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はーとふる  作者: 玖洞
第二章
16/24

先輩

新章突入です。







「おいリオン!この皿を5番テーブルに持って行ってくれ」





「あ、はい。わかりました」





――あの逃亡劇から早一月半。私達は国境近くにある大きな街に来ていた。



私は夕方から朝までカジノでウェイターをし、シエルは日中服屋でお針子のバイトをしている。


一応変装にもならないかもしれないが、私は短く髪を切り、シエルは顔を隠すため普段は目深の帽子を被っている。


ここに来た当初はあまり出歩くと居場所を掴まれてしまうのではないかという不安から、宿から出ないようにしていたのだが、とある人物の協力によりこうして働く場を得る事が出来た。




――実は私は賭け事があまり好きではない。昔から思っていたがここで働くようになってその思いはさらに強くなった。


金銭を賭け、ゲームに興じる。中には一攫千金で億万長者になる者もいるが、たいていの場合は破滅を道を辿る。そういう人達を、この一月沢山見てきた。


でもそんな場所だからこそ、ここの給料はすごくいい。他の職種とは段違いだ。


だがシエルと勤務の時間帯が違うせいか、朝夕のご飯と非番の際にしか一緒に居る事が出来なくなった。村に居た頃よりも会う時間が減ったように思う。


でも、生きていくためには仕方がない事だ。なんだかんだいってもお金は必要なものだから。


今までの貯えがそれなりにあるので暫くの生活には問題がないのだが、『街』というものはなかなかどうして誘惑が多い。


村での質素な食事も悪いものではなかったが、やはり大きな場所だと調味料の種類が段違いだ。料理を楽しいと思ったのは生まれて初めてかもしれない。まぁそれはなんだかんだ言っても食べてくれる人が居るからこそなんだろうけど。






「よし、次は何処に――」





「おーい、リオン!」





裏に行って次のオーダーを取りに行こうとしたその時、私は背後から肩を掴まれて立ち止まった。……危うく転びそうになったぞ。



胡乱げな目つきで後ろを振り返る。犯人にはもう予測が付いていた。


私の後ろでひらひらと手を振りながら微笑んでいる男。そのへらへらした笑顔と特徴的な垂れ目がより男の印象を軽くしている気がする。


歳は私よりも3、4つは上だと思う。詳しくは知らないけど。





「……え、先輩どうしたんですか。今日はサボるってさっき言いませんでしたか?」




「いやぁ、そうなんだけどさ。ちょっと、ね」




人差し指を唇にやりながら、ふふっと笑うその仕草がとてもよく似合っていて、逆に何だかイラッとする。


この人がこういう仕草をする時には、大抵面倒な事が起きると一月の付き合いの中で私は悟っていた。




――彼の名前はラウル。姓は知らない。



彼との出会いは詳しく話すと長くなってしまうのだが、かいつまんで言うと、私とシエルが悪徳な詐欺に引っかかりそうだった時に助けて貰ったことが始まりだ。


その事や仕事や住まいを紹介してもらった恩もあってか、この人には頭が上がらない。


……上がらないのだが、それを逆手に取り無理難題を言ってくることがあるから注意が必要だ。この人が根っからの善人であったならば、こんな心配をしなくてもよかったのに。



先輩は先輩で色々と裏で怪しい事をしているようだが、できるだけ気にしないようにしている。


人は誰しも事情という物があるし、深く話せないのは私達だって一緒だ。こういう距離感は意外と心地が良い。





紹介された仕事先も給料はいいし、追手の連中だってまさかこんなに人が多く集まる場所で働いているなんて考えもしないだろう。


シエルの職場に関しても裏方として徹底しているので、心配ない。はず。






「いい加減にしておかないとオーナーに叱られますよ。ていうか私先輩がまともに働いているのを見たことがないっていうか……、ほんとにここで働いてるんですか?」



「うーん。働いてるっていうか、俺って特別枠だし?何もしなくても給料が出るようになってるみたいな?」



「……先輩、まさか貴方って人はオーナーの弱みまで握っていたりします?もしかしなくても、私みたいな身元不詳の人間があさっりとここで働けることになったのはそのせいですか!?」




「え、うん。そうだけど」




きょとんとした顔で即答する先輩。あ、珍しい顔。いつも人を喰ったような笑みしか浮かべないのに。



でも、てっきりオーナーにわざわざ頭を下げてくれたのだとばかり思ってた。思いっきり裏口じゃないか。どうりで上の幹部連中から仰々しいというか、腫物を触るような扱いをされるわけだ。納得した。いや、したくなかったけど。




「先輩って、……いや、やっぱりいいです」



「あはは。別に聞いてくれてもいいのに」



笑いながら先輩はそんな事を言う。……目、笑ってませんよ。


ここで好奇心に負けて聞いてしまったら一生後悔する気がする。私は街の裏事情なんて出来れば知りたくない。




「止めておきます。まだ私は死にたくないので。というよりも何か用ですか?今ちょっと時間帯的に忙しいんですけど」




「あ、そうそう。リオンってさ、もうすぐ誕生日じゃん?だからお祝いにイイトコ連れてってあげようかと思って。当日はきっと愛しのシエルちゃんと過ごすんだろうからさ、日にちはずらした方がいいでしょ?」




「愛しって……。シエルと私はそんな関係じゃないですよ。まぁ確かに誕生日は二人で過ごす予定ですけど」




「へぇ、報われないねぇ」




にやにや笑いながらそんな事を言われた。


まったくもって意味が分からない。邪推もいいところだ。


まぁ先輩にとっては、私もシエルも等しく平等に彼の暇つぶしの玩具なのだろう。私としてもその扱いには否を唱えたいが、そのおかげで得をしている事もあるのも事実。


それに先輩の人懐っこい気質のせいか、何故だか憎めないのだ。本当に得な人である。それも計算づくかもしれないという憶測はここでは考えない事にしておこう。そこまで言ってしまうとキリがない。




「祝ってくれるのは素直に嬉しいんですけど、何でそれを今言うんですか」




「ん?だって今から行くんだから当然でしょ?」





その言葉に思考が一瞬停止した。この人は何て言った?え、今?





「私、仕事中なんですけど……」




「――サボれ!」




グッと親指を突き出しながら、イイ笑顔でそう宣言する先輩をちょっと叩きたくなった。


サボれって、先輩じゃないんだからばれたら減給されてしまう。それはちょっと困る。




「オーナーにはもう言っておいたからさ、休み扱いにはならないよ。安心でしょ!」




「いやいやいや、逆に不安になるんですけどそれ」




そう言いつつもグイグイとスタッフルームにまで引っ張られる。着替えて来いってことですか、そうですか。


それにしても、緩そうな外見に反して意外と力が強い。……でもすでに言ってしまったものは仕方がない。折角何処かに連れて行ってくれるというのだから、大人しく受けようか。





やれやれと思いながら、何気なく行き先を聞いてみる。おいしい食事処なんかだったら嬉しいんだけど。







「それで先輩。私たちはこれからどこに向かうんでしょうか」





「――――館」






「え?」









「だから、娼館だってば」







――――誰か、この場から上手く立ち去る方法を今すぐ私に教えてください。








新キャラ登場です。暫くシリアスさんはお休み。

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