたしか考えられないの」


 「私にとってあなたが生きがいなの」


 「私の事、本当に好き?」


 「ごめんね、私の努力が足りなかった。これからは反省するから。だから……」


 「あなたには私が必要なの」


 「あなたと一緒なら他に何もいらない」


 「どうしてわかってくれないの。あなたの事を考えて……」


 「私があなたを変えてみせるっ」


 「なんで私ばっかり、こんな思いを……」


 「いっぱい愛して。もっと私を見て」


 「いつもそばにいてよ」


 



 愛子は恋愛依存症だった。別れるときは相手にうんざりされるか、自分を理解してくれない相手に嫌気がさすかのどちらかだった。付き合っても長続きする事は無く、すぐに破局になってしまう。




 

 「重いって何よ。いつもあなたの為にしてきたのよ?」


 愛子の瞳に映っている、信弘に対して喧嘩越しに怒鳴りつけた。怒りで体温がどんどん上がっていく。


 「わかんねーかなぁ。お前のそういう所が最初からキツかったんだよ」


 投げ捨てるように言い放つ信弘をさらに愛子は睨みつけた。


 「最初から?すぐに言えばいいじゃない。この2ヶ月ほんとに無駄な時間を過ごしたわ」


 苛立ち、悲しみ、哀れみ。いろいろな想いが愛子の胸の中で交錯する。


 「あんたなんて私がいなくなって野垂れ死ねばいいのよっ」


 拳を力強く握り締め、ありったけの声を振り絞り愛子は叫んだ。


 「はぁ……。もう俺、他に彼女いるから」


 深く溜め息をついた信弘は、愛子に不憫な捨て猫でも見ているかのような眼差しを向けそう告げた。


 大きく振りかぶった愛子の右手は一直線に信弘の左頬へと飛んでいく。


 「そこまで最低だとは思わなかったわ。こっちこそ願い下げよ。ああ、せいせいしたっ」


 愛子はこぼれそうになる涙をなんとか押さえ、勢いよく振り向き足早にその場を立ち去った。




 近くの公園に行きトイレへ駆け込む。出しっぱなしにした水道の水の音がきちんと耳に入るようになったのはそれからしばらくたってからだった。ふと顔を上げて鏡を見ると泣き腫らした酷い自分の顔が映し出されていた。


 「あんな奴の為に流す涙なんかない」


 心の中でそう叫ぶと水を両手で掬い何度も顔にかけた。


 ハンカチを取り出し顔を押さええながら、少しだけ空気を取り込んではゆっくりと時間をかけて吐き出す。再び鏡の中の自分をみつめ唇を噛み締めた。


 「手遅れになる前にわかってよかったのよ」


 意識せず自分に暗示をかける。体の力がゆっくりと抜けていった。




 --現実ってどうしてこうもロクな男がいないのかしら。


 帰り道そんな事ばかり考えていた。今まで付き合ってきた男達の顔が脳裏に浮かぶ。


 「私ってホント男運ないなぁ。前世で悪い事したのかしら」




 確かに相手の男達にましな人はいなかった。


 だがそれは自分のせいでもある事を愛子が考える事は無かった。

 

愛子だけでなく、大樹は恋愛依存症でもありますね。

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