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9.ため息が止まらない

お読みくださり有難うございます。

 


 (手紙を読んで飛んできたのね……それにしても速すぎよ)


 扉の前で優雅に出迎えの挨拶を述べているレオルガの背後から並々ならぬ気迫が見える


 (全部答えるまで解放してもらえないわね……)


 こうなった従者は手強い。こういう時は彼1人の意思では無く、使用人代表で来ている事が多い。心配かけまいと下手な言い訳を諦め、何が合ったのか正直に答えるのが解放への近道である。


「レオルガ書斎へ……」

「はい。お嬢様」


 1階でも良いのだが廊下への扉が近い。建物全体が防音性に優れているとはいえ、やはり心許ない。


 階段を登っていると書斎にはすでに灯りがついていた。


「ミーユお嬢様。おかえりなさいませ」

「ただいま。レオンも来ていたの?」

「お嬢様の一大事ですので!」


 カルミーユが、小さな応接用のソファーに座ると目の前に紅茶がスッと差し出された。礼を言ってから一口、飲みなれた味にホッとする。


「2人も座って」

「「失礼致します」」


 カルミーユの向かい側の席に2人は腰をかけた。


 (こうして見るとやはり親子だけあって似ているわ……性格はあまり似てないけれど)


「私から先に聞いていい?」

「勿論です」


 今日手渡された報告書も夕食前にざっと目を通したが、念の為もう一度確認しつつカルミーユは、昨日から気掛かりだった事を最初に聞いた。


「メアリーの事なのだけれど、あの子毎日1()()で出かけているの?」


 昨日見たメアリーが使った帳簿の金額に違和感を感じての質問だった――


「いえ……()()()でございます」

「女性の方?」

「たまに殿方と2人の時も御座いますが、特定の誰かと言うわけでは無いようです」

「……支払いは、全てメアリーなの?」

「そのように聞いております」


 カルミーユは頭を抱えた。人の目のある往来で、不特定の殿方と2人など、噂の種を自ら蒔きに行っているようなものだ。況してや資金繰りがギリギリの我が家で(当人達は全く気にも留めていないが……むしろその事を知っているかどうかすら怪しい) 、見栄を張りたいにしろ全ての支払いがメアリーだということにいささか疑問が過ぎる。程の良い財布代わりの様な扱いな気もしてくる。レオンも同じ事を考えたのか「うわぁ〜いいカモだと思われてますねー」と言って、レオルガに嗜められていた。聞けば聞くほど深い溜息が無意識に何度も溢れる。


「……メアリーの課題は?自分でやっているの?」

「メアリー嬢は、お嬢様に課題をして貰えなかったと怒って帰宅された後、リゼに代わりにするように命じたのですが、その時にリゼが「私はメアリー様に比べて学が無いのです。そんな私がメアリー様の課題をお手伝いして、恐れ多くもメアリー様の輝かしい学園生活に汚点を残したくございません」と言いまして」

「もしかして、リゼのやつその言葉の他にも煽てに、煽てまくったりしたのか?」


 レオルガの説明に、レオンが笑いながら問いかけた。カルミーユも話を聞きながらレオンと同じ様な情景を思い浮かべてしまい苦笑するしかない。「学が無い」のではない。カルミーユからすれば、この2人を含め屋敷の使用人達は自身より学も才も優れた人材だ。メアリーや父そして義母からすれば、彼らが成す事は全て出来て当たり前で処理され、自身の方が優れてると信じて疑わないので、多分これから先も気づくことはないだろう。思い込みとは恐ろしいものだとカルミーユは思った。

 レオルガはその時見た光景を辿る様に語った。


「まぁそうだな……流れる様に机に誘導し、課題を目の前に広げ、メアリー嬢が課題を1つこなす毎に称賛を浴びせてはいた」


 扱いが赤子のそれなのだが、褒められるのが好きなメアリーにあった手法なのだろう。


「レオルガ、リゼに私が褒めていたって伝えてくれる?後苦労をかけるわとも――」


 (毎日そうしないと課題をこなせないというはリゼにも負担がかかるし心配だわ)


「お嬢様。リゼにそれ伝えたら多分……感極まってお嬢様の写真に毎日祈りを捧げるじゃないんですか?」


 言われた意味が分からず、理解するのにレオンを見つめる事数秒――


「レオンそれは大袈裟よ」

「リリアナとリゼは、お嬢様のファンクラブ会長と副会長なんですよ?絶対やりますって」

「い、いつの間にそんな物が出来てるの……」


 カルミーユが、驚き過ぎて年相応の表情を見せている事に微笑ましく思いつつ、レオンは至極真面目な顔をして言った。


「お嬢様が生まれた時からあります」


 目が点になるとはこういうことだろう――という様な顔になったカルミーユは、そのままぎこちなくレオルガを見た。苦笑しているので、本当に存在しているらしい。


「そんなことしたらリゼと口きかないって言っておいて……」


 若干拗ねたような口調で言ったカルミーユに、レオルガやレオンは懐かしさを含んだ慈愛のこもった目で見ていた。前当主であるミモザが亡くなってからまだ3年余りだ。目の前の当主が子供でいる事を辞めてから3年過ぎたという事でもある。だから時折見せる表情がつい最近まで見ていた筈なのに遠い昔の事のように思え不憫でならなかった。


「「お嬢様とお話出来ないなんて死んでいるようなものだわ」って言いそうですね」


 笑いながらレオンがリゼの声を真似て話すので、カルミーユも釣られて笑う。


「今のはリゼに似ていたわ」


 (ファンクラブなんて大層なもの解散して欲しいのだけれど……あの2人相手だと不可能よね)


 カルミーユに使用人達は、皆過保護なのだが、その筆頭がリリアナとリゼなのだからやめて欲しいと頼んでも受理される事は無い。大変恥ずかしいのだが、この話は聞かなかったことにした方が、自身の心が平穏である。でなければ羞恥で死ねる。


「お父様とお義母様はどう?」

「メアリー嬢含め()()()と変わりありません」

「はぁ!?「待って。メアリーも毎日夜会に行ってるの!?」」


 驚くカルミーユとレオンに、レオルガは静かに頷いた。


「親父、屋敷は大丈夫なのか?」


 心配するのも無理はない。ミモザで働いているのは、全てフォンテーヌ家の使用人達だ。商会とは違い、屋敷の財政状況は耳に入るようになっている。レオルガとレオンの会話を聞きながらカルミーユは言い知れない不安に駆られていた。


「レオルガ」

「はい。お嬢様」

「ルーナとケリーにお父様とお義母様が夜会でどの様な会話をしているのか一言一句全て書き留めておく様に伝えて、後メアリーも含めて交友関係の素性を全て探って欲しいわ。誰が背後に居るのかも……それも日々の報告で教えてくれる?」

「何か気になることでも?」

「何か引っかかるのよ。骨が喉元に刺さった様な感じかしら?」


 基本料理を作ってくれるシェフ達が綺麗に処理してくれるので、その様な経験は無いが、庶民では良くある事だとフリージアが以前話していたので、想像して言って見たのだが、それを聞いたレオンが真面目な顔をして言った。


「その表現はご令嬢としてどうかと思います」

「でも他に言い方はあるの?」

「そこはかっこよく勘が告げてるとかは?」


 かっこよくする要素が何処にあるのだとカルミーユは首を傾げた。


「それよりもお嬢様。アルブル家の依頼受けたって……」

「受けたわ。それでトマにもお願いしたのだけれど……」


 サッと机に木箱が置かれた。さりげなく用意されるので、一体何処から取り出しているのだろうといつも不思議に思う。何かコツでもあるのだろうか。


「こちら材料を預かっております。トマから「こちらでも試作を幾つか作っておきます」との伝言を預かっております」

「ありがとう」

「では、どういった経緯でこの様な事に至ったのかご説明して頂けますよね?」


 問いかているだが、圧がすごい。


 (怒ってるわよね……)


 何か粗相が有れば、家が危うくなる様な家柄のお方なのだから仕方がないといえば仕方が無いのであるが――


「ことの始まりは昨日なのだけれど――」


 カルミーユは図書館で、ばったり出会ったのと、運悪くメアリーが自身を探しに来てしまい、急いで隠れた所から普段のメアリーを知られた事や妹君の依頼の件に食堂での出来事――そして今日の放課後の事を話していく。


「アルブル殿は初めからお嬢様を探していたって事ですよね?メアリー嬢の事はまぁ不慮の事故という事で、遅かれ早かれあの猫の被り方だと露見しますし……」

「不慮の事故――」


 果たして事故で片付けて良いのだろうか?


「お嬢様。メアリー嬢は現在も教室まで探しに来ていますか?」

「いいえ。私がクラスの方達と居るのを見つけると避けて何処かに行っているわ。あの子と私のクラスの方達との間に何が合ったのか未だに分からないのだけれど……」


 知らないことは話せない。周りがいつも通りなので、聞くに聞けないのもあるが――


「親父。思ったんだけど、メアリー嬢は、教室で一度事故を起こし――その本人も避けるくらい強烈なしっぺ返しを貰ったという見解は?」

「有り得る話ではあるが……お嬢様。ご友人からは何も?」

「クラスでは、何も無かった事になってるわ。フリージアは、事情を伝えているからあの子の名前が出ると「懲りないなぁ」って」

「やらかしてますね」


 レオンが腕を組みうんうんとうなづく。


「そうなるのかしら?そう言えばヤグル様も「彼女はいつもこの様な感じなのかな?」って……もしかしてクラスの件はヤグル様も見ていたって事?」

「そうなり……ってお嬢様。アルブル殿を愛称で呼んでるんですか!?」


 レオンは驚きのあまり勢いよくカルミーユに詰め寄った。机の紅茶が溢れなかったのが幸いである。


「レオン落ち着きなさい。で、お嬢様どう言う事です?」


 納得していないのはレオルガも同じであった。


「ヤグル様にそう呼んでと言われたのよ。友人として接してくれって、私の事もルミーって呼んでいるわ」

「気に入られてるじゃないですか!」


 かなりオーバーなリアクションをするレオンに笑いが込み上げてくるが、笑い事では無いと怒られそうなので、カルミーユは落ち着く為に紅茶を一口。


「多分少し毛並みの違う友人が欲しかっただけだと思うの」

「何かしでかしたんですか?」


 何故、何かしたという前提が有るのだろうか。カルミーユは自分が言った言葉を思い出そうと記憶を遡ってみる。


「強いて言うなら「ずっと気を張っていって疲れませんか?」とは聞いたわ」

「どういった経緯でその言葉が出るんです?」

「だって、ヤグル様の笑顔が貼り付いた人形みたいに、薄寒く感じたのよ……」

「それ本人に言ってませんよね」

「流石にそのまま口にはしていないわ」

「似たような事は言ったと」


 カルミーユはそっと目を逸らす。2人の目が「やっぱり、やらかしている」と雄弁に語っているから居た堪れない。


「正直に言えと仰ったからこれでもオブラートに包んだのよ」

「あんまり包めてませんよ……」

「これから先、店主と顧客として接するとしてもその人が見えなければ、その人に合ったものを作ることなんて不可能よ」

「お嬢様の商人魂は、賞賛に値しますが、人によっては不敬だど言われますよ」

「分かっているわよ。適切に距離は保つつもりよ」


 ふと距離が近かった事を思い出しそうになり、冷静を保つために自身の膝を抓った。中々に痛い。


「でも今日もお話しされたんですよね?」

「したわね」


 従者2人の視線が痛い。これが屋敷なら――と考えただけで、マシなのだろうが……


「後ヤグル様は、私がフォンテーヌ家の当主だとご存知だったわ」





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