第4話 嗅ぎつけた者たち
次の日の朝。
学校は、どこか空気が違っていた。
ざわざわと、廊下に広がる噂。
「なあ、聞いたか? 昨日、屋上でなんかあったらしいぜ」
「異能持ちが暴れたとか……?」
隣は、聞こえないふりをした。
けれど、心の中では嫌な汗がじっとりと滲んでいく。
(……まずいな)
あのとき、誰かに見られていたのは間違いない。
そして今朝、
学校の門前には、見慣れない黒い車が停まっていた。
「異能対策局」と書かれた腕章を巻いた大人たちが、教師と何やら話している。
「──砂場隣くん、ちょっと来てもらえるかな?」
呼び止められたのは、昇降口だった。
「……はい」
拒否権なんて、あるはずがない。
隣は、静かに頷いた。
連れていかれたのは、空き教室。
無機質な机と椅子、そしてスーツ姿の男女。
一人が、にこりともせずに口を開いた。
「君、昨日、屋上で何をしていた?」
静かな、けれど決して逃れられない圧を孕んだ声だった。
(まずい……)
答えに詰まった、そのとき。
「すみませんっ!!」
勢いよくドアが開いた。
アオだった。
アオは、乱れた息を整えながら、叫んだ。
「昨日は、あたしが隣に無理言って……えっと、……その、飛び降りごっこしてただけです!」
「飛び降り──?」
スーツの男女が、顔を見合わせる。
隣は、驚きすぎて声も出なかった。
「ご、ごっこです! なんか、映画の真似とか、バカなことして……それで、ケンカになっただけで! 隣は、悪くないです!」
アオは、必死だった。
息を切らし、顔を真っ赤にして、それでも隣を庇おうとしていた。
(……アオ)
心の奥が、じんわりと熱くなった。
スーツの女が、しばらく隣を見つめたあと、ふっとため息をついた。
「……まあ、目撃証言だけじゃ決め手に欠けるか」
「今回は注意だけにしておきましょう。ただし……」
男が鋭い目で隣を見た。
「"力"は、隠していても、いずれは暴かれる」
冷たい声だった。
「……はい」
隣は、静かに答えた。
まだ、
今はまだ──
この檻を、他人に晒すわけにはいかない。
「行っていい」
許可が出ると、隣とアオは、逃げるように教室を飛び出した。
廊下に出た瞬間、隣はアオに頭を下げた。
「ありがとな、アオ」
「……隣が、助けてくれたからだもん。おあいこ!」
アオは、照れたように笑った。
──だけど。
(おれは、いつまで隠し通せるんだろう)
隣は、静かに、強く、拳を握りしめた。
檻の中の力が、また暴れ出そうとするその日まで──