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神々の正体  作者: 箱庭
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第8話 再会

「悪いなお若いの」


「こっちこそ乗せてもらってすまねぇなじいさん」


イースト村に向かい始めて二日目の朝。シェイスは運よく同じ道を通った老商人の馬車を捕まえることができた。どうやら町に行く途中らしくイースト村と同じ方角なのでついでにと同乗させてもらった。その代わりといってはなんだが馬の手綱と用心棒をシェイスが請け負った。


「しかしお主大丈夫か。随分疲れとりゃあせんかい?えらく目が充血しておるようだが」


目を細めなるべく悟られないようにしていたのにさっそく瞳の色を聞かれてしまった。


「いやぁここんとこずっと歩きっぱなしなもんで。体の方はまだ全然平気だからじいさんはゆっくりしてくんな」


「ならばよいが」


ふぃー。なるべく目は合わせないほうがいい。手綱を握る手はうまくマントで隠せているし牙も見せないよう口を閉ざしながらしゃべっている。まるで腹話術師だが。


そして大草原を貫く一本道を馬車で押し進めること半日。ようやくイースト村を知らせる立て札が見えてきた。


もう村は目と鼻の先だ。


ここからはそれぞれの方向で道が二手に分断されている。商人とはここで別れることになった。


「ありがとうじいさん。おかげで随分早く村まで来れたよ」


「なぁに旅は道連れじゃて。わしもゆっくりさせてもろうた。お互い様じゃ」


商人に礼を言い馬車を降りたシェイスは再び歩き始めた。


見覚えのある風景。ここに来るのはこれで二度目だ。紺のマントをなびかせながらシェイスは小道を歩いていく。そして次第に見えてきた。小さな山の麓に隠れるように点在する家々。


「おっと、このまま進むのはまずい。もしかすると村にまだ兵が駐留している可能性があるからな」


シェイスは小道をずれ、見つからないよう草原に身を潜めながら村まで進むことにした。


草を掻き分け、その間から静かに村の様子をうかがう…が…


「ど、どうしたってんだこいつは!?」


そこに広がっていたのはなんとも悲惨な光景だった。


屋根が崩れ瓦礫で埋まった民家。荒らされた畑。散乱した農具。人の姿などどこにもなくすでにさびれた廃村と化している。

辺りを確認しシェイスは静かにその村へと足を踏み入れた。


「化け物が出たってのはどうやら本当らしいな。俺達はここで戦ったんだろうか」


外壁に残された非情なる爪跡を見ながら脳内の記憶を探ろうとする。だが相変わらず甦ることはなかった。


段々畑を上りながらシェイスは村の全貌を見渡す。


ここで壮絶な戦いが繰り広げられたのはあきらか。土色の地面にはところどころ血痕も見られる。


まだ原型をとどめている民家がいくつかあったが、中に人はおろか何かの手掛かりになるようなものはなかった。

暗い家屋の中は、ここで住んでいた者達が残した生活の痕跡後だけしか目に映らない。


部屋を探索することしばらく、再び外に出てみると下の畑の中でなにかがキラリと光るのが見えた。


「なんだ?」


シェイスは急いで段々畑を下りた。


他と比べて異常に踏み荒らされた様子のその畑にあったのは太陽の光を反射して輝いていたシルバーのペンダントだった。手に取ってよく見てみる。


「これは!?見たことあるぞ。確かクロウス先輩がしていたペンダントだ」


それはシェイスが所属していた同じベルニカ騎士団の団員クロウスがいつも首にしていたペンダントだった。

土か血かわからないが黒いものが少しこびりついている。


「これが残されてるってことは…俺達はやはりやられてしまったってことなのか」


汚れたペンダントを手にしながら途方に暮れていると突然家の瓦礫が音を立てて崩れた。


かすかだが地面が揺れている。


シェイスは後ろを振り返った。

その揺れの根源はこの村へと向かってくる馬の走る震動だった。


「げっあいつら!なぜここがわかった!」


馬にまたがっているのは脱走時に対峙したあの追手だ。すでに目前まで迫っており村を抜け出そうにもここからでは走っている最中に見つかってしまいそうだ。とにかくシェイスは近くの民家の中へ逃れひとまず身を隠した。


嵐のように村の中へ踏み入った十数人の集団はやがて一斉に止まり、後ろで控えていた馬車の中からこの隊の指揮官らしき人物が姿を現した。そして次々と隊に命令を下す。


「三手に分かれて散策!左右の者は後ろから回り込め。中央はそのまま前進。散れぃ!」


闇に息を潜めながらシェイスも急いで戦闘体勢を整える。マントを畳んで胴にくくりつけ鞘から剣を抜いた。


「ちくしょーマジかよ!このままじゃすぐに見つかっちまうぞ。あっ、そうだ!」


シェイスは独房を脱走した時のことを思い出した。爪を使って民家の壁をよじ登り天井からぶら下がってやり過ごす作戦に出たのだ。幸いこの天井の隅はあの独房のように薄暗い。


心臓の鼓動だけを大きくさせながらシェイスは闇と一体になった。



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