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可愛くないと言われ続け、婚約が決まった

作者: 満原こもじ

「本当にあんたはあの女に似ているよ。可愛げのない」


 出かけようと思ったが、お婆様に捕まってしまった。

 お婆様はしつこいというかくどいというか。

 お母様の生前からわたくしは褒めてもらったことがない。

 憎き女の娘だから。


 お父様とお母様は貴族学院在学中に出会った。

 熱烈な恋に落ち、卒業後に結婚したのだという。

 しかしお母様は子爵家の娘に過ぎなかったから。

 もっと格の高い家から嫁をもらうべきだ、カークランド伯爵家の嫡男たるお父様の嫁には相応しくないと、お婆様は思っていたんだろう。


「ふん、泥棒猫の娘が。何か言ったらどうなんだい」


 もちろんわたくしに発言権はない。

 目下だし、お母様の娘だから。

 上級役人としてバリバリ働くお父様でさえ、お婆様には頭が上がらないのだ。

 黙って耐えるしかない。


 お母様の死後、お父様は後妻を得た。

 もちろんお婆様のお眼鏡にかなった女性だ。

 お義母様はいい人だと思うが、わたくしからは距離を置いている。

 それはそうだ。

 我が家の最高権力者に嫌われているわたくしと親しくして、いいことなんてないから。


「何も言わないのかい? 本当に可愛くない」


 可愛くないというのはお婆様の言う通りだ。

 鏡に映る自分の姿を見ても可愛いと思ったことがない。

 お婆様に可愛くないと言われるたび、お婆様の言うことは全て正しいのではと錯覚することがある。

 どうなのだろう?


「まあ、あんたなんかに構ってる暇はないんだったよ。ウィルをあやしてやらないとねえ」


 お婆様から解放されてホッとする。

 お義母様が男の子を生んでから、お婆様のわたくしに対する圧力が減ったからだ。

 本当に感謝している。

 異母弟ウィルはわたくしにもニコッとしてくれるし。


 わたくしは貴族学院で領主科に通っている。

 カークランド伯爵家唯一の子として家を継ぐ予定だったから。

 でもウィルが生まれたので事情は変わってくる。

 当然ウィルが跡取りになるから、わたくしはどこかへ嫁に出ることになるだろう。


 ……こんな可愛げのないわたくしなんか、もらってもらえるだろうか?

 カークランド伯爵家の中でわたくしが浮いているくらいのことは、調べればすぐわかるだろうし。

 わたくしの嫁ぎ先を見つけるのはお父様だから、わたくしが心配することではないとも言える。

 が、少々不安になる。


 ところがその日の夜、お父様から話があった。


「クリシアも一六歳だな」

「はい、一六歳になりました」

「領主科に通わせておいて何だが、やはりうちの跡継ぎはウィルで行こうと思う」

「男児ですから当然だと思います」


 わたくしが家を継いでは、お婆様もお義母様も納得しないもの。

 それにウィルはとっても愛らしい、いつもニコニコしている聞き分けのいい子だから、きっと将来はいい領主になると思う。


「うむ、理解が早くて嬉しい。クリシアの嫁入り先としてハルフォード伯爵家はどうかと考えているのだ」


 心臓が跳ね上がった。


「ハルフォード伯爵家……というと、嫡男のティモシー様?」

「そうだ。クリシアとは同い年でしかも同じ領主科なのだろう?」

「はい」


 ええっ?

 ティモシー様は大変な才能の持ち主なのだ。

 領主科生なのに魔法科生の誰よりも持ち魔力量が多く、各種魔法を使いこなす。

 嫡男だから領主科に来たって仰ってたけど、稀に見る才能なのにって惜しんでいた魔法科の講師を複数知っている。


 わたくしも大荷物で前が見にくかった時に躓いて転んでしまい、ケガをしたことがあった。

 そこへティモシー様が現れ、すぐ回復魔法をかけてくれたのだ。

 だけでなく、たくさん持っていたのに気付かなくてごめんね、半分持つよって言ってくださった。

 もうキュンときてしまって。


 そう、ティモシー様は魔法の才能や性格のよさだけではない。

 顔も仕草も言うことも大変可愛らしいのだ。

 殿方に可愛らしいというのは失礼なのかもしれないが、可愛らしいとしか言いようがない。

 そのティモシー様に縁付くことができるならば、こんな素敵なことはないのだが。


「特に文句はないか?」

「全くありません」

「では婚約の打診をして構わないな?」

「はい、お願いいたします」


 夢みたいだ。

 もちろん婚約の打診というだけで決まったわけではない。

 しかし伯爵家同士と家格が合うから、お父様の顔を立てて面会にはなるだろう。

 わあ、ティモシー様と直に話す機会があるのか。

 嬉しいな。


「お父様の考えを伺っておきたく思います。どうしてハルフォード伯爵家なのですか? 家同士の思惑があるとかですか?」

「クリシアは冷静だな」


 冷静ではない。

 ドキドキしているから、少しでも落ち着こうとしているだけ。


「いや、家格が合うからちょうどいいかということで、特に思惑はないのだ」

「そうでしたか」

「ハルフォード伯爵家は母上の推しでな」

「お婆様の?」


 えっ、どういうこと?

 嫌っているわたくしにいい縁談を勧めるなんて。

 混乱はするけど、なるほどティモシー様ならば、家格にしても才能にしてもお婆様好みかもしれない。


「では申し入れしてみよう。楽しみに待っていなさい」


 本当に楽しみだなあ。


          ◇


 ――――――――――ハルフォード伯爵家邸にて。ティモシー視点。


 父上に呼び出された。

 何だろう?


「そなたに婚約の申し入れが来ている」

「はい」


 結構ドキドキするな。

 今までも婚約の打診は来てたって言うけど、全部父上が却下した。

 僕に話すということは、父上はいい話だと思っているんだろう。


「誰ですか?」

「クリシア・カークランド伯爵令嬢だ」

「えっ?」


 クリシア嬢?

 クリシア嬢といえばクールビューティー、クールビューティーといえばクリシア嬢の?

 およそ浮ついたところを見たことがない、淑女オブ淑女だよ。

 これ冗談じゃないよね?


「ティモシーの印象としてはどうだ?」

「クリシア嬢のですか? 才色兼備の令嬢ですよ。嬉しいですね」

「ふむ、好感触か」

「しかしおかしいな?」

「何がだ?」

「クリシア嬢は学院で僕と同じクラスなんですよ。つまり領主科で。カークランド伯爵家を継ぐものかと思っていました」


 でなければ婚約の申し入れが殺到していたと思う。

 だってあれほど隙のない美人なんだもの。


「当主のモートン殿が後妻をもらってな。そちらに男児が生まれたと聞いている」

「ああ、そういう事情ですか」


 ということはクリシア嬢は先妻の子。

 義母に男児が生まれたとなると、必然的にどこかに嫁ぐ格好になるか。

 領主科でも優秀な成績なのにもったいない。


 いや、逆だ。

 領主の補佐が務まるだけの教育を受けた、即戦力だぞ?

 しかもクールビューティー。

 引っ張りだこになるに決まってる。


 僕は背も低いし、特技といえば魔法くらいだ。

 クリシア嬢とは釣り合わないと思っていたのだけどなあ。

 家格が合うというのが大きいのかな?

 僕を選んでくれたのは嬉しい。


「モートン殿にそなたの魔法を利用した共同事業の目論見でもあるのかもしれん」

「だったら僕じゃなくて、魔法科生の方がいいんじゃないですか?」

「クリシア嬢がカークランド伯爵家の跡取りのままならば、そういう考えだったのではないかな」

「あっ!」


 なるほど、父上の言う通りだ。

 じゃあ男児が生まれたという幸運があって、クリシア嬢が転がり込んでくるんだな?

 もう心の中では婚約者扱いしてるけど!


「ティモシーはすぐ浮かれるのがよろしくないところだ」

「わかってしまいますか?」

「ああ。まず顔合わせということでいいな?」

「お願いします」


 ……ということで今日顔合わせになった。

 場所はうちで。

 まずは当人同士でということで、クリシア嬢のみが来ることになった。

 緊張するなあ。

 いや、アウェイのクリシア嬢が緊張するならともかく、僕の方がビビッてどうする。


 あっ、来たようだ。


「お招きいただいてありがとうございます」

「ようこそ、クリシア嬢。座ってよ」


 色々話したいことはあったけど、珍しく笑顔のクリシア嬢を見たら頭から飛んだ。

 しっかりしろ僕!


「クッキーを焼いてきたんですよ。よろしければどうぞ」

「えっ? クリシア嬢が作ったの?」

「趣味なのです」


 へえ、領主科生なんて忙しいのに。


「あっ、おいしいおいしい。甘過ぎなくていい」

「お口に合ったようでよかったです。これとこれとではどちらが好みですか?」

「香りが違うね。こっちの方が好きかな」

「シナモン入りですね」


 普通に美味い。

 飲み物に合う。

 いい趣味だなあ。

 もう好き。


「ティモシー様は魔法がお上手ではないですか」

「それしか取り柄がないね」

「そんなことありませんよ。ティモシー様はいつも明るくて友人方の中心でいらして。羨ましいです」

「ううん、領主科は女子生徒が極端に少ないからじゃない? クリシア嬢は喋りやすいよ」

「人脈形成の面では失敗したなあと思うのですよ。異母弟が生まれることがわかっていれば、淑女科に入学したのですけれど」


 ふうん、クリシア嬢はそれを失敗と見ているのか。


「でも僕から見ると、領主や文官の仕事を理解している女性というのは頼もしいけれど。クリシア嬢は僕より成績いいくらいじゃないか」

「うふふ」

「それにクリシア嬢が領主科生じゃなかったら、僕とは縁がなかったと思うし」

「以前ケガした時に回復魔法で治していただいたことがありましたね。本当に助かりました」

「いやいや、僕にできるのはあのくらいまでだよ」


 普通に会話続くじゃないか。

 クリシア嬢がさりげなく話題を振ってくれるから。

 話し上手だなあ。

 よかったよかった。


「ティモシー様が魔法に造詣が深いのは何故なのです?」

「造詣が深いというか。ハルフォード家は昔から宮廷魔道士を何人も出してるんだ」

「そうなのですね?」

「うん。その関係で今でも親しくしている宮廷魔道士がいるんだよ。調べて僕の魔力量は大きいということがわかったから、習ってみようと」


 本当は幼い頃、ふおおおおおおまほうかっけえおしえておしえて、ってなって。

 一生懸命覚えて、褒められるもんだから調子に乗ってのめり込んで。

 気付くと若手随一の使い手とまで呼ばれるようになった。

 思い返してみるとちょっと恥ずかしい。

 

 ――――――――――その時。クリシア視点。


 ティモシー様と顔合わせだ。

 とても嬉しい。

 だって才能があって性格がよくて可愛い令息だもの。

 婚約は断られるかもしれないけど、今日を目一杯楽しもう。


 普通に話していて魔法の話題になった。


「ティモシー様は魔法がお上手ではないですか」

「それしか取り柄がないね」

「そんなことありませんよ。ティモシー様はいつも明るくて友人方の中心でいらして。羨ましいです」

「ううん、領主科は女子生徒が極端に少ないからじゃない? クリシア嬢は喋りやすいよ」

「人脈形成の面では失敗したなあと思うのですよ。異母弟が生まれることがわかっていれば、淑女科に入学したのですけれど」


 わたくしも魔法科に入学できるくらいの魔力量があれば。

 選ばれし者の領域だからなあ。


「でも僕から見ると、領主や文官の仕事を理解している女性というのは頼もしいけれど。クリシア嬢は僕より成績いいくらいじゃないか」

「うふふ」

「それにクリシア嬢が領主科生じゃなかったら、僕とは縁がなかったと思うし」

「以前ケガした時に回復魔法で治していただいたことがありましたね。本当に助かりました」

「いやいや、僕にできるのはあのくらいまでだよ」


 本当にティモシー様にとって魔法は何でもないことみたい。

 あまり自己評価が高くないのかな?

 ……ちょっと突っ込んでみたい部分だ。


「ティモシー様が魔法に造詣が深いのは何故なのです?」

「造詣が深いというか。ハルフォード家は昔から宮廷魔道士を何人も出してるんだ」

「そうなのですね?」

「うん。その関係で今でも親しくしている宮廷魔道士がいるんだよ。調べて僕の魔力量は大きいということがわかったから、習ってみようと」


 そんな軽い気持ちで魔法を?

 ハルフォード伯爵家はすごいなあ。

 元々魔法に馴染みがあり、魔法力に恵まれた家系なのだろう。


「ティモシー様はその魔法の力を領の経営に用いるという気はあるのですか?」

「魔道具や魔法薬の製造販売って意味かな? いや、僕はそっち方面の才能はないみたいなんだ。実践魔法だけ」

「そうなのですか」

「でも知り合いの魔道士の中には、詳しいやつもいるよ。スポンサーがいれば大儲けできるのにって言ってる」


 ほう、面白い。


「ハルフォード伯爵家ではそういった魔道士に出資を考えたりはしないのですか?」

「考えはするよ。でもうちは領が辺鄙なところにあるしね。例えば魔道具開発が得意な魔道士を囲って工房を運営するというのは、素材の入手にしても販売にしてもあまり向いていないんだ」


 なるほどの理由だった。

 でも領地が王都に近く、交易に強い我がカークランド伯爵家なら?


「ティモシー様から見て見込みのある魔道士を、カークランド伯爵家に御紹介いただくことは可能ですか?」

「喜んで。世に出る魔道士が多くなることは魔道具の発展に繋がると思うし。でも本気かな?」

「はい。いずれ魔道具の世の中になるというのはその通りだと思うのですよ。ただカークランド家は魔道士に伝手がなく。ティモシー様がその気でしたら、お父様と真剣に検討させていただきます」

「いいね」


 わあ、いい笑顔だなあ。

 好き。


「ところでぶっちゃけた話、クリシア嬢は僕の婚約者になってくれる気はあるんだろうか?」

「もちろんですとも」

「当主のモートン様に言われたから来たってことじゃなく?」


 どうしてティモシー様は不安そうな顔をしているんだろうな?


「わたくしとしてはティモシー様の婚約者にしていただけるならば、これほど願ったりかなったりのことはないのですが」

「そうか……どうしてだろう? 僕がハルフォード伯爵家の嫡男だから?」

「家格が合うというのは、家族を納得させるための方便でしかありませんよ。ティモシー様が素敵だからです」


 魔法の才能にしても明るく社交的なところにしても可愛らしいお顔にしても。

 しかし首を振るティモシー様。

 何故に?


「……僕はクリシア嬢に相応しくないだろう?」

「えっ?」


 ティモシー様の口からそんな弱々しい言葉が漏れようとは。

 わたくしがティモシー様に相応しくないの間違いじゃないだろうか?


「……クリシア嬢はすらっとした美人だし」

「ありがとう存じます」

「僕なんか……背が低いから」


 あっ、そんなところにコンプレックスが?

 わたくしにとって可愛いは正義だったので気付かなかった。


「頭いいし、完璧な淑女だし。正直クリシア嬢からの婚約の申し入れは、何かの間違いかと思ってた。領主科生でさえなかったら、クリシア嬢はモテモテだったはずだ」


 そうですかね?

 他所から嫁を得る前提の領主科生が、家を継ぐと思われていただろうわたくしに見向きもしないというのはわかるけど。

 他科だったらモテたかどうかは?

 でもティモシー様に褒めてもらえるのは嬉しいな。

 気分が高揚する。


「わたくしは……いつも可愛げがないと言われていて」

「えっ? いや、クリシア嬢はクールビューティーだから、可愛いというのとはちょっと違うか」

「ティモシー様は殿方なのに可愛らしくいらっしゃいますので、羨望というか。あの、お慕いしていたのです」


 本音が漏れてしまった気がするけど構わない。

 わたくしに対するティモシー様の好感度が高いようなので、ここは押せ!


「可愛い……可愛いのか」

「魔法の才能や友人が多いところも素晴らしいと思いますけれども」

「何にせよクリシア嬢は僕との婚約に賛成なんだね?」

「当たり前ではありませんか。うちから申し込んだ縁談ですよ?」

「ありがとう」


 手を握ってくださった。

 温かい。


 その後は何でもない世間話に終始した。


「僕はクリシア嬢に婚約者になってもらいたい。いい返事を期待していてよ」

「はい」


 仮に御当主様の思惑で婚約に至らなかったとしても、ティモシー様にこう言っていただけたなら満足だ。


          ◇


 ――――――――――一ヶ月後。クリシア視点。


 ティモシー様と婚約が成立した。

 喜びのあまり小躍りしたら、不思議な踊りですね、見ていて不安な気持ちになりますと侍女に言われた。

 わたくしに創作ダンスの才能はないらしい。


 意外なことが二つあった。

 一つは貴族学院で同級生に残念がられたこと。


「えっ? クリシア嬢、ティモシーと婚約したの?」

「カークランド伯爵家を継ぐものだと思っていた」

「わたくしが領主科に入学したあとに、弟が生まれたのですよ。それで」

「弟が跡継ぎになるから、クリシア嬢が浮いたってことか」

「クリシア嬢は奇麗だし賢いしなあ。ティモシーはうまいことやったよ」

「ふふん、情報収集の勝利だね」


 うちカークランド伯爵家からの申し入れだったので、ティモシー様の情報収集はあまり関係なかったような?

 どうやら本当にわたくしは惜しいと思われている。

 ティモシー様の婚約者になれたこととは別で嬉しい。


 で、もう一つの意外なことだけど。


「ハルフォード伯爵家の嫡男と婚約が決まった? ふん。あんたにしちゃよくやったじゃないか」

「ありがとう存じます」


 お婆様と和解しつつあるのだ。

 そういえばハルフォード伯爵家はお婆様の推しだと言っていたな。

 でもお婆様とティモシー様は面識がなかったはずだし?


 お父様とティモシー様の話から一つの推論が浮かび上がった。

 ティモシー様の父方の祖父、ハルフォード伯爵家先代当主アーネスト様は、若い頃貴公子の中の貴公子と呼ばれ、べらぼうにモテる人だったそうな。

 当時お婆様は当然アーネスト様のことを気にしていただろうし、今でも憧れの気持ちがあるのでは?


 ちょっと水を向けてみた。


「お婆様はハルフォード伯爵家先代当主アーネスト様のことは御存じですか?」

「一つ上の先輩だよ」


 何気ない素振りだが、少し前のめりになった。

 明らかに関心がある。


「ティモシー様とのお茶会で伺ったところによると、現在アーネスト様は領でのんびりされているようで」

「ふん、知ってるよ。ハルフォード伯爵家領は遠いこともね」

「ところが今年は建国二〇〇年の記念で、祭典が派手に行われることが決まっているではないですか。アーネスト様も王都にいらっしゃるのですって」

「本当かい!」


 お婆様のこんなに嬉しそうな顔は、異母弟ウィルが生まれた時以来だ。


「アーネスト様がおいでになったら、お婆様も挨拶に行きませんか。アーネスト様は賑やかなことがお好きだと聞いておりますので」

「ふん、あんたも気が利くようになったじゃないか」

「では楽しみにしていてくださいね」


 意外だ。

 お婆様恋する乙女のようじゃないか。


「何だい、あんたは澄ました顔して。まったく可愛げがないね」


 照れ隠しに憎まれ口を叩く、赤い顔をしたお婆様は可愛いと知った。

 これもティモシー様と婚約したおかげだなあ。

 ……またティモシー様に会いたくなってしまった。

 わたくしも可愛いところあるんじゃない?

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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