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神々の正体  作者: 箱庭
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第15話 故郷

馴れ親しんだ牧場の柵を横切りながら集落までのびた小道を進みレオーヌは村の手前で馬から降りた。


馬を柵に繋ぎとめ土の道を歩いていくと畑を耕している最中の村人がこちらに気付き手を振ってくる。

レオーヌも古巣の仲間達に手を振り返すがつい先日の葬儀の時に来たばかりなのでなぜか少しこっぱずかしい感じがした。


村を覆う草花が風に揺られさらさらと音をたてている。いつもの癖で薬の原料になるいい薬草が生えてないかついついその方向に目がいってしまうレオーヌであった。わずかな距離であるにもかかわらず、ようやくといってもいいくらい時間がかかってやっと村の広場まで辿り着いた。とりあえず広場で一呼吸置くレオーヌ。


「ほんとに大丈夫かなぁ」


シェイスが死んだことになってからまだ数日しか経っていない。両親のあの泣き崩れようはとても見ていられるものじゃなかった。


それだけに非常に尋ねづらい。


気が乗らないゆっくりとした足取りでシェイスの実家まで向かった。いざ扉の前に立つと少しためらってしまう。


「よし…」


そして意を決して玄関の扉をコンコンと叩いた。


「………」


返事がない。


もう一度叩いてみる。


「………」


どこかへ出掛けているのかな…それはそれでそのほうがこちらとしては助かるが。と、思っていた矢先…


ガチャリとノブが回り木製の扉が開かれた。


「あらレオ君」


「あ、おばさん」


ようやく出てきたのはシェイスの母ロゼッタだった。顔つきを伺う限りでは思いのほか元気そうにもみえる。


「なにか用かしら?」


しかしその声はやはりどこか細々しかった。


「あのおばさん…実はシェイスのことでお話が…」


シェイスの名を聞いた途端、一瞬でロゼッタの顔は曇り始め唇が震え今にも涙が流れ落ちそうになっていた。


「どうか落ち着いて聞いてください。実は昨日の夜、シェイスが僕の前に現れたんです」


「え?」


下に向けられていたうつろな視線がレオーヌの目を見る。


「といっても夢か幻かはたまた幽霊だったのかわかりません。が、僕が寝ていたベッドの前にシェイスが立っていたんです。そして僕にこう言ってきました。“昔修業で使っていた大剣をお前に預ける。俺達の思い出の品だ。それをお前に持っていてほしい”と…。でもこれだけじゃあ信じてもらえないと彼はおばさんの秘密を僕に教えてくれました。裏口の渡り廊下に額縁に入った絵画が飾られていますよね?その絵画の裏側におばさんが隠しているヘソクリがあると。それを知っていたシェイスは度々おばさんの目を盗んではちょこちょこ拝借していたらしいんです。このことを伝えれば信じてもらえると…」


もはやロゼッタの顔はくしゃくしゃになりこらえていた涙も次々と溢れ落ちている。しかし容赦なく最後にレオーヌはこう言い放った。これもシェイスに言っておいてくれと言われたので仕方がない。


「最期にシェイスはこういっていました。“姿は変わってしまったけどいずれ家族の前に顔を出すからその時まで待っていてくれ”…と」


その言葉がトドメとなりロゼッタはとうとう床に膝をついた。


レオーヌもどうしていいのかわからずなにも声をかけることなくただ呆然と玄関口で立っているしかなかった。


「ごめんなさいねレオ君…」


その後、ロゼッタはようやく落ち着きを取り戻しこのことを伝えてくれたレオーヌに部屋の中に上がるよう言ってくれたのだがとてもそんな雰囲気に耐えられたもんじゃなかった。だいたい嘘を言って泣かせてしまった背徳感がつらい。シェイスに頼まれた大剣をだけを受け取ってそそくさと家を後にすることにした。


「ふぅ、参ったね。ある程度予想はしてたけどああも泣かれてしまうとこっちがつらいよ」


大きな剣を両手で抱え持ちレオーヌは村の牧場に繋いである馬へと向かう。


「しっかしなんて重さなんだ。今考えてみるとよくこんなもの振ってたよなぁ。それにすっごい錆びついてるし…こんな剣使えるのかな」


頭脳派のレオーヌにとっては重労働だ。


そして再び村の広場を過ぎ去ろうとしたその時…


「レオーヌ!」


後ろから聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。

振り向いた先に立っていたのは幼馴染みであるエニリスだった。同じ年代かつとても活発な女の子だったので昔はよくシェイスとともに遊んだ友人の一人だ。

葬儀の時にシェイスの母親と同じくらい号泣していたのは記憶に新しい。

いつもの整ったブロンドのショートヘアがまるで朝目覚めたばかり髪のように少し乱れがかっていた。


「あなたが持っているそれ、シェイスが使ってたものよね?どうしてあなたが持ってるの?」


あの時は言葉を交わさなかったがいつもの元気な彼女の声はあきらかに暗い。その瞳もどこか暗い影を落としていた。


「え、いや…その…昨日夢にシェイスが出てきてね。どうしても僕にこの剣を預かってくれって頼んでくるからさぁ。あまりにもリアルだった夢というか本人というか…なんか遺言のような気がしてさっきおばさんから了解を得ていちおう譲ってもらったんだよ」


「そう…なの…」


膝下まで伸びた刺繍の入った長いスカートをぎゅっと握りしめエニリスはうつむいた。


まずい…もうこのやり取りは勘弁願いたい。


「僕もう行かないと!悪いけどまた今度ゆっくり話すよ。薬の予約がいっぱいなんだ。じゃあ」


抱えていた剣を背中に背負うと一目散に彼女の前から姿を消すレオーヌ。


あっ、という後ろで彼女が呼び止める声が耳に届いていたが聞こえないふりをしてレオーヌは走った。



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