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気がつけば白雪姫の継母だった

作者: 安野雲

「鏡よ鏡、世界…」とまで言ったところで、私ははっと気がついた。

これは、自分の破滅への序章だと。


最後まで問いかけなければ、きっと大丈夫。


「鏡よ鏡、世界情勢は?」


鏡は応えた。


「近隣諸国が狙う中、この王国の行末は長くない。

王の采配は適当だし、白雪姫は天然すぎて、とても後継者に向かない。

現状をなんとかできるのは『王妃様、貴方です』」と。


今まで、先代王妃がそれとなくフォローしてたから、なんとかなってたのだろう。と私は思った。

自分の危機を回避するより先に、この国を何とかしなくてはならなくなってしまった。


この世界、女の身で直接何とかするには困難なので、私は使えるものは何でも使わなければならない。


私には美貌があるじゃないか。ちょっとキツめだけど、私は間違いなく美しい。


王妃の座も、それで手に入れたような気もするし、王様の口を借りて何とかするしかない。

あと、知性。王様も黙ってればイケオジだし、ピロートークとかで多分なんとかなるよね。


市中の者と接点を作って情報収集もしないと。と思っていたら、破滅が一人、紛れてた。狩人だ。


できるだけ距離を置こう、と思っていたの。でも、こいつ、良い奴。使えるし。


相変わらず、王も姫もパープーだけど、狩人たちの協力もあって、何とか国は回復しかけてる。


調子に乗っていた。

私の発言力の根拠である美貌、これを損なってはならないと、ついあの言葉を鏡に問いかけてしまった。


「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」


「それは王妃様です」


まずい。でもまだセーフだよね。


悔しいけど、老いは始まっている。表立っては動けないけど、王の仕事は大体私がやってる。

貴族連中は使えないし、新たに優秀な人材を雇う予算もない。

徹夜続きでお肌の調子も悪くなるというもの。


「今日からおべんきょうをします」私は王と義娘にそう言った。


「わーい。おべんとうだってパパりん」


「おーちゃんはハンバーグがいいぞ」


「おべんとう、ではなくてよ」


と言うと、二人はあからさまに暗い顔になった。胸が苦しい。


「お弁当も用意しましょう」


興味のあるところから入る。教育とはそういうもの。


さすがの若さの吸収力。おーちゃん、もといわが夫・王様よりはるかに早く、姫のおべんきょうは進んだ。


もう7まで数えられる。おーちゃんはまだ4だ。……7。不吉な数字が頭をよぎった。


そもそも、やっと4の概念を認識できる王のもとで、これまで国が成り立ってきたことを思うと、先代王妃の偉大さが身に染みる。


7は気のせいだ。きっと。私はそう信じ、白雪への教育を進めた。おーちゃんは……もういい。


白雪は興味のあることの吸収はすさまじい。料理、とくにお菓子作りに関しては、既に私をはるかに凌ぐ。


今日はアップルパイを作って、王宮中に振る舞っていた。

ほほえましいが……りんご。それはダメ。私は青くなった。が、アップルパイは美味しかった。


純真無垢で愛される姫に育ってくれて、嬉しいのだけど……


私が嫉妬さえしなければいい。嫉妬しても、行動に移さなければ問題はないはず。


覚悟を決め、鏡に問いかけた。


「鏡よ鏡……」


「最も美しいのは白雪姫です」


ありがとう、鏡。物語の進行は、やはりここまで来ているのね。

でも私は嫉妬しない。むしろ白雪に花丸を贈りたい。


事はアップルパイのように甘くなかった。


おーちゃんと白雪が森へピクニックに行ってしまった。

そして泣きながら、おーちゃんだけが帰ってきた。


しかも、狩人が気を利かせたのか、白雪捜索に出かけてしまった。……私は運命から逃れられないのだろうか。


狩人が帰ってきた。白雪を見つけられなかった。

悪いことに、イノシシを捕まえてきてしまっている。


おーちゃんは焼肉に目を輝かせる。ホルモン焼だと。娘の心配をしろ。


白雪が心配でたまらない。小人に保護されているはずだとは思うが、これは物語ではなく、私の現実。


生きていてほしい。私は、その一心で、鏡に再び問いかけてしまっていた。


「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」


鏡は応えた。


「お妃様、七人の小人と暮らす白雪姫です」


私は胸をなでおろした。迎えに行きたい。

でも私がそこに行けば、私の思いとは裏腹に、きっと白雪は倒れる。そんな気がする。


私は狩人に命じ、白雪を連れ帰らせようとした。


狩人は失敗した。代わりに白雪の手紙を持って帰った。


「お義母様。私は森で小人さんたちに随分お世話になりました。

お礼に自慢のアップルパイを焼いて振る舞いたいので、リンゴを持ってパーティに来てください。」


もう、私はどうなってもいい。娘に会いたい。それに……


私は家臣たちの前で、王を叱責してしまっていたのだ。

ここにいても、不敬罪に問われてしまう。

娘の安否を押し殺し、冷静に振る舞う王と、乱心した王妃に家臣には見えていたはず。

王の演技力は私自身が仕込んだものだ。


罰を受ける前に。と、私は老婆に変装し、新鮮なリンゴを持って白雪に会いに行く。


私は白雪に会った。涙でよく見えない。


「おばあさん、どうしておばあさんのおめめはキラキラしてるの?」


白雪、いつからお前は赤ずきんになった?


おばあさんと狩人、そしてヒロイン。だが、狼はいない。……はず。

一抹の不安がよぎる。


居た。ちょっと違うけど。おーちゃん。


「それはアップルパイを食べたくて、食べたくて、泣いてるからさ」


家族+親友(狩人)+7人の小人(恩人)のパーティが始まった。


おーちゃんには驚かされる。どうしようもないが、愛する夫。

そして、森の生活で家事を極めたらしい娘。

このまま幕が下りればいい。私は心からそう思っていた。


アップルパイの最後の一切れを、


「余ってる?たべちゃお」


と言って白雪が食べた。


そして家族に会えた安心感からか、スースーと寝息を立てて眠ってしまった。


この状況は……


おーちゃんが泣き出した。「白雪が死んでしまったー」と。


次いで、小人たち、狩人までも。


ここまでくると、もうこのシステムに呆れるしかない。

私は白雪の胸に耳をあて、鼓動を確認したのち、箱の中に作られた彼女のベッドへ寝かせた。

起こすのは、私じゃない。


扉を開けて彼が来た。何の脈絡もなく。


隣国の王子。「なんて可愛らしい人だ」と言って、甘いキスをした。アップルパイの破片がまだ口に残ってる。


白雪は起きた。自分が何をされたのか気づいていないのかもしれない。


「ぼくはこの人に一目ぼれしました。結婚したい。王様ですよね。王様、王様をください」


こいつも、ダメな奴だ。と私は思った。だが、それはそれで通じ合ったらしい。


おーちゃんは言った。


「王様になりたいか。いーよ。その代わり白雪を幸せにしてね」


私は罪を免れた。

しかし、正式に政務という鉄の靴を履き、踊り続けなければならない。

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