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かくして少年は世界を知る~師匠に叩き込まれた暴力で、少年は世界の真実を学んでいく~  作者: しータロ
第一章 取り残された者たち

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空白の夜明け

 その夜。

 昼食を取った場所からそれなりに移動した場所で、アシュたちはキャンプを張っていた。

 もう夜。

 周りは一寸先も見えぬほどに暗い。その中で揺らめく焚き火の光。

 

 焚き火を囲うようにアシュと老人が座っていた。焚き火にはアシュが昼狩ってきた兎の肉が串に刺された状態で焼かれている。


「……」


 アシュは焚き火がバチバチと音を立てて燃える音に耳を傾けながら空の星々を見上げていた。

 特に何かを考えるわけでもなく、ただ無心で見上げていた。

 すると、老人が串の一つを持ってアシュに話しかける。


「できましたよ」

「助かる」


 老人が差し出した串を受け取って、燃える焚き火に視線を移す。そして老人と共に兎の肉を食べながら、少し会話を交わした。


「あんた、アシュラット協議国の兵士だったのか?」


 老人の方は見ず、焚き火の方に視線を向けながら問いかける。


「ええ。遠い昔ですがね」

「大戦の頃か」

「はい。大戦が終わってからも、しばらくの間は治安維持のために駆り出されましたが、平和になるにつれ軍備にかける資金が少なくなり、私たちのような、特に役職が高いわけでも無かった老兵は解雇です」

「当然だな」


 同情はせず、ただ時代の流れとして仕方ないことだったと、アシュは呟いた。


「その通りです。大戦に取り残された私たちは、今の時代に必要とはされていないのですよ」


 大戦で多くの敵を殺し、仲間を失った。大切なものを犠牲にした。世界が彼らを求めていないように、彼らもまたどころを大戦に忘れてきた。生き残った数少ない兵士も吸い込んだ灰や汚染物質、精神的な障害によって長くは生きなかった。

 老人ただ一人が残されている。


「こんな老いぼれの旅に付き合ってくれてありがとうございます」


 老人は、焚き火から少し離れた場所で寝ている老齢の馬に視線を向けた。


「あの子ももう長くはないでしょう。あの子が動かなくなった時、私の旅商人を終えます」

「じゃあ次は何をするんだ」


 アシュの質問に老人が目を丸くした。

 こんなにも年老いていているのだから、旅商人を終えたのなら、もうあとは余生を過ごすだけ。何もしない。考えていなかった。


「何を、すればいいんでしょうかね」

「知らない。自分で考えろ」

「まったく、手厳しい」


 老人は笑っていた。


「大戦……あんなにも忌み嫌った戦争に、今はどうしようもなく戻りたいのですよ」

「ボケてんだろ」

「ふふ。そうだと思います」


 老人は大切なものをすべて大戦に置いてきた。もうすでに余生。周りには何も残されておらず、唯一、悲惨で過酷で、地獄のような記憶の大戦でも、あの時に仲間と過ごした時間は確かにあった。

 淡い昔の記憶に恋焦がれるのも無理はない。


「あなたは、大戦が終わった後、どこに行かれるのですか」

「……? 何言ってんだ?」


 本気で意味が分かっていない様子のアシュを見て、老人は自分の言い間違いに気がついた。


「すいません。王国に行った後にどうするのですか、と聞こうとしたんですが……」


 老人ははにかんだ。


「ちょっと、前の話に引っ張られてしまいましたね」

「ボケたな」


 アシュが食べ終わった串を投げ捨てる。


「王国に行った後のことは特に決めてない。まあただ、世界は見て回るつもりだ」


 そしていずれ、師匠の顔面に拳を叩きこむ。

 アシュの決心は揺らがない。

 老人はそんなアシュを見て、いつもの微笑みを浮かべた。


「では、『剣聖』オルフェン・アストレイアの道場に行ってみてはどうですか」

「道場? というか『剣聖』ってまだ生きてるのか?」

「私もあまり詳しくは知りませんが、王国を東南に南下した場所にある『地図の空白地帯』に道場を構えているようです。師匠のことが知りたいのなら、繋がりはあるかもしれませんよ」


 師匠がアシュに教えたオルフェン流。師匠と『剣聖』との面識があっても不思議ではない。


「分かった。頭に入れておくよ」

「ええ。是非」


 二人はそうして緩く会話を交わしながら夜を越えた。


 ◆


「おし、こっちの道だ」


 山道に残った車輪の跡。アシュを追いかけるカルカナはその痕跡を確かに確認していた。

 アシュがどれだけ早く進んだところで、まだ王国との国境には辿り着いていない。臨時で、昔に縁のあった傭兵などを雇い主要な道路の監視をさせている。アシュがわざわざ危険を冒してまで主要な道路を進むとは思えず、もし行くとしたら人通りの少ない山道。

 それとも別の案があるのか。


 取り合えず、カルカナたちは王国へと続く山道の幾つかを見ていた。その内の一つ。

 カルカナが拠点を構える都市からほど近い町の山から王国まで続く長い山道。今ではもう使われなくなり、木々が生い茂る道だが、なぜか最近できたかのような車輪の跡が残っていた。


 主要な道は特別混んでいるというわけでもなく、また野党の対策として警備兵もいるのである程度は安全。なのに、その道を進まず危険で進みにくい山道を進む奴がいる。


 車輪の跡はずっと続き、王国との国境近くまで差し掛かろうとしている。明らかに、王国に向かって進んでいた。

 果たして、どこかの商人が近道でもないのに偶々《たまたま》山道を使って、その上王国まで向かう、ということがありえるのだろうか。確立としてはかなり低く。《《別の可能性》》を想定した方が良い。


(だが、いつ馬車なんて買ったんだ)


 アシュは徒歩で移動しているはず。少なくとも大金を持っているようには見えなかった。馬車を買う金などあるはずがない。それでいて、山道を通って王国まで連れて行ってくれるような御者がいるとも考えづらい。


 しかし金をった可能性、馬車を盗んだ可能性を考慮するのならば完全にゼロというわけでもない。

 少なくとも、アシュへと繋がる数少ない手がかりがこれなのだ。予定では先を行く馬車に後一日足らずで辿り着く。その時に、アシュがいるのか、それとも山道を目指して王都を向かう頭のおかしい奴がいるのかは分からない。


 確認すればいいだけの話。

 どうせ明日には正体が分かる。


「いくぞ」


 もう深夜で一寸先も見えないが、カルカナたちはランプを灯し山道を歩いた。

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