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はーとふる  作者: 玖洞
第一章 狼の試練
4/24

独白

突然だが、私の過去についてそろそろ触れてもいい頃だと思う。



……これは転生以前の思い出したくもない記憶の断片だ。戯言だと思って聞き流してくれてかまわない。









今の私のマイナス思考が根付いたのは、まだ幼さが残る小学生の時だった。






――世界は、私の為には出来ていない。それに気づいたのは、確か小学校高学年の時だったと思う。


それまでの私は自分の可能性に疑いなんて持たなかったし、努力することを無駄なことなんて思いもしなかった。


友達を信じていたし、誰かを憎む気持ちすら知らなかった。




きっかけは些細な事。


一学年上の少年達が、みすぼらしい野良犬を虐めていたので止めようとしたら逆に殴られた。それだけ。


……いや、むしろその後に偶々近くにいた同級生の男の子が彼らに挑み、無事野良犬を救出したことが原因だったのかもしれない。



悔しかった。それと同じくらい、同級生の男の子が妬ましかった。



彼は次の日クラスで英雄扱いされたが、私は悪者に殴られた哀れな被害者に過ぎなかった。


なんで?どうして?最初にあの野良犬を助けようとしたのは私なのに!!



まるで、子供のような癇癪。馬鹿みたいな暴論。それを聞いた彼はこともなげにこういった。





「仕方ないよ、○○ちゃんは弱いんだから」




その時の彼の表情は、もう覚えていない。多分、笑っていたように思う。何か他にも言われたような気もするが、「弱い」と言われたことが衝撃過ぎて記憶に残っていない。


彼とは所謂幼馴染の関係だったのだが、当然のごとく私たちの仲は最悪になった。まあそれも必然である。


私は彼のその言葉の意味を頭の中で繰り返し考えながら、やがて一つの結論に達した。



弱い。そうか私は弱いのか。


自分の正義も全う出来ない程に惰弱な人間だったのか、私は。


――私は、物語の中の格好いい英雄みたいな人間には絶対になれないんだ。



それを悟った瞬間、世界がとても恐ろしいものに見えた。


そして、私の現実は崩れはじめる。




私は自分が素晴らしい人間で、努力すれば何にだってなれるし、きっと誰よりも幸せな人生を送る事ができる。そう思っていた。だけど、――そんなのは大きな間違いだった。



その事実に、気づいてしまった。







……それから先は、まるで坂を転がる石のように落ちていった。




可能性なんて嘘。

努力なんてしても無駄。

人は裏切る生き物だ。

幸せな人間が憎たらしい。


どうせ、私は敗北者なんだ。




……そう考えた方が楽に生きる事ができる。





私の疑心暗鬼は止まることを知らず、いつしか私は友人を信用する事ができなくなり、やがて彼らは私から離れていった。そのことに安堵した自分が最も救えない。


何より、自分を信じる事すらできなくなった。


自身の能力すら私にとっては猜疑の対象になったのだ。


……中二病を拗らすのにも限界があるだろう、と今さら思う。遅すぎだ。





それでも諦めきれなくて足掻いたこともあったが、所詮私は凡人。



結局の所、どんなに頑張っても生まれもった才能を持つ者には敵わなかった。




能力があるから友達ができる。


能力があるから努力できる。


能力があるから勝利できる。



そんな事を少年漫画の悪役が言っていた。まさにその通りだと思う。




――能力者が無能力者に勝つ。




そんな救いようがない現実が、私にとっては耐えがたい苦痛だった。






秀でたものが何一つない私が、この世界の主人公になれるはずがない。


所詮私はきっと、未だ見ぬ主人公の為の踏み台なんだ。……そう、あの時の彼のような。




そんな鬱屈した思いを抱いて、私は重い病を患い死んでいった。





転生した今となっても、消すことの出来ない暗い記憶。それが、私の根底。魂の澱。






でもそんな風に考えて生きていく事は、今日で終わりにする。





過去は無かったことにはできない。でも、未来は今からでも紡げる。

ようやく、そう思えるようになった。





――本当は、諦めたくなんてなかった。



自分の可能性を信じ、直向きな努力をしたかった。


人を信じて、笑いあいたかった。


誰も恨みたくなんてなかった。


逃げてばかりいる弱い自分が、大嫌いだった。


――――――主人公(ヒーロー)に、成りたかった。






もう、いいだろう。




そろそろ自分を認めてあげよう。許してあげよう。


――私は、自分を誇ってもいいのだと。



世界はきっと私の為のものじゃない。でも、思っていたほど汚くはないんだ。


綺麗なものだって、探せばきっと見つかったはずだ。


ただ、私がそれをしようとしなかっただけなんだ。




今ならやっと神様に感謝できる。



ありがとうございます。


私にやり直しの機会を与えてくれて、本当にありがとう。


だから私は、これから精一杯、必死で頑張ってきます。





――もう私は、何も怖くない。




私はもう昔とは違う。一人ぼっちなんかじゃない。


あの頃の弱さに屈した私は、もういないんだ。



だって私は、リオンなんだから。




たとえ自分の為に頑張れなくたって、きっと彼らのためなら限界だって超えてみせる。



前へ進め、俯くな。考えろ、考えろ、考えろ。何かきっといい方法があるはずだ。



私にだって出来ることは、きっとある。



あの子の運命は、私が変えてみせる。――死なせない、絶対に。




弱くても、才能に恵まれなくても、格好良くなくても、たとえ脇役だったとしても、それでも、――――友人の一人くらいは救ってみせる。


ヒーローみたいに格好よくなくたって構わない。私には無様なくらいがちょうどいい。それでも最後に笑えたら私の勝ちだ。




――――さぁ、急ごうか。









私が西の森をかけている頃。





それとほぼ同時期、偶然にも村の東に王都周辺で『勇者一行』と呼ばれている集団が到着した。



……その事を私は知る由もなかった。









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