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大人のための童話

気がつけば白雪姫の継母だった

作者: 安野雲
掲載日:2025/06/26

「鏡よ鏡、世界…」とまで言ったところで、私ははっと気がついた。

これは、自分の破滅への序章だと。


最後まで問いかけなければ、きっと大丈夫。


「鏡よ鏡、世界情勢は?」


鏡は応えた。


「近隣諸国が狙う中、この王国の行末は長くない。

王の采配は適当だし、白雪姫は天然すぎて、とても後継者に向かない。

現状をなんとかできるのは『王妃様、貴方です』」と。


今まで、先代王妃がそれとなくフォローしてたから、なんとかなってたのだろう。と私は思った。

自分の危機を回避するより先に、この国を何とかしなくてはならなくなってしまった。


この世界、女の身で直接何とかするには困難なので、私は使えるものは何でも使わなければならない。


私には美貌があるじゃないか。ちょっとキツめだけど、私は間違いなく美しい。


王妃の座も、それで手に入れたような気もするし、王様の口を借りて何とかするしかない。

あと、知性。王様も黙ってればイケオジだし、ピロートークとかで多分なんとかなるよね。


市中の者と接点を作って情報収集もしないと。と思っていたら、破滅が一人、紛れてた。狩人だ。


できるだけ距離を置こう、と思っていたの。でも、こいつ、良い奴。使えるし。


相変わらず、王も姫もパープーだけど、狩人たちの協力もあって、何とか国は回復しかけてる。


調子に乗っていた。

私の発言力の根拠である美貌、これを損なってはならないと、ついあの言葉を鏡に問いかけてしまった。


「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」


「それは王妃様です」


まずい。でもまだセーフだよね。


悔しいけど、老いは始まっている。表立っては動けないけど、王の仕事は大体私がやってる。

貴族連中は使えないし、新たに優秀な人材を雇う予算もない。

徹夜続きでお肌の調子も悪くなるというもの。


「今日からおべんきょうをします」私は王と義娘にそう言った。


「わーい。おべんとうだってパパりん」


「おーちゃんはハンバーグがいいぞ」


「おべんとう、ではなくてよ」


と言うと、二人はあからさまに暗い顔になった。胸が苦しい。


「お弁当も用意しましょう」


興味のあるところから入る。教育とはそういうもの。


さすがの若さの吸収力。おーちゃん、もといわが夫・王様よりはるかに早く、姫のおべんきょうは進んだ。


もう7まで数えられる。おーちゃんはまだ4だ。……7。不吉な数字が頭をよぎった。


そもそも、やっと4の概念を認識できる王のもとで、これまで国が成り立ってきたことを思うと、先代王妃の偉大さが身に染みる。


7は気のせいだ。きっと。私はそう信じ、白雪への教育を進めた。おーちゃんは……もういい。


白雪は興味のあることの吸収はすさまじい。料理、とくにお菓子作りに関しては、既に私をはるかに凌ぐ。


今日はアップルパイを作って、王宮中に振る舞っていた。

ほほえましいが……りんご。それはダメ。私は青くなった。が、アップルパイは美味しかった。


純真無垢で愛される姫に育ってくれて、嬉しいのだけど……


私が嫉妬さえしなければいい。嫉妬しても、行動に移さなければ問題はないはず。


覚悟を決め、鏡に問いかけた。


「鏡よ鏡……」


「最も美しいのは白雪姫です」


ありがとう、鏡。物語の進行は、やはりここまで来ているのね。

でも私は嫉妬しない。むしろ白雪に花丸を贈りたい。


事はアップルパイのように甘くなかった。


おーちゃんと白雪が森へピクニックに行ってしまった。

そして泣きながら、おーちゃんだけが帰ってきた。


しかも、狩人が気を利かせたのか、白雪捜索に出かけてしまった。……私は運命から逃れられないのだろうか。


狩人が帰ってきた。白雪を見つけられなかった。

悪いことに、イノシシを捕まえてきてしまっている。


おーちゃんは焼肉に目を輝かせる。ホルモン焼だと。娘の心配をしろ。


白雪が心配でたまらない。小人に保護されているはずだとは思うが、これは物語ではなく、私の現実。


生きていてほしい。私は、その一心で、鏡に再び問いかけてしまっていた。


「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」


鏡は応えた。


「お妃様、七人の小人と暮らす白雪姫です」


私は胸をなでおろした。迎えに行きたい。

でも私がそこに行けば、私の思いとは裏腹に、きっと白雪は倒れる。そんな気がする。


私は狩人に命じ、白雪を連れ帰らせようとした。


狩人は失敗した。代わりに白雪の手紙を持って帰った。


「お義母様。私は森で小人さんたちに随分お世話になりました。

お礼に自慢のアップルパイを焼いて振る舞いたいので、リンゴを持ってパーティに来てください。」


もう、私はどうなってもいい。娘に会いたい。それに……


私は家臣たちの前で、王を叱責してしまっていたのだ。

ここにいても、不敬罪に問われてしまう。

娘の安否を押し殺し、冷静に振る舞う王と、乱心した王妃に家臣には見えていたはず。

王の演技力は私自身が仕込んだものだ。


罰を受ける前に。と、私は老婆に変装し、新鮮なリンゴを持って白雪に会いに行く。


私は白雪に会った。涙でよく見えない。


「おばあさん、どうしておばあさんのおめめはキラキラしてるの?」


白雪、いつからお前は赤ずきんになった?


おばあさんと狩人、そしてヒロイン。だが、狼はいない。……はず。

一抹の不安がよぎる。


居た。ちょっと違うけど。おーちゃん。


「それはアップルパイを食べたくて、食べたくて、泣いてるからさ」


家族+親友(狩人)+7人の小人(恩人)のパーティが始まった。


おーちゃんには驚かされる。どうしようもないが、愛する夫。

そして、森の生活で家事を極めたらしい娘。

このまま幕が下りればいい。私は心からそう思っていた。


アップルパイの最後の一切れを、


「余ってる?たべちゃお」


と言って白雪が食べた。


そして家族に会えた安心感からか、スースーと寝息を立てて眠ってしまった。


この状況は……


おーちゃんが泣き出した。「白雪が死んでしまったー」と。


次いで、小人たち、狩人までも。


ここまでくると、もうこのシステムに呆れるしかない。

私は白雪の胸に耳をあて、鼓動を確認したのち、箱の中に作られた彼女のベッドへ寝かせた。

起こすのは、私じゃない。


扉を開けて彼が来た。何の脈絡もなく。


隣国の王子。「なんて可愛らしい人だ」と言って、甘いキスをした。アップルパイの破片がまだ口に残ってる。


白雪は起きた。自分が何をされたのか気づいていないのかもしれない。


「ぼくはこの人に一目ぼれしました。結婚したい。王様ですよね。王様、王様をください」


こいつも、ダメな奴だ。と私は思った。だが、それはそれで通じ合ったらしい。


おーちゃんは言った。


「王様になりたいか。いーよ。その代わり白雪を幸せにしてね」


私は罪を免れた。

しかし、正式に政務という鉄の靴を履き、踊り続けなければならない。

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