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かくして少年は世界を知る~師匠に叩き込まれた暴力で、少年は世界の真実を学んでいく~  作者: しータロ
第一章 取り残された者たち

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再び出会う

 空が赤くなり、日が落ちる頃。


 街道の両脇には木々が立ち並んでいた。鬱蒼と生い茂る草木が不気味に街道を包み込んでいる。

 街道沿いに一部分だけ木々が無く、丈の短い草木だけが生い茂る空間があった。

 自然に包まれた街道の中にあって、その一部分だけがやはり異質だ。最初は、ある旅人か商人かが、嵐や魔獣の被害で木々が折れ開けた土地となった場所に、テントを立てて宿泊していたのだろう。

 その者が去って、また別の旅人や商人がこの場を訪れ、休憩場所や宿泊場所として利用する。そしてまた別の旅人や商人が利用する。その積み重ねの結果が、今に繋がる。

 

 森の中に自然と切り開かれた人為的な空間。 

 そのような場所は辺境を巡る時に数多くある。

 ここもまたその一つだ。

 アシュラット協議国の北にあるほぼ使われていない街道にある、天然の休憩・宿泊場所。

 今日、その場所には一台の馬車が転がっていた。まだ使えそうな馬車だが、車輪が破壊されもう動かない状態へと変えられている。荷台に積んでいたであろう品物はすべて森に投げ込まれていた。

 

 馬車と馬とを繋ぐ紐は無造作に放り投げられ、草木の上で馬が眠っていた。ひづめや顔、足には生きた証が刻まれている。

 その傍で、老人が壊れた馬車に背中を預け、右手で馬を撫でながら、空を見上げながら座っていた。

 ただ、その美しい星々を眺めていた。


 思い返す。自らの生涯を。

 

 大戦に従事し、多くの人々を殺した。仲間もまた、散っていった。もう生き残っているのは男だけ。

 何度も思い返し、記憶の中にこびり付く記憶。

 もう五十年前だというのに、未だに夢に見る。

 だが、それも今日でおしまいだ。


「さて……」


 老人は立ち上がる、ただ、じっと街道の先を見据えて。


 ◆


「もうすぐだ。気を引き締めていけ」


 集団の先頭を率いるカルカナが団員に警戒するよう伝える。車輪の跡は真新しくなっていき、先頭を進んでいた馬車へと近づいているのが分かる。

 馬車が夜間も移動していれば到着まではもうしばらくかかるだろうが、夜間は休憩のために止まっているだろう。だとしたらもうすぐで追いつけるはずだ。 

 あと少し。 

 ほらあそこ。

 もうあそこに。


(鬼と出るか蛇と出るか……)


 街道を少しそれた場所に一台の馬車が止まっているのが見えた。車輪は無く、壊れている。積んでいたであろう荷物はすでに投げ捨てられている。馬車を引いていたであろう馬は傍で倒れていた。

 そして馬車の影からゆっくりと人影が立ち上がる。

 人影はゆらゆらと歩いてカルカナたちの前に立ち塞がった。


「どうしましたか」


 カルカナたちの前に立ち塞がった老人はそう問いかけて来た。どこか不気味な様子で掴みどころがない。


「少しわけあって人を探している。悪いが、あんたの馬車の周りを調べさせてもらっても構わねえか」

「ええ。どうぞ」


 にこやかな笑みを浮かべ、老人が道を開ける。

 カルカナは部下の方に視線を向けると「行け」と先に向かうよう合図をする。そして自分は老人と向き合った。


「少し質問させてもらってもいいか」

「構いません」

「アシュっていうちっこいガキを見なかったか」

「いえ……そのような男の子は……特に……この山道を使うのは私だけですから」

「そうか。あんたの馬車は壊れてるが、大丈夫か。俺らなら近くの都市まで届けられるぞ」

「いえいえ、大丈夫ですとも。こう見えて、元気なので」

「そうか、じゃあ気をつけろよ。アシュって奴はガキだが腕利きの傭兵だ。もしであっても抵抗はせず、要求に従え。安心しろ協力者とはみなさねえ」

「はは。ありがたい。ですが大丈夫です。私も」


 カルカナは老人の腰に見える剣を見る。


「さっき、俺がアシュってガキのことについて聞いた時、あんたは『そんな男の子は知らない」つったよな。なんで男って分かったんだ」

「名前からして、そうなのかと」

「アシュつう名前は、男女どちらで使われてもおかしくはないだろ」

「はは。遠い昔の男の友人にアシュという名前の人がいたので、きっと引っ張られてしまったのでしょうね」

「もう一つ質問だ。あんたは『自分も『戦士』だから大丈夫』って言ってたよな。なんでアシュが『戦士』だと知ってるんだ」


 老人は首を傾げ笑う。


「はて、なぜでしょうか」


 カルカナを前に中途半端な嘘はすぐに見抜かれる。目線の動き、手の動き、体勢に至るまで、すべてを観察した上で嘘だと見抜く。

 老人の嘘は簡単に気がつける。何とも愚かなミス。

 まるで……


「……あんた、わざと気づかせたな」


 カルカナに気がつかせることが目的かのような、曖昧な嘘だった。


「はて、何のことやら」


 死に場所を探している。ずっと。

 老人は腰に携えた剣に手を当てた。同時に、カルカナは背負った両手斧を握り締める。

 そして部下に伝えた。


「東南だ。来る前に分かれ道があったろ。あっちにアシュが逃げてる。先に追いかけとけ」

「で、でもよ」

「負けねぇよ。んな老いぼれにはな。手出しはすんなよ」


 ここで負けるぐらいならばアシュに殺される。勝てて当然の戦いだ。


「老いぼれ……? 誰のことを言っているのでしょうか?」

「あんたのことだよ」

「これでも、私はた――」

「――大戦時の兵士だろ」


 老齢になるまで生きた男という情報だけで大戦の生き残りだとある程度は分かる。そこまで推測した後に、彼の佇まいや雰囲気。そして腰の剣に手を当てる動作などから、推測を確固たるものにする。


「大戦の生き残りとやれるのか、光栄だな」


 カルカナは笑う。

 久しぶりに行われる死のやり取り。

 戦場を巡りバカやっていていた昔に戻ったような気分だった。


「はっは……殊勝な心掛けです」

「簡単に死んでくれるなよ」


 二人は剣と両手斧をそれぞれ構え、向き合った。

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