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第2話 裏ボス

 日は沈み、太陽の代わりに月明かりが世界を照らしていた。


 チームAが全滅したとのメッセージが、HMDヘッドアップディスプレーに表示された。おそらく、ゾンビの大群に対処しきれず全滅したのだろう。

 チームBも、既に全滅しており残ったのは、チームCの斎藤だけだ。


 三階に居た斎藤は既に東階段に到達しており、後は屋上まで二階分階段を昇るだけだ。

 屋上までの最大の問題は、その暗さだった。

 東階段の窓についている窓は小さく、また他の生徒の利用もないため、ひと際暗かった。

 さらに、階と階の間の踊り場には、窓すらなく、その暗さは学校と言う公共建築物にはあるまじき暗さと言ってよかった。そして、それが問題にならないは、それほどこの階段の利用が少なかった。

 常識的に考えれば、照明を点ければ良いだけなのだが、GHにおいて、暗がりの中、明かりを点けることは得策ではなかった。下手に明かりを点けると、プレイヤーが点けた者と判断され、怪物寄ってくる設定になっているためだ。

 階を移動するゾンビは、既にチームAかチームBを倒しに向かっており、階段に残っているのは大きく移動することができない定位置型のゾンビのはずだ。

 ならば、ゾンビの数は予想できた。階段の踊り場は合計で五つ。

 階段の踊り場毎に、ゾンビが二体いるとして、最低でも十体のゾンビを倒さなくてはいけなかった。

 しかし、ゾンビの種類が変わったわけではないので、斎藤は、廊下の時と同じように、タイミングを計りながら、確実に階段を上がって行くだけだ。

 階段のわきにある小さい窓から差し込む月明かりを頼りにして、先に進んだ。

 斎藤は、十体のゾンビを倒し、屋上への扉の前に到達した。

 この扉を潜れば、残りはボス戦だけだ。


 銃を構えながら扉を通ると、月明かりの下、屋上には制服を着た一人のゾンビ少女が居た。

 ゾンビ少女は屋上に書かれた魔法陣の中央に立ち、斎藤の方を見つめていた。


『この少女がボスなのだろうか?

 ボスだとしたら、怪物に化けるか、怪物を召喚するのだろうか。それとも、この姿のまま、攻撃してくるのだろうか』

 フィールドの情報には、ボスを倒せとあるだけで、ボスに関する情報はなかった。一般的にこのような場合、GHではボスは固定ではなく、マンネリを防ぐために同じ程度の強さの怪物を複数設定することが多かった。


 相手がどんな敵か判らなかったが、とりあえずは、先手必勝だと思い、斎藤は、少女のゾンビに向かい銃を撃った。

 だが、何も反応はなかった。

 まさか、銃が利かないボスなのだろうか。

 だとしたら、クリアは不可能ではないか。いや、それは考えられない。

 装備は現実の武器のみと制限されていたのだから、銃が効かないボスがでることは考えられなかった。

 だとしたら、考えられる選択肢は・・・


「あなた・・・もしかして、ゾンビじゃなくて人間ですか」

「当たり前でしょ。なんで私がゾンビなのよ」

 ゾンビ少女は、ゾンビとは思えないほどの大声で怒鳴り返してきた。どうやら人間だったようだ。

 しかも、よく聞き覚えがある怒声だ。生徒会副会長の木下千歳きのしたちとせの声だ。


 その直後、ボス登場のイベントが発動した。どうやら、魔法陣から召喚されるボスだったようだ。

 何の偶然か、現実の木下千歳の背後で、CGの悪魔が召喚された。

 その光景はまるで、木下の怒りが具現化したかのようだった。



 この学校に風紀委員はなかったが、生徒会がその役割を担っていた。

 つまり、木下はGHのプレイヤーを取り締まるために、手の込んだことに逃げ場のない屋上に先回りしていたのだ。

 そして、斎藤は強制ステージ転送で、生徒会室に運ばれた。


      ◇      ◇      ◇


「なんで、僕だけ捕まるんですか。他の人もやっていたでしょ」

「だったら、名前を上げないさいよ。連れて来るから。言えないでしょ。仲間を裏切ることになるから」

 木下千歳きのしたちとせは、斎藤が言わないことを判っていて挑発した。

「それにしても、ずいぶん、幼稚な言い訳ね。他の人がやっていたからと言って、あなたの罪が許されるわけではないのよ」

「確かにそうだけど・・・」

「それに、斎藤だけを捕まえている訳じゃないのよ。この間は、大田も捕まえましたわ」

 確かにそれは間違いなかった。

 しかし、斎藤には、木下が斎藤を目の敵にしているように感じられた。

「斎藤? 警告受けたのは、今日のを入れて何度目」

「今回で、三度目です」

「そうよね。私の記憶でも、記録でも三度目。三度目で、どうなるんでしたっけ」

 木下は判り切ったことを、斎藤をイタぶるように尋問した。

「道具の没収です」

「その通りです。では、規則通り、没収します」

「木下さん。そこは大目に見てもらえませんでしょうか」

「なぜ、私が大目に見ないといけないのですか」

「同じ中学時代同じ部活だったよしみで」

「駄目よ」

「じゃあ・・・・今日は、木下さんがとても可愛いから」

 可愛い。その言葉に、一瞬、木下は戸惑いの表情を見せたが、すぐに元に戻った。


「そんなお世辞を言っても駄目。そういう甘い考えがあるから、過ちを犯し、繰り返すんだよ」

「確かにその通りです。おっしゃる通りでございます。しかしですね。その・・・・GHの道具は、とっても高価なものでして・・・簡単に買える物ではないのですが・・・」

「いくらぐらいするんですか」

 側に居た生徒会書記である平田理絵が口を挟んできた。

「HMDと銃とダガーとボディセンサーで、四万円くらいです」

「そんなに、高いんですか」

「高いんです。でも、これでも安い方なんですよ。良いやつだと、銃だけで十万円はしますから」

 平田理絵は、金額を聞き率直に関心していた。

「だったら、没収されるのが判っていて、なんで学校に持って来たんですか」

「おっしゃる通りでございます」

「私知っているのよ。あなたのこれは、没収されても良い学校用なんでしょ」

「それを誰から聞いたのでしょうか」

 心当たりはあったがとりあえず、斎藤は訊いてみた。

姫川歩ひめかわあゆむに決まっているじゃない。あんた夜な夜なトレーニングもしてるんですってバカじゃないの」

「余計な御世話だよ」

 結局、スマホはゲーム以外にも用途があると言うことで、辛うじて没収は免れたが、それ以外は、全て没収されてしまった。


「これどうするんですか? ネットで売って生徒会費にでもしますか」

 平田理絵が木下に質問した。

「それ良いアイデアね。中古でも一万円くらいには、なるかもしれないわね」

「先輩。本気で売る気ですか」

「冗談よ。一ヵ月くらい経ったら返すわ」

「それにしても、GHの道具って高いんですね。GHって、そんなに面白いのかな」

 GHは知名度は高いが、販売禁止になっている上、道具や装備の価格が高いため、未経験者の人が圧倒的に多い。

「やってみる。道具はここにあるわよ」

「止めておきます。ハマって、幻覚とか見ると怖いですし」

 何より、人々がやることをためらう最大の理由は、幻覚を見るほどの中毒者(依存症患者)が続出したためだ。

 類似のゲーム中毒としてパチンコ中毒やネットゲーム廃人などがあるが、GHは幻覚を伴い、時として他人を怪物と認識し、襲うようになるなど危険性は他の中毒を大幅に上回っていた。

 そのため、麻薬中毒と同じように考え、嫌悪する人も多かった。

「そうね。GHなんてやらない方が良いわ。あいつも・・・中学時代は、あんな感じじゃなかったのよ。結構、部活とか頑張っててさ。GHやり始めてから、そっちにのめり込んじゃって」

「銃とか格闘技とか、好きだったんですか?」

「違うのよ。斎藤は昔から何とかライダーとか、なんとかレンジャーとか好きでさ。それの延長よ。男って、いつまでも子供で、バカよね」

 そう言うと、木下は、道具を生徒会室の棚にしまった。



 この没収が原因で、まさかあんな事になるとは、この時、誰も知る由も無かった。



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