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決意

ここから愛子視点です。

 1日ぶりに2人で過ごす私の部屋。昨日お掃除もしたし、いろんな処理もしたしっ。準備バッチリ!


 ーーって何の準備よ、愛子のエッチっ!!!!


 セルフツッコミをするほどウキウキが止まらなかった。


 でもこんなにそばにいるのに大樹は何もしようとしてこない。疲れてるのカナ?


 だったら私が癒してあげるっ!


 大樹を見つめながら瞳を閉じて待つ。だって自分からするのは恥ずかしいもの。でもお膳立てはしてあげるっ。




 ……。


 あれ、オカシイナ?


 目を開けると大樹はこちらを見つめている。




 「昨日話した事なんだけど」


 突然大樹が口に出した。昨日??


 「ファミレスで言ったよね、4年彼女がいないって」


 なんだかとても嫌な予感がした。返事もできずに固まってしまった。


 「20歳の時から23歳まで、付き合っていた子がいたんだ」


 悲しい顔をしたあの時の大樹を思い出した。そして同時に4年間という歳月に驚いた。自分はいつも3ヶ月くらいで終わってしまう。


 「そしてその子と別れてからずっと、人を好きになった事がないんだ」


 大樹はそう言い終えると視線を逸らした。


 「まだ、好きなんですか?」


 気がつくとそう質問していた。


 「もう結婚もしてるから」


 質問には直接答えずに、ぎこちない笑顔で大樹は言った。でも4年も経ってしかも結婚もしているのに、他に好きな人ができないという事はきっとそういう事なんだろう。


 涙がこぼれてきた。裏切られたような気持ちもあったけれど、でもそれだけじゃない。


 「ごめん」


 本当にすまなそうに大樹が言う。


 「だから、もう……」


 大樹が言いかけた言葉にかぶせて尋ねた。涙を拭って声に出す。


 「私の事、嫌いですか?」


 「嫌いじゃないよ、可愛いし、いい子だと思うし」


 それを聞いて少し安心した。それじゃあ……


 「じゃあ、私を好きにさせてみせます」


 大樹は戸惑いを隠せないでいる。愛子も自分で言ってビックリしていた。







 こうして恋人のような関係は始まった。恋人とどこが違うのかといえば表面上は特に何もない。大樹の心の中に忘れられない人がいる以外は。大樹はとても優しくしてくれる。沢山甘えさせてくれる。そばにいてくれる。浮気もしいている気配がない。今までの彼氏よりもよっぽど彼氏らしかった。世の中、口先だけで愛してるなんて言う男もいっぱいいるのだ。本当の愛なんて本人にしかわからないのかも知れない。世間一般の恋人達だって実際はどうなのだろうか。相手の気持ちなんて見えないのだから。



 あれ以来、愛子からキスをするようになった。大樹からは絶対にしようとしてこない。1度思い切ってキスの先に進もうとしたのだが、それは大樹に断られた。別に体で誘惑しようと思った訳ではないのだが、たまに見せる悲しい表情につい何とかしてあげたくなってしまうのだ。


 

 3ヶ月が過ぎた頃、愛子は大樹に向かって言った。


 「大樹さん、3ヶ月ですよ3ヶ月っ。すごくないですか?」


 ちゃんとした恋人とは言えないかもしれないが、愛子にとってはすごい出来事だった。


 「何がすごいの?」


 大樹の目は ?マーク になっている。


 「私いつも長続きしないんですよ。記録更新ですよっ!」


 愛称きっといいんですねっとアピールも添えた。


 あまり実感のない大樹から質問が飛ぶ。


 「今まで別れた理由ってどんなのだった?」


 返答に少し躊躇した。プラスに受け取ってもらえる気がしない。


 「相手が全然私の気持ちをわかってくれないのが嫌になったり、重いって言われたり……」


 それから過去の恋愛遍歴を話した。途中少し涙を拭きながら。未練は一切無かったのだが悔しさがまだあったのだろうか。


 「いつもダメなんですよねぇ」


 笑いながら言った。うまく笑えているだろうか。


 ティッシュを手に取り目頭にあてながら続けた。


 「困っちゃいま……」


 台詞を途中で遮られた。話せなかった。大樹の唇で押さえつけられて。


 ずっと大樹からキスしてくれる事など無かったのに。



 とてもとても長いキス。それとともにきつく抱きしめられる感触がなんとも言えず心地良い。


 涙を吸うように目の周りにもキスされた。ウットリとしているうちに大樹の手は優しく全身を駆け巡っていた。嫌では無かったが突然の出来事に驚いた。キスも手も止まりそうな気配はない。吐息も声も漏れ出してしまっている。一度ちょっと落ち着きたかった。息継ぎの間を狙って声をかける。


 「大樹さん?シャワー……」


 またしても途中で、口に栓をされた。キスしたままベッドに連れて行かれる。その後気がついた時には何も身に着けていなかった。


 もう何も言おうとは思わなかった。大樹の首に両手を回すと後は身を委ねた。





 「約束破って……ごめん」


 お互いの顔が見えるように腕枕されながら、呼吸の落ち着いた大樹が謝ってきた。


 「別に約束してないですよ。それに」


 「それに、嬉しかったですよ。愛してくれて」


 私が思い出して泣き出してしまったせいで大樹に火がついてしまったのだろう。傍から見たらいいものではないのかもしれない。この一瞬だけの強い思いなのかもしれない。でも、それでも良かった。今はすごく幸せを実感できているのだから。


 その日、初めて大樹の胸の中で眠りについた。 

  

 

 

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