十津川の兄妹
雨が、頻りに降り続いる。
そんな、空を物憂そうに1人の少女は見つめていた。
「早く、雨が止まないかな。」
目尻がツンと尖った切れ長い瞳、白い肌。
名は、里兎。
この、十津川では幼いながら、指折りの美人とされている。
それでも、そのまだ小さい手には竹刀が握られていて、頭には白い手拭いを巻いている。
戦の、準備でもしているように見える。
「雨が、降っても剣は振れる。」
後ろから、声が伸びて里兎はハッと振り返った。
「兄ちゃん!」
兄の、藤太は里兎よりも5つ上で12。
総髪を、後ろで結いつけて背が高い。
里兎とは、目元が少し違って二重で幼さが残るように見える。
「家の中でも、剣は振れるだろ?」
藤太は、挑発的に微笑んで竹刀を里兎に向ける。
それに応じて、里兎も竹刀を藤太に向けた。
「やあっっ!」
里兎が、飛び竹刀を振り上げると藤太は身を沈めて里兎の籠手を打った。
いつも、この兄妹は竹刀を振り上げて遊んでいる。
それでも、防具も着けてはいないから叩かれれば痛い。
「痛いなっ!」
里兎は、キッと藤太をにらみ返してしゃがみ込んだまま足を撃とうとする。
それを、飛び下がってかわした藤太はいとも簡単に避ける。
「まだ、甘いな。」
「避けるなんて、ずるい!」
「はっ?無残に打たれろってことか??」
兄妹喧嘩が、起こりそうなすんでの所で二人の竹刀はヒョイ取られた。
母の、菊である。
「二人とも、何してるの?藤太も、妹相手に剣戟ごっこは止めなさい。里兎も、おなごとしての自覚を持ちなさい。」
「母ちゃん、里兎、男だもの!」
「何を、言ってるの?」
菊は、困惑したようにいった。
「そんな、ちんちくりん男じゃねーよ!」
「うるさいなっ!兄ちゃんは黙ってて!!」
また、喧嘩が再発するところで菊は2人の頭を小突いた。
「いい加減になさい!藤太は、父さんが話があるって。里兎は、こっちでお裁縫!」
里兎は、眉間にしわを寄せた。
「ええ?お裁縫?」
「そうよ、来なさい。」