表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

楽になりたい

今回も大樹視点です

 「失敗だった……よなぁ」


 大樹は全身にニコチンが回るほど大きく吸い込むと車の灰皿を押し戻した。いつもよりアクセルを踏み込む。





 悩ましい甘美な空気がようやく消えた頃、ベッドから起き上がって床に散らばっている服を手に取った。


 「帰る……の?」


 さもそれが一生の別れであるかのように愛子が口にした。今日が2人での初めてであり女の子がそんな気持ちになるのもよくわかるのだが。


 「俺も愛子ちゃんと一緒にいたいんだけど。本当にゴメン。俺、1人じゃないと眠れなくて……。明日も仕事あるしさ」


 実際に大樹はとても眠りが浅いのだ。中学の頃から。同じ部屋に人がいるだけでも気になる。小さいベッドに2人などもってのほかだ。秒針の音がする目覚ましなどあった日には一向に眠りにつけない。


 帰ったらメールするね。そういってキスを済ませてTシャツ1枚だけ身に着けた愛子と玄関まで辿りつく。ちゃんと鍵しめてね?


 


 こうして夜中に、家へと向かっている訳だった。


 まずいかなぁ。大樹は最近、身近な女の子に手を出す事は無かった。友達の友達や職場など後から面倒な事になるのが嫌だった。繋がりはあるけど薄い関係、本気でない関係にはメル友が最適であった。


 無理強いはしないが雰囲気には逆らえない。それにファミレスで思い出してしまった人の事を頭の中から取り除くには、こうするのが一番だった。


 週に4度も顔を合わせるのに自然消滅はありえない。なるべく傷つけない別れ方を模索する。だって好きになる事は多分ないのだから。


 家に到着しお風呂に入りながらも考えて、頭の中の答案用紙に記入した。





 --解なし。



 いい答えはなかった。後で考えよう。居心地良い自分のベッドに入った。




 携帯のアラームで目が覚める。眠る時はいつもサイレントーモードにしていて気づかなかったのだがメールが来ているようだ。予想通り愛子からだったが予想と違うものがあった。


 「おはよう大樹さん。ぐっすり眠れましたか?」


 「まだ寝てるのかな?学校に行きますね」


 「もうお昼ですよ?ネボスケさんですねっ」


 要約するとそんな感じの3件のメールが届いていた。


 ごめん今起きたよ。もう少ししたら仕事行くね~。そう返事をして携帯を閉じた。




 自分がメル友とやり取りする時は、交互に1件ずつ返信する事が多かった。返事が来ない時は忙しいんだろうと思っている。


 だから3件もきていた事がすごく嬉しかった。と同時に絶対に手を出してはいけない相手だったのではとも思った。





 14時頃塾に到着し、いつも通り準備を始める。今日は愛子は来ない日だった。


 生徒の入れ替え時の休憩時間に携帯を見ると愛子から1件だけメールがきていた。


 「今日は会えますか?」


 昨日あんまりよく眠れなくて、と言い訳をした。仕事終わったらメールしようねと付け加えて。





 仕事を終え車に向かいながら携帯を開くと、22時ちょうどに愛子からメールが来ていた。


 「お仕事お疲れ様です」


 今終わったよーと返事をするとその日は夜中までメールが続いた。こちらが返すとすぐに返事が来るので食事中も、風呂場にまでも携帯を持っていくはめになった。





 「今日は会えますねっ。19時が待ち遠しいです」


 土曜日に愛子のシフトが入っているのは昨日のうちに調べた。次に顔を合わせる日を知りたかったからだ。そのメールに適当に返信しながら仕事に向かう。



 塾に来た愛子は特に変わった事はしなかった。さすがに秘密にはしてくれるみたいだった。


 「今日は一緒にいたいな。駐車場で待っててもいいですか?」


 休憩中に携帯を見るとそんなメールがきていた。さすがに今日は断りにくい。





 愛子が塾を出た5分後に大樹も駐車場へと向かった。ごめんねーといいつつ車に乗り込む。


 ご飯作りますよと愛子が申し出たのだが、時間が遅いからと外食で済ませた。


 一緒にいると楽しいのだが、どんどん罪悪感に蝕まれていく。





 「昨日、お部屋を綺麗にお掃除しておきましたっ」


 愛子の家の前で助手席から声がした。大樹はエンジンを切り差し出された手を繋ぐと部屋へと向かった。


 今日は初めからくっついて座って音楽を聴いていた。完全に体を預けている愛子を支えていいものか悩んだ。


 愛子は好きな歌手の説明をしてくれている。この曲とこの曲が最高なんですよー。


 ひとしきり説明も終わり、大樹のシャツを可愛らしく掴みながら愛子が上目遣いでジッと見つめてきた。2人の距離が近づき愛子が瞳を閉じる。





 「どうかしました?」


 唇が触れ合わない事に疑問を感じた愛子が目を開けて心配そうに大樹に向かって投げかけた。





 愛子はすごくいい子だと大樹は思っている。だからこそ。そこには自分が楽になりたいのもあった。少し離れて大樹はとうとう言葉にした。




 「昨日話した事なんだけれど」




 



 


 




 

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ