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神々の正体  作者: 箱庭
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第12話 旧友

ゆっくりと開けた扉の隙間からレオーヌは恐る恐る顔を出した。まだ完全に信じきれていない様子で警戒しながらシェイスを下から上へと見回す。


「……」


「なにしてんだよ!早くしろっての!」


少しだけ開けられた扉に手をかけ、シェイスは少し強引に玄関をくぐった。

一瞬、体をビクッと反応させレオーヌは素早く後ろへ下がる。そして休めていた短剣を再び前へ突き出した。

まだ警戒を解かないレオーヌを両手を上げながら必死になだめる。


「おいおいそいつをしまってくれ!今話すから…」


しばらくの沈黙の後ようやく刃が遠ざけられシェイスはこの姿になった理由について話し始めた。


「実は俺がこんな姿になったのは変なものを飲まされたのが原因なんだ…」


森の中に監禁され魔物化されたこと、さらに魔人兵とよばれる異形者と戦ったこと、その一連の首謀者に国が関係していることなど。


とても信じられない内容であったが真剣に話すその口調は嘘を言っているように見えなかった。現にシェイスは魔物のような姿に変わっているのだ。


唖然とするレオーヌ。


「そ、そんなものが存在するなんて。長年薬学の研究をしてきたけどそれが本当だとしたらとんでもない話だよ」


「ああ。だからたぶん俺達が辺境の村に派遣されたのも最初から魔人兵を作るための布石だった可能性がある。何を企んでるのかわからねぇがこのままだと犠牲者はさらに増えるかもしれない。俺を魔物の姿に変えやがった白衣を着た連中もイカれたようなやつだったからな」


用心深かったレオーヌもようやくシェイス本人だと確信し短剣をベッド下にしまった後、薄暗かった部屋に明かりを灯した。


見慣れた部屋内をドカドカと入っていき羽織っていたマントを脱いで身軽になるとシェイスは崩れるように椅子に腰かけた。


「ちょっと休ませてもらうぜ。森を脱走してからここんとこずっと走りっぱなしだったからなぁ」


「ゼルベス地方から逃げてきたんだったよね?そりゃあ疲れるよ…うわぁ!」


明かりに照らされあらためてはっきり見えたシェイスの顔に驚きの声をあげるレオーヌ。


「な、なんだよ!?」


「ちょっと大丈夫なのかいその目!真っ赤じゃないか!」


「目?ああ、そうそう鏡貸してくれない?俺も気になってたんだ」


瞳に関するやりとりに慣れてしまったのかレオーヌの驚きなどまったく気にも止めずシェイスはやっと訪れた休息にうなだれていた。


「まったくあんな姿になってるっていうのによく平気でいられるよ」


独り言を呟きながら半ば呆れた様子でレオーヌは棚の引き出しから手鏡を引っ張り出しシェイスに手渡した。


「おお!ほんとに真っ赤だ!そりゃあみんなびっくりするよな」


鏡に写った赤い瞳を眺めながらはしゃいでいるかと思えばシェイスは急に声のトーンを落としレオーヌに話しかける。


「ところで、さっき言ってた俺が死んだって話し…詳しく聞かせてくれ」


依然鏡を見つめたままだが表情は険しかった。レオーヌもテーブルを挟んだ向かいの椅子に座ると一息ついて静かに話しを切り出した。


「ちょうど一週間前だよ。病院の知り合いに君の所属している騎士団が壊滅したっていう噂を聞いてね。最初は半信半疑だったんだけど。そしたら後日、城から正式に知らせが入ったんだ。君も含めて騎士団のほぼ全員が殉職したってね」


レオーヌの話ではすでに追悼式も行われそれぞれの遺体は故郷に返されたとのことであった。

だが当然ここである疑問が浮上する。そしてすかさずシェイスはツッコンだ。


「ちょっと待てよ、それだとおかしくないか?遺体ってなんだよ。現に俺は生きてるじゃねーか」


「僕に聞かれてもわからないよ。だってあの時遺品として君が使っていた剣と鎧が戻ってきてたんだし…ちゃんと棺桶だってあったんだから」


「じゃあその棺桶の中身は見たのか?」


「いや僕は見てない」


「ほらみろ!」


「それが遺体の損傷が激しいらしくて見ても判別すらままならない状態だって説明があったんだよ。でも君の遺品はあったし…あの時点でそんなことわかるわけないだろう」


「冗談じゃない!つまり俺は勝手に死んだことにされたっていうのか」


思わず頭を抱え込むシェイス。必死に訓練を重ねてようやく騎士団に入ることができたと思ったら実験に利用されあげくの果てには存在そのものも隠蔽される始末。


「ちくしょー替え玉まで用意しやがって…」


もはや悲しみというより怒りが込み上げていた。


「でもこれからどうするだい?」


「そのことなんだけどなレオーヌ、さっき騎士団がほぼ壊滅したって言ってたけどほぼってことは他に生き残りがいるってことだよな?」


「さあ。シェイスのことしか聞かなかったからわからないけど。でももしかしたらそうかもしれないね」


「よし、ちょっと悪いけど明日アルバレスタへ行って調べてきてくれよ」


「なんで僕が!」


「その病院の知り合いに聞けば色々聞き出せるんじゃないのか?」


「いやそうじゃなくて、なんで僕まで危ない橋を渡らなきゃならないんだよ」


「えー協力してくれるんじゃないのかよ!お前はこの国がどうなってもいいってのか!」


「そうは言っていない。だけど僕は死ぬまでにどうしても不老不死の研究を完成させないといけないんだ。君に付き合っていたんじゃあ僕まで危険にさらされてしまう。だいたい魔人兵とかいう怪物を作ったのもこの国のことを考えてのことかもしれないじゃないか」


「そうだったとしても何も知らずに国のために剣を振るっていたやつが無理矢理魔物にされちまうんだぞ」


二人の間に険悪な空気が漂い始める。その後も言い争いが絶えることはなく最後まで二人の意見が噛み合うことはなかった。


「お前に頼った俺が馬鹿だったよ」


そしてついに痺れを切らしたシェイスは勢いよく椅子から立ち上がる。


とその時、立ち上がった反動でシェイスのポケットからなにやら光るものが溢れ落ちた。それはコロコロと床を転がり続けやがてレオーヌの足にぶつかって停止した。


それを拾いあげるレオーヌ。


「返せよ!」


鋭い口調で突っかかるシェイスだがなにやらレオーヌの様子がおかしい。


「え!?ちょっと待って!いやいや、そんなはずない。シェイスがこんな物持ってるわけ…」


シェイスの問いかけがまるで聞こえていないのかレオーヌは鬼のような形相で本棚に駆け寄る。いくつも並べられた分厚い本から乱暴にひとつを抜き出すと少し震える手でパラパラとページをめくっていった。


「シェ、シェイスちょっといいかな?この石どうしたの?」


「ああ、なに言ってんだよいきなり」


「いいから!!」


あの比較的穏やかなレオーヌがものすごい剣幕で声を荒立てる。


「た、助けてやった女の子にもらったんだよ」



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