第6話 捕まえに来た者たち
数日が経った。
アオのおかげで、怪我は少しずつ癒えてきた。
だけど──
「隣、最近……変な人たちに見られてない?」
アオが、不安そうに尋ねた。
「え?」
言われてみて、僕も気づいた。
ここ数日、学校の帰り道や家の近くで、スーツ姿の男たちにじっと見られることがあった。
ただの通行人じゃない。
明らかに、"何か"を探っている目だ。
「アオ、大丈夫だよ」
そう答えたけれど、胸の奥がざわざわする。
──まるで、狙われているみたいな。
そんなある日。
放課後、学校の正門を出たところで、僕はその"異変"に真正面から出会った。
黒いスーツにサングラスの男たちが、ずらりと並んでいた。
その中心に、一人だけ違う雰囲気の人物がいた。
若い男だった。
銀縁の眼鏡をかけ、白衣のようなコートを羽織っている。
彼は、僕をまっすぐに指差した。
「砂場隣くん。君に、同行をお願いしたい」
周囲の空気が凍りついた。
(──誰だ!?)
「……あなたたち、誰?」
震える声で、僕は聞いた。
男は笑みを浮かべたまま、名乗った。
「僕たちは『異能対策局』の者だ」
──異能対策局。
この国に存在する、異能者を管理・監視するための政府機関。
普段は一般人には存在すら知らされない、裏の組織。
「先日の、"異能暴走"事件について──君に事情を聞かせてもらう」
僕の背筋に冷たい汗が流れた。
(バレた……あの時の白化……)
「拒否権はないよ」
男は、にっこりと笑った。
でも、その笑顔は、どうしようもなく冷たかった。
アオが、僕の腕をぎゅっと掴む。
「隣、行かないで!」
「アオ……」
(──どうする?)
逃げられるのか?
無理だ。
周りは、スーツの男たちに囲まれている。
逃げれば、今度こそ、"本気"で力を使うことになる。
また暴走するかもしれない。
アオを巻き込んでしまうかもしれない。
(だったら──)
僕は、ゆっくりとアオに向き直った。
「大丈夫だよ」
小さく、微笑む。
「すぐ戻るから」
アオは、泣きそうな顔で、首を振った。
でも、僕はもう決めていた。
自分の足で、歩く。
誰かを守るために。
たとえ──
この檻の中でも。
僕は、自ら異能対策局の男たちの元へ歩き出した。
──そして、連れて行かれる。
新たな運命の檻へと。