表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
力の檻  作者: ばばろあ
2/77

第2話 檻の中の獣

何かが壊れる音がした。

それが、不良の腕だったのか。地面だったのか。

それとも──隣自身だったのか。


隣の白く変わった髪が、風を切る。


「う、うわっ!」


「バケモンだ──!」


不良たちは悲鳴を上げ、無様に逃げ出した。

誰一人、隣に立ち向かおうとはしない。


それほどまでに、

今の隣は「異常」だった。


呼吸が荒い。

視界が赤く滲んで、正常な思考ができない。

けれど、それでもわかった。


(……アオは──?)


ぎこちなく振り返る。

アオは、呆然としたまま立ち尽くしていた。

その小さな肩が、かすかに震えている。


──怖がっている。


そのことだけが、鋭く隣の胸に突き刺さった。


「……あ……」


喉が震えた。

言葉を紡ごうとするが、声にならない。


代わりに、異様な高揚感がこみ上げてきた。


もっと暴れたい。

もっと壊したい。

もっと力を振るいたい──


そんな、隣自身のものとは思えない"欲望"が、内側から湧き上がる。


(やだ……やめろ)


心の中で叫ぶ。

だが、白化した身体は、まるで別の生き物のように反応していた。


「──あぁああああッ!!」


隣は叫び声をあげ、拳を地面に叩きつけた。


ドン、と重い音。

アスファルトがひび割れる。


破片が飛び、アオが小さく悲鳴を上げた。


その声で、ようやく、隣は我に返った。


「──あ……」


白く染まった髪が、じわじわと黒に戻っていく。

過剰に高ぶった体温が、冷たく沈静していく。

残ったのは、手のひらににじむ血と、震える自分の身体だけだった。


隣は、呆然とその手を見つめた。


(おれは……)


アオを守りたかっただけなのに。

守るどころか──怯えさせてしまった。


「……ごめん」


かすれる声で呟く。


アオは何も言わず、ただ首を横に振った。

その瞳には、怯えと、戸惑いと、ほんの僅かな安心が入り混じっていた。


隣は、その場にへたり込んだ。


この力は──

力なんかじゃない。


これは、

おれを閉じ込める檻だ。


強くなればなるほど、自分を失う。

守りたいものすら、壊してしまうかもしれない。


怖かった。


この力が。


そして──

自分自身が。


隣はただ、地面に両手を突き、震え続けた。


空は、いつの間にか、深い群青に染まっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ