第六楽譜:腐敗谷
この町の近くにある【腐敗谷】、そこに咲く地獄花は魔力を回復させる効能がある
俺は夜の平原にライドリザード(二足歩行で人になつきやすいトカゲ)に跨り、道を急いだ
――サーナ…待っていろ――
30分程ライドリザードをはしらせ
谷につく。ライドリザードのたずなを入り口付近の枯れた木に結び谷に降りた
谷の梯を降りた辺り、目の前に二人組が現れた
俺は剣を引き抜き構える
「親父臭いぜ!ロークス!」
この聞き覚えのある声は…
「……それを言うなら水臭い…だ…」
この二人組は…
二人組はマントのフードを取る、やはり、クロとピエールだ
「なんで来たんだ?」
俺は疑問をぶつけた
「……理由など…ない…」
クロはそういうとうつ向いた
「僕達は仲間じゃないか〜!」
恥ずかしい事を大声で言うのはピエール、頭を少し抱える
…人が居なくて良かった…
しかし、この二人は特にもならない事を頼んでもいないのに着いてきた
ただ…仲間と言うだけで…
「…へっ…うれしいじゃないか…」
ポツリと漏らした
「ん?なんだい?ロークス」
ピエールが眩しく歯を輝かせている
「……なんでもねーよ…それより…行くぞ!」
目の前から腐りかけた犬達が迫っている
俺は剣を構え走り出した、二人も俺と並んで敵に向かい出した
―――サーナ!死ぬなよ!―――
サーナの病状はよくない。さっき魔法内科の先生も来ていたが…これはサーナ自身の魔力回復力に頼るか
地獄花を摂取させる意外ないみたいだ
「……カナメ…そろそろ代わろう…貴女も休んだ方がいい。顔色が良くないぞ」
アシュカーが私を気遣ってくれている、でもサーナから目を話せない。容態が悪くなったらすぐに魔力を注入しないといけない
「ありがとう…けど駄目よ。アシュカーの魔力は闇でしょ?光のサーナと拒絶反応を起こすわ…私は火だから大丈夫なのだけど…」
そう言って、椅子から立ち上がり背伸びをする
「…うぅ…はあ…はあ…!」
サーナが更に苦しそうにうめいた
「…!」
カナメは急いで手を握り魔力を加えた
吐息が落ち着いた物に変わり、寝言を言った
「…ロ…クス…ロクス…」
さっきからずっとだ
ずっとロクスの名前を呼び続けている
肝心のロクスは…サーナを見捨てたと言うのに…
「ロクス…あなた最低よ…」
「ふえっきし!」
俺は谷の後半あたりデかいクシャミをした
「……風邪か?」
クロが歩きながらちらりと此方を見て聞く
「違うと思うが…」
俺はついさっきまで元気だった
風邪など引くわけがない
「…ふむ…では急ごう。サーナの魔力がつきかけている」
クロをびっくりした顔で見た
こいつ、どんな修行を積んだんだ?
魔力を探知出来る範囲は一般魔導士では半径一キロ位だ
ここから街まで20キロはある、恐らく神殿魔導士でも難しいだろう
「お前…魔法をつか…!」
クロに魔法を使えるかどうか聞こうとした
が
地面を砕くような雄叫びが聞こえた
「くっ…ダークドラゴンか!」
目の前には漆黒の鱗を持つドラゴンが翼で舞い降りていた
「…ふむ。下級のドラゴンだな…だが…そこいらの魔物よりはずっと協力だ…火は吹かないが魔法を使うぞ…」
ドラゴンは紅い目で俺達を睨むと翼を畳み後ろ足で立った
「速攻ケリを着ける!」剣を正眼に構える、剣に紅蓮の炎が吹き上がる
「真極!【炎帝剣】!」
高く飛び上がりドラゴンの頭に剣を叩き付けた
派手に炎が吹き上がったが
ドラゴンはうっとおしそうに俺を睨んだ
「あ、あれ?…効いてな…うっ!」
前足で吹き飛ばされた、岩壁に叩き付けられ血を吐いた
…肋が砕けた
「うは!ロークス!」
ピエールが俺の前に立ちはだかり槍で自分の鎧を叩いて耳障りな音を出した
【アピール】だ。魔物の嫌がる音を出し、自分に注意をひきつける、ドラゴンが魔法を唱え、闇の光線がピエールをうつがピエールは槍を扇風機の用に回し弾き飛ばした
「…ふん…」
クロがドラゴンの尻尾を掴み振り回し始めた
「はぁぁぁぁ…!」
ドラゴンはクロを中心にグルグル周り始める
そのウチ、残像が残る程のスピードが出た
クロはそれを放りなげた、ドラゴンが岩壁に叩き付けられ、怒りの眼差しでクロを睨んだ
「…大いなる爪よ…全てを引き裂け!【竜殺爪】」
クロの両手には風が渦巻いている、しかし、ドラゴンの眼がカッと見開かれ、クロの動きは止まった
ピタリと
「かっ…ぐ…う…」
苦しそうにクロがうめく。あれは石化の魔法だ
「おい。ピエール…久しぶりのアレだ」
「おう!アレか!」
「いくぜ…」
ピエールが【アピール】をし、注意を引く「見せてやるぜ…俺たちの技を…」
そして、ピエールと同時にアピールを行った、ドラゴンは一瞬どちらに向くか迷い、動きが止まった
「行くぞ!」
「うほ〜い!」
俺はドラゴンの後ろに周りこみ、尻尾を剣でぶっ叩く、岩を叩いたような感触が両手を襲う
ドラゴンがこちらを向いたが、すかざすピエールが【アピール】をした
ドラゴンがソチラを向く、また尻尾を叩く、【アピール】する、叩く、【アピール】、叩く
この繰り返しでドラゴンはとうとう怒りの雄叫びをあげ魔法の永昌に入った
「【炎帝剣】!」
俺は炎を宿した剣を、後ろ足で立ち上がったドラゴンの白い腹に突き刺した、そのまま上に切り上げた
切られたドラゴンの腹から内臓と鮮血が飛び散った
―グォォォ…―
苦しみの雄叫びをあげてのけぞる。ピエールが俺をふみだいに高くとびあがった
「ちょ〜ぜつっ☆【氷結乱刃】ぁ!!」
天空で掲げた槍から冷気の矢が降り注ぐ、冷気の矢はドラゴンに当たるとドラゴンの鱗を氷つかせ脆くした
そこに石化から回復したクロの飛び蹴りが命中、ドラゴンは悲鳴は出さず音を立てて崩れ去った
「ふう…さあ、地獄花はもうちょっと先だ…さっさと行こう」
俺はそう言って先を急かす。全員ボロボロだ、クロは石化の時、無理に動いたらしく体のアチコチにヒビが入り、そこから出血していた
ピエールはドラゴンの攻撃を終盤、一人で受けていたためボロボロだ
そして俺も魔力を使いすぎてふらつく体を引きずりながら奥へ向かって行った
「ロ………クス……」
サーナはとうとう動かなくなった
息はしている物の…体は死人のように冷たくこわばっていた
「サーナ!死んじゃダメよ!」
サーナの手を強く握りありったけの魔力を注ぎこむ
しかし、サーナはもううわ言を言わなくなった
虫の息だ
もう明け方、ロクス達は出て行ったまま戻らず、サーナはもう死ぬ
アシュカーはらしくない。隣で目に涙を浮かべ、それを溢さないように必死で唇をかんでいた
カナメは祈った。人間が崇拝する女神に
――お願い…サーナを…助けて!――
その時、廊下をドタドタと走り、私達がいる部屋を乱暴に開けたヤツがいた
「サーナ!!」
ロクスが戻ってきた、体中傷だらけで、目にはいっぱい涙を浮かべて。手には本でしか見たことない高価な薬草を持って
「地獄花だ!早く飲ませてやれ!」
カナメはロクスから投げられた地獄花を受けとり、急いでスリバチで刷り潰し、生臭い臭いを出す地獄花の擦り身をサーナの口に押し込んだ
サーナはそれをゴクリと飲み込んだ
しかし何も起きなかった