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神々の正体  作者: 箱庭
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第9話 魔人

銀光りの鎧を揺らしながら次々と村の死角を兵が調べ回る。

近付いてくるその足音に聞き耳を立てながらシェイスは天井下で息を潜めた。


そしてすぐに緊張の時は訪れる。


待ち伏せに警戒しながらシェイスが居る民家の玄関口を一人の兵がまたいだ。散乱した部屋内を見渡し隅々まで目を光らす。そして中を調べ歩くと思いきや、兵は突然天井を見上げた。まるでシェイスが隠れているのを知っていたかのように。


「ピィー!」


脱走時に吹かれた笛が再び鳴らされる。


なんともあっさり見つかってしまった。

それもそのはず、独房を抜け出す際に気絶させた見張りの証言と爪を使って壁をよじ登った痕跡とを考察され部屋内の天井まで確認するよう徹底的に命令されていたのだ。


笛の高い音は村中全土を覆い尽くした。その音を聞き、近場にいた数名の兵がドカドカとこの民家に入ってくる。


「くそっ!二度は通じなかったか!」


「もはや袋のネズミだ。観念するんだな」


天井に張り付くシェイスを見上げながら一人が口走る。


このまま飛び込むか…いや、あまりにも不利だ。飛び込み際に一人は殺れてもこの人数では降りた瞬間に必ず誰かの攻撃を受けてしまう。

戦おうにも降りるに降りられない状況となった。


天井はわりと高いので敵の剣も届かないがこうしている間にも笛の音を聞きつけた他の兵が次々と集結しつつある。


こうなったら捨て身の覚悟で飛び降りるしかない。


下で待ち構える鋭い鋼の先を見下ろしながら迷っていたその時、外の光が差し込んでいる小さな出窓が目に入った。

今いる天井より低い位置にあるがあの高さだと敵の剣もまだ届かない。ひとまずあそこから屋根に出るんだ。


ぶら下がった状態のままシェイスは天井裏をうまくつたい出窓まで向かった。


そして窓のガラスを突き破り外側の壁に手の爪を引っ掻け屋根へと駆け上がる。


「逃げたぞ!」


シェイスを追い下で構えていた兵も急いで外へと出る。


「ヒュン!」


「うわぁ!」


屋根に上がった瞬間、風を切る音とともに矢がこめかみをかすめた。

矢が通った軌跡の向こうには民家の影に隠れるように一人の長弓兵がシェイスを狙って構えていのだ。


「っぶねぇ…」


間を置くことなくすぐに次弾が装填され矢が発射される。


矢の軌道を読みなんとかギリギリでかわすシェイスだが足場の少ない屋根の上では格好の的だ。


先に奴を仕留めなければ…


考えている暇もなくシェイスは加速をつけ屋根からジャンプした。魔物化のせいか常人の跳躍力では考えられない距離を飛び地上で群れている兵の頭上を一気に越える。

そしてスナイパーめがけて畑の間を走り抜けた。シェイスを取り囲んでいた十数人の兵もそれに続く。


近付くにつれ、放たれる矢のスピードが増し軌道の先読みどころではない。


シェイスは走りながら身をかがめたり左右に飛び跳ねるなど予想もしない動きで相手を撹乱させた。


迫ってくるシェイスに長弓兵は落ち着いて何度も矢を放つ。が、変則的なシェイスの動きにうまく照準が合わせられず残像ばかりが貫かれた。


「ちっ!」


あっという間に距離を詰め斬りかかるシェイスだったが目前のところで長弓兵は武器を剣へと切り換えた。


「キィィィン!」


鋼のぶつかる音が辺りに響き渡る。しかしそれは刃と刃が重なる音ではなかった。シェイスは瞬時にその爪で構えた相手の剣を払いのけ鎧ごとたたっ斬っていたのだ。


「ゴフッ!」


その場に崩れ落ちる長弓兵。シェイスは倒れ込んだこの兵がまだ握っている剣をすぐさま奪い取った。


そして民家の壁を背に二本の剣を構える。周囲はすでに追いついてきた大勢の兵が包囲していた。

壁を背にしていれば背後は取られにくい。


ヒヤリとした汗が額ににじみ出る。


そして乱戦が始まった。


一斉に飛びかかってくるいくつもの剣の猛攻をたった二刀ではじき返す。魔物化したシェイスの動きはすでに常人を凌駕していた。自分でも驚くほど体の反応が早く敵の動きの二歩程度先を行動している。加えてこの沸き上がる力。シェイスは竜巻のように斬撃を繰り出していく。


別れていた隊も加わりぞくぞくと参戦する兵だが素早いシェイスに誰もが剣をはじき返され致命傷を与えることができず次々と戦闘不能に陥っていった。


激しい戦いが繰り広げられている中、その一部始終をじっとうかがっている者が一人。

最初にこの隊に指令を出していた指揮官だった。


仕向けた兵が次々となぎ倒されていくのを目の当たりにしながらも指揮官の男はまったくうろたえる気配がない。そればかりか高みの見物といった様子でシェイスの動きを遠目からじっくりと観察している。そして口元が怪しく微笑むのだった。


「彼らもそうとう鍛え込んでいるはずなのだが…やはり魔物化に伴った身体能力の上昇は実に素晴らしい。それにしてもこの動き…だいぶ馴染んできたようだな」


乗ってきた馬車の前で指揮官の男は腕を組みながら静かにそうつぶやいた。


多くの戦闘ですでに刃がこぼれている。すっかり使い物にならなくなった剣の代わりに最後は二人まとめて自らの魔物の爪で葬ったシェイス。


「はぁはぁはぁ…」


大きく息を乱しながらまだ使えそうな剣を拾い上げる。

かがむと同時に地面にはポタポタと鮮血が滴り落ちた。上腕と背中に一太刀浴びていたのだ。あれだけの人数を相手にしたのにもかかわらず、それでも致命には至らない程度の傷であった。


そして血に染まったその場を離れる。


たった一人に三十数名が敗れ去り、死闘は終決した。


シェイスの赤い瞳が村の入り口で一人のうのうと待機する最後の男をギロリと睨みつける。乱れた呼吸を落ち着かせながら両手に剣を握りしめ、ゆっくりと男の元へ向かった。


相手が隙を見せた瞬間に一気に駆け寄ろうと思っていたシェイスであったが指揮官の男は待ちわびているともとれる表情で迫り来る魔物から視線をはずさない。


そして、村の入り口にもっとも近い崩れた民家を横切りシェイスは男の前に立ちはだかった。


「残るはあんただけだ。どうする?見ていてわかっただろうが今の俺は人間の力を越えている。もっともその力を与えたのはあんたらだがな」


そう言い放ち剣を突き出す。


「さあ、答えてもらおう!あんたらの目的はなんだ?これは国家全体の計画か?」


シェイスに剣を向けられても男は顔色ひとつ変えることはなかった。


「なぜだかわからんがどうやら本当に自我を失ってはいないようだな」


「質問に答えろ!」


「君が知る必要はない。それに勘違いするな。残っているのはまだ私一人だけではない」


「なに!?」


男はそう言って指をパチンと鳴らした。


「目には目を…だ」


すると男が背にしている馬車の布が突然引き裂かれ、中から鋭い魔物の爪が覗いた。


現れたのは鉄仮面で顔を隠した不気味な魔物だった。手足の爪の形状といい今のシェイスとそっくりにも見える。


「……ん!?」


シェイスはその鉄仮面をジッと見据えた。


「こいつ…どこかで…」


瞬間、シェイスの脳裏に途切れたあの記憶がフラッシュバックする。


「そうだこいつだ!こいつに村は襲われていたんだ。俺達は確かこの鉄仮面野郎と戦って…」


「いいか殺しはするな。生け捕りにしろ。手こずるようなら腕の一本ぐらいは落としてかまわん」


指揮官の男がそう言うと鉄の仮面がコクリとうなずき鞘から剣が抜かれた。


このビリビリした感じ。

記憶の全貌は今だはっきりと思い出せないがあの時感じたこの異様な感覚だけは体が覚えていた。


「君もこの素晴らしい魔人兵の力を体感したまえ!」


男が叫びながら両手を広げる。その瞬間、魔人兵はその姿からは想像できないスピードで一瞬のうちにシェイスの目の前に迫った。



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