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神々の正体  作者: 箱庭
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第16話 大剣

夕日に染められた赤い背景をバックに馬を走らせることまた小一時間あまり…

大きくて重い剣を背負いようやく自宅へと戻ってきたレオーヌ。井戸からバケツを引っ張り出し走り続けだった馬に水を与えてやる。グビグビ飲んでいる間に木に繋ぎとめ玄関をくぐった。


「戻ったよ」


もう外は薄暗いというのに部屋の中は真っ暗だ。


灯りぐらいつけてよ…


と思いながら部屋の中を進むとなにやら大きなイビキが音をたてて響いている。


ベッドの上には大の字になって寝ているシェイスの姿があった。

人が苦労して頼み事を聞いてやってるっていうのにこの男ときたら。

ガアガア寝ているその姿に少々苛立ちを覚えたレオーヌはシェイスの額をコツイてやる。


「ん、あ……イテ…」


叩かれた額に手を当てながらやっと目を覚ます。


「あっ、もう朝か…」


「朝なわけないだろ。夜だよ夜。まさかあれからずっと寝ていたんじゃないだろうね?」


「だって疲れっぱなしだったんだぜ…ひさびさのふかふかベッドだったんだからそりゃ寝ちまうよ」


シェイスはベッドからフラフラ立ち上がると椅子に腰かけた。


「で、どうだった?」


「剣はバッチリもらってきたよ。まったく苦労したんだから。君が言った通りうまくいったけどおばさんが大泣きして一時はどうなることかと大変だったんだよ。僕もどうしたらいいかわからなかったし」


「そうか…」


さすがにシェイスも家族のことは気にかけているのだろう。返ってきた返事は寂しげでその後の言葉が続かない。


妙な間が空き二人の会話は中断されたがやがてシェイスのほうから次の話を持ちかけた。


「それから騎士団のほうは?」


「そうそう壊滅したベルニカ騎士団のことだったね。どうやら生き残っているのが一人いるらしいんだ」


「ホントかよ!?で、誰なんだ」


赤い瞳をギラつかせ思わず身を乗り出すシェイス。


「ベルニカ団長だよ」


「まさか…団長が…」


腕を組みシェイスは再び椅子にドンと座り直した。そして頭を横にひねる。


「確かに団長の強さは半端ないからな。魔人兵と戦ったとしても生き残る見込みはないわけではないとは思うが」


「薬を調達したっていってたからそれなりに傷を負ってるとは思うけど。勝てないとわかって君達を置いて逃げたんじゃないの?」


「いやそれはない。あの人に採用してもらった俺から言わせれば団長がそんなことをするとは考えられない。でも引っ掛かるのは俺達の死を偽造したって点だ。まさか知らないわけじゃないだろうし」


「もしかして最初から全てを知っていてその魔人兵を作ってる人達とグルだったとか?」


「うーんそれなんだよなぁ。俺以外の団員は実験台もしくは死亡しているとみて間違いないとは思うが。あの状況で団長一人だけが生き残っているってのはどう考えたって変だ」


憶測が詰まり考え込むシェイス。そんなシェイスをよそにレオーヌは立ち上がりその場を離れた。


「どこいくんだ?」


「新薬の調合だよ。こうしている間にも寿命はどんどん縮んでいくからね」


そう言うとレオーヌはつかつかと調合室へと向かっていった。


「まったく調合マニアめ。けっこうな危機だってのにのんきなやつだよ」


レオーヌが籠ってしばらく、考え込んでいたシェイスも立ち上がって玄関口へと歩いていく。そして立てかけてある大剣を手にすると調合室にいるレオーヌに向かって叫んだ。


「おーいレオーヌ!ちょっと表に出て剣を振ってくる」


はいよー、という扉越しから聞こえてきたわずかな声を耳にした後シェイスは玄関を開け外に出た。


静まりかえった宵闇の中、ひさびさに手にする馴染みある感触に自然と力が入る。そして土についた剣先をゆっくりと持ち上げた。


瞬間に思った。信じられないくらい軽く感じる。


重量、厚さ、ともに一般の剣の倍以上。長さも一.五倍強ほどもある。とても実戦で使えるような代物ではない。修行時代シェイスはこれで腕力を磨いた。あの頃はこの剣に振り回されっぱなしだった。どんなに鍛えても扱うことはできなかった。そう人間だったあの頃は…


試しに一度振ってみる。


「ブォォゥン!」


けたたましい音が鳴り響いた。風圧だけで相手を吹き飛ばせそうなほどの空気の層が一瞬でできる。


「す、すげえ。まさかこの剣を扱える日が来るなんてな。魔物化の力ってのが釈然としないが今はそんなこと言ってられねぇ」


それから何度も何度もシェイスは剣を振り続けた。


「なんだ?」


外から聞こえてくるブンブンと響く音にびっくりしてレオーヌも思わず外に出てきた。


「なんの音かとびっくりしたよ。よくもまあそんな重いものを軽々と振り回せるようになったものだね」


背後から声をかけてくるレオーヌにシェイスは剣を止め振り返る。


「俺もびっくりさ。だんだんこの体に慣れてきた。この体とこの剣があれば魔人兵と渡りあえるかもしれない」


「でも錆びちゃってるよその剣」


「それなんだが明日町の鍛冶屋に持ってって鍛え直してもらおうと思うんだ。それでレオーヌに…」


「断る!」


「おいおい!?」


「いくらなんでもこき使い過ぎだ。今日だってそんな重いものわざわざミストン村から持ってきたんだよ。行くならシェイス一人で行ってきてよ」


「だからそれだと見つかる危険があるからお前に頼んでるんじゃねぇか!」


「だったら見つからないように変装して行けばいいだろう。今日町でわざわざサングラス買ってきてあげたんだから」



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