20.不思議な少女〜ヤグルマギク視点〜
お読みくださり有難うございます。
明けましておめでとうございます。
本年もゆるりとお付き合いください。
「ヤグル様、こんな所で何をしているのですか?」
呆れた顔を隠そうともせず、開口一番に問われ、僕はにっこりと笑った。
「勿論買い物だよ」
「……」
彼女は何故か外行きの僕の表情がお気に召さないらしい。その証拠に「胡散臭い」とその目が雄弁に語っている。
初めはただ興味本位だった――
***
神童と領内で言われていた僕は、記憶力がとても良かった事もあって大抵の事は、一度見れば大抵のことは覚える事が出来る。だから学園の中等部や高等部の内容が多少入った入学試験も難なく解く事が出来たのだ。
この僕と約1点の差で、試験を通った子がいるのを知った時は、驚いたと同時に、どんな子なんだろうと興味が湧く。成績順にクラス分けがされるから探さずとも直ぐにその子に会えた。
チョコレートミルク色の髪を成人していない女性では珍しく緩くまとめ、何処か儚い印象を与える彼女は凛とした佇まいで、自身の席に座っていた。
カルミーユ・フォンテーヌ
フォンテーヌ男爵家 当主代理
当主代理という事は、当主の采配権を持つ者、現状僕よりも身分が上だが、学園では身分差無く互いに学べという教訓がある。彼女が身分に執着しない人ならば、学園内なら僕から声をかけても大丈夫だろうと足早に彼女に近寄った。
「初めまして。ヤグルマギク・アルブルと申します。以後お見知り置きを」
「初めましてカルミーユ・フォンテーヌです」
柔らかく包み込むようなそれでいて透き通った声をした少女だった。
成績順で座席が決まるので彼女とは常に前後という近い距離に居るにも関わらず全くと言って良いほど接点が持てない。休憩時間になれば、彼女では無く何故か伯爵家当主の孫である僕が他クラスの人に囲まれる。
(彼等は彼女の方が、僕らより身分が遥かに上だと気づいていないのか?)
男爵家は序列から言えばかなり下の方だが、貴族社会の人脈や将来当主を継ぐとしても経験がものを言う。長く携わればその分、身分が低かろうと持っている繋がりの方が強いものだ。それが分からない人は、それまでの人間だったと割り切る事にした。むしろ囲まれているせいで、彼女が僕を避けていた。
(よくもまぁ……これだけの褒め言葉がスラスラと出てくるものだねぇ〜僕に媚を売っても何かの役に立つわけではないのに……)
正直うんざりしてる。だが下手に動けないので、大人しく笑顔でやり過ごしてはいるが、視線は彼女を探していた。時折、中等部や高等部の教師に呼び止められ話しているのを見かけるのだからやはり優秀なのだろう。定期試験の結果を見ても後少しで僕を抜く結果だ。そこでふと違和感を感じた。
「ねぇローダン。実力のある優秀な人がそれを隠すのは何故だと思う?」
ローダン・リヴィエール
リヴィエール伯爵当主の孫で上に兄が2人いる。生真面目で落ち着いているのだが、曲がった事が嫌いで、最近知ったが割と負けず嫌いである。人に媚びたりしない彼と居るのは、気が楽なのでよく行動を共にしていた。
「目立ちたくないからとかは無いのか?家の事情とか色々あるだろうし……無駄に目立つと厄介事に巻き込まれるなら隠すというのもあるんじゃ無いか?」
(もし彼女が目立つのを避けているのならば、学年2位を維持し続けるだろうか……)
僕の頭の中では、この噛み合わない何かを解明しようと更に彼女を観察する日々が始まった――
「親無しの平民風情が、何故Sクラスにいる。どんな手を使った!」
談笑していた僕達は声のした方を見ると、他クラスの人間が同じクラスの平民の少女フリージアを囲んでいた。
フリージア嬢は平民で孤児院育ちという家庭教師がついて当たり前の貴族からすれば、大きなハンデがある中で、学年3位という成績を取った子だ。僕や彼女がいなければトップを取れるくらい優秀な人を将来自身の家の事を考えれば取り込みたいと思う人間は多いが、それと同時に今のように難癖をつけるという状況も多々ある。
フリージア嬢が育った地方は、荒くれ者が多いらしく、彼女自身もどちらかといえば、淑女や町娘とも掛け離れたむしろ騎士団とか冒険者に居そうな子である。必然的に喚き散らす男達の神経を逆撫でたようだ。1人がフリージア嬢の胸ぐら目掛けて手を出した――
パシン!
「イッ……」
「女性に手を出すとは、それでも殿方なのですか?」
芯の通った声が静かに響く。持っていた扇子で手の甲を叩いたのだろう。彼女は口元を隠すようにそれを広げ、フリージア嬢を背後に庇うように立った。あの中では1番小柄な彼女が何故か1番大きく見える。
「邪魔をするな!俺達はこの女の不正を暴いているのだぞ!」
「不正?この学園で?」
心底不思議そうな声で彼女は聞き返した。
「出なければこの女がSクラスにいる方がおかしいだろう!」
そう言えば納得するとでも思っていたのだろうが、彼女は静かな声で言った。
「フリージア嬢に負け、それ以前にSクラスにすら入れないあなた方の努力が足りていないだけではなくて?」
「なっ!そもそも平民が貴族より上に居るのがおかしいのだ!」
「ふふ、おかしな事を仰るのですね?あなた方が馬鹿にしている平民が居なければ我々は生きていけないのに」
いつもとは違い侮蔑の籠った冷ややかな声だ。クラスの時が止まったかのように静まり返り皆が様子を見ている。
「貴方のその着ている衣服は誰が作った物かしら?」
「貴方の食事や身の回りの世話はどなたが?」
彼女は静かに問いかけていた。だがその問いは彼らだけでなく我々にも問いかけているようにも思えた。
クラスメイトも問いかけられている意図が、分からず困惑した表情を浮かべている。
「私たちの家を建てているのも普段口にする食事、それらに必要な物を育ているのもみな貴方が蔑んでいる平民なのです。着ている服も全て私達が優雅に過ごす間、汗水を垂らし働いてくれているのですよ?」
彼女は扇子を閉じると1人の胸元に光るブローチを指す。
「これはお幾らですか?」
「し、知らない……」
「見たところルビーですわね。この大きさからすると30万リルといったところですわね。平民約30人分くらいの1月分の給金ですわ。彼等の家族も足せば30人以上の方々の生活がそれ1つで成り立つのです。確かに貴族である我々は生まれた時から他より恵まれています。ですが、ただそれだけなのです。皆同じただの人に過ぎないのです」
悲しそうに微笑む彼女に対し、我々は唖然としていた。
ここに居る誰1人として今身につけている物や口にしている物、ましてや平民の給与など気にした事など無い。フリージア嬢に詰め寄っていた男達と我々の何処が違うのだろうか?皆平民がしてくれて当たり前だと思っていた。彼女はその考えが間違っているとはっきり言ったのだ。
程なくして中等部の者たちが、駆け寄ってくる。見たところフォンテーヌ家の従者達のようだが、彼女は困ったように苦笑を浮かべ従者達を見ていた。
(そういえば、彼女が彼等といるのを見た事ない……学園内では従者として扱いたくないのか?)
従者に守られている彼女に「貴様だって、我々と何が違うのだ」と言った男に対して、従者の1人が言った。
「我々は身分では確かに平民です。では何故金銭のかかる中等部に通えているのか。お嬢様が「学びを得るのに身分は関係ない」と機会を与えてくれたのです。我々に選択肢を下さいました。人として尊重してくださっているのです。だからこそ我々は命令された訳でも親に強要されたのでもなく、自分の意思でお嬢様に仕える事を選択しているのですよ。あなた方との違いが分かりますか?此処に居る多くの平民は、将来仕える場所を探しているのをご存知で?まぁ……今のあなた方の振る舞いを見て仕えたいと思う人は出てこないとは思いますが……それをよく考えるように」
最後は冷ややかに告げたその従者の言葉は、我々にも突き刺さるものだった。
「ヤグル……フォンテーヌ嬢は、私の兄達とはまるで違う。いや、違うな……僕どころか兄達もまだまだ彼女の足元にも及ばない」
隣にいたローダンがぽつりと言った。
(領主達ですら彼女の足元に及ばぬ者が沢山いるのだろうな……)
従者が自ら仕えたいと思わせる当主としての器を持っている同級生。自身の家の当主達は如何だろうか?と考えている者もいるのだろう。彼女の様に側にいる者達や領民達を本当の意味で見ているのだろうか?様々な考えが浮かびつつもこの場にいた者達は、従者達と会話しているカルミーユ・フォンテーヌをただ尊敬や憧れにも似た感情を持って見ていた。
「俺が、もし何処かの家に修行へ行けって言われたら迷わず、フォンテーヌ嬢の所へ向かうね。彼女から学べる事は沢山ありそうだ」
ローダンがそう言ったように、翌日フリージア嬢が、「将来僕は君にしか仕えない」と大々的に宣言していた。一連の騒動を見ていたSクラスは納得顔だが、彼女は目を瞬かせて言った。
「嬉しいけど、まだまだ先は長いわ。ゆっくり色んなものを見てから決めても遅くはないと思うの。そうね……先ずは友人になってくださいな」
彼女達がそこから共に行動するようになったのは言うまでもない。
それ以降も学園生活自体は、貴族主義が問題を起こす以外は基本的に平和そのものだ。非常に残念で仕方が無いが、彼女と挨拶以外の会話が出来ていないのも何1つ変わらず日々が過ぎ長期休暇に入ってしまった。休暇が終われば学年が1つ上がる事になる。
「みぃ〜つけた」
「痛っ……たぁ!」
「部屋で大人しくしろと言われただろ?」
加減はしてくれている筈だが、言葉と同時に思いっきり僕の頭を叩いた少年が、女の子の様に愛らしい容姿とは、真逆の仁王立ちに顰めっ面で僕を見下ろしている。我が家に居候中のヤナギである。
「ヴィオが気になって……」
今日は妹ヴァイオレットのお披露目会だ。成人していない僕は、会に出席出来ない。今朝様子が、変だったのが気になり、隠し部屋からこっそりと覗いていた所を叩かれたというわけだ。
「の、割にはヴィオのこと見てないよな?」
「初めは見てたんだけど、ほらあの親子がさぁ」
「え?あの子供俺たちと変わらない……お披露目なワケないし」
高位貴族などは自身の家でお披露目会をするが、下位貴族はそもそも自身の屋敷でお披露目するよりも王家主催の夜会行う事が多い。各方面に覚えて貰えるのでメリットが大きいからだ。それと他家主催の夜会に自身の孫や子のお披露目をするのはマナー違反だからとも言える。
「あの子達の話を聞く限り、色んな夜会に出てるみたいだよ」
そう言えば、ヤナギは心底理解出来ないと言った表情をする。
「何が楽しいんだか……それとお前が見てたのとはなんか関係あるの?」
「彼らはフォンテーヌ家の者らしいあの子の義姉が僕の同級生なんだ」
「フォンテーヌ当主代理の令嬢とは面識あるけど、あの人達は知らないなぁ」
僕は瞬きしてヤナギを見た後、詰め寄るように彼に近づいた。
「ヤナギ。フォンテーヌ嬢といつ!何処で!」
「とりあえず……ここから部屋に戻ろうな。ダル爺さんこっち見てるぞ〜」
「え」
覗いていた隙間をもう一度見るとバッチリと爺様と目が合い――にっこりと微笑まれた。背筋が凍るとはこういう事を言うのだと僕は身をもって体感したのだ。硬直した僕の襟首を捕まえズルズルと引き摺りながらヤナギが淡々と話してくれた。
「まずフォンテーヌ家は、母さんの仕事相手兼前当主が学園の同級生で親友。だから母親の方とは何度か会ってるんだけど……俺のお披露目が特殊だったのは聞いてるだろ?」
「2部制にしたやつだよね?」
「そう。で1部に娘の方が従者2人と出席してた」
不要に首を突っ込むべきではないと分かっているので、ヤナギの事は、詳しく教えて貰っていないが、様々な事情で1部には信頼のおける者のみの招待。2部目は他の貴族達も追加で招待という形を取っていたらしい(僕の時もそうして欲しかったと思ったのは心の内に留めておく)。
勿論我が家は1部からの招待だ。表向きには2部目の事が本命の夜会になっている。前当主が亡くなっていたとはいえその1部目に彼女が招待されていたのだ。驚くなと言っても無理な話である。
「母さん曰く、婿の旦那は最低な奴だから敷地にも入れたくない。あと……最低非常識親子とは関わる必要性が無いから令嬢と従者だけを招待したんだって」
「従者は付き添いではなく、招待だったのかい?」
「うん。従者の1人でレオンって人も先輩なんだって、令嬢からは祝いに持ち運べる画材セット貰った」
「いつも使ってるあれかい?」
「そう。俺が母さんの真似して絵を描いてることを前当主から聞いてたんだって、後母さんがずっと外で絵を描きたいのに中々難しいってよく言ってるんだけど、それを考慮して軽量で持ち運び出来るコンパクトサイズを作ったって」
「……作った?」
フォンテーヌ家は商会の家だ。取り寄せたとかならまだ受け入れたが、まさかの作ったである。ますます彼女のどういった人物か気になるとワクワクしている僕は、さらなる巡り合わせに心を躍らせることになる。
「ヴィオが香りに敏感な体質ですか?」
「ええ。ずっと鼻を押さえていたでしょ?香水の匂いが駄目だったみたいなのよ。レラさんが同じ体質らしくて気づいて教えて下さったのよ」
「何か解決策はあるのですか?」
貴族の嗜みとしてある一定の年齢になれば香水を衣服と同じようにつけることになるし、夜会などに参加すれば嫌でもその香りが充満している。今は良くても後々妹の足を引っ張ってしまう事になる。
「王都にあるミモザというお店が、個人に合ったハンドクリームを販売しているらしいの。レラさんもそこを利用して対処法など色々教えて貰って、大分改善していると言っていたわ」
「母上、王都でしたら僕がどういったお店なのか見てきますよ」
「お願い出来る?」
母に頼まれたその日、僕はミモザと言う店を調べた。事前知識はとても重要だからだ。
「店主はレオンという平民かぁ……ん?レオン?」
何かが引っ掛かった僕は、部屋を出て廊下を足早に歩き、目的の部屋の扉を勢いよく開けた。
「ヤナギ!昨日言ってたフォンテーヌ家の従者の似顔絵描いてくれる?」
「ノックしろよ……で、描いてどうするの?」
「ヴィオの事聞いてるだろ?店の店主がレオンという名前なんだよ」
僕の表情で何かを悟ったヤナギは呆れた顔で僕を見る。
「もしそのレオンさんって人ならどうするのつもり?」
「交渉に……」
「令嬢脅すって?やめなよ。言っとくけど、フォンテーヌ嬢泣かせたら俺の母さん出てくるよ?」
「……ヤナギの母君が出てくると漏れなく父君が付いてくるじゃないか!」
「だから止めてるんだろう?妙にその令嬢に執着してるけど、可哀想だからやめなよ。後、俺は友人が犯罪に手を染めるのを見たくは無いからな?」
何故か信用してくれないヤナギに文句を言いつつ粘りに粘って渋々似顔絵を描いて貰った。
その絵を持って王都に戻った後、ミモザを調べれば、予想は的中した。そこからこの店がフォンテーヌ傘下から離れている謎を解明しながら僕は1つの仮説に辿り着いた。
カルミーユ・フォンテーヌは当主代理では無く当主なのではと――
もう1人の当主代理である彼女の父親は、夜会で見た限り商会のことに対して何も分かっていないようだった。加えて毎日のように何処ぞの集まりに参加している。
(いつ仕事をしているのだろうか)
フォンテーヌ商会に買い物と称して訪れ、商会員達を観察していると皆口々に「お嬢様」と言う。父親の名前は掠りもしない。
(「お嬢様」は慕われ敬われている)
ミモザが彼女の従者達で運営されているが、フォンテーヌ商会とは切り離されている。
(何らかの事情でワザと切り離しているのか?)
「そこの貴女、お姉様を知りませんか?」
休みが明けて少しした頃だ。クラスに下級生が訪ねてきた。身分を平等にと言われていても先輩に敬意を払うように教育されている。まず下級生が上級生に不躾に声をかけるのもマナー違反だ。
僕のクラスは基本的に落ち着いた人物が多いので、その程度ならやんわり諭す程度で終わるのだが、まさか彼女の義妹だとは思わなかった。
「カルミーユ様は、先生のお手伝いに行ってますわ」
「まぁお姉様何か粗相をなさったの!?いつも屋敷で母に怒られて……」
カルミーユ・フォンテーヌは、優秀で教員が手伝いを時たま頼むのだ。同じクラスで学んでいる者として皆誇らしく尊敬していた。だが、この義妹ときたら笑顔で、姉を貶める言葉を平気で話し出し、止まらない。痺れを切らして義妹の前に立ったのはフリージア嬢である。義妹の言葉1つ1つに華麗に言い返し、このクラスに来るなら礼儀を学んでからにしろと追い出した。そしてあの義妹と彼女を近づけないようにしようとクラスが動き出したのは必然だった。
(彼女が目立つのを避けているのに、2番にいる理由は……金銭が自由に使えないからか?)
服装は同じ制服でも目立つような宝石をつけていたあの義妹を見れば、嫌でも想像がつく。初めから奨学金を取らなければ、学園に通え無かったのでは?
そう新たに考察を増やした時に、図書室に向かう彼女を見つけ、追いかけた。まさかそこに義妹が現れるとは思わなかったが、彼女と話す機会が得られたのだから良しとしよう。だが、僕は初手を間違えたらしい警戒された。
「アルブル様疲れませんか?」
(疲れる……何を言っているんだ?)
「ずっと気を張り、無理に笑って疲れませんか?」
僕は表情を作るのが上手いと思っていたのに、この言葉は、意表を突かれたと言っても良い。屋敷以外で、あんな風に声を上げて笑ったのは初めてだった。
「失礼を承知で申しますと私にはアルブル様の笑顔に温度を感じません」
彼女の前では、素のままでも良いだろうと判断し、経緯を話せば、彼女は自身を平凡だと言う。だから僕が持っている彼女への印象を率直に伝えたのだ。
「有難うございます。私もヤグルマギク様から色々学ばなければいけない立場ですけどね」
彼女が、ふわりと微笑むと胸が淡く締め付けられた。駄目だ危険だと遠くで早鐘が鳴っている。
話題を逸らす為にも本来の目的であるヴィオの事を話せば、彼女は少し考えお茶を入れ始めた。それが驚くほど洗練された物だった。
フリージア嬢を助けた時は、上に立つ者のように毅然と振る舞い。普段は物静かで優しい勤勉家。なのに貴族令嬢としては不自然なくらい洗練された動きで、給仕をする。
カルミーユ・フォンテーヌはどういった人物なのか?
それを解明したいのに、僕は不覚にも彼女の飾らない楽しそうな表情を見て見事に陥落してしまった。平然としている彼女の頭の片隅にでも僕を入れて貰いたくて、愛称で呼び、食堂では距離を詰めてみた。当の彼女は目立たぬ為の最善策を必死に考えている。その横顔を眺めていると、フリージア嬢もといフリージアさんに白い眼を向けられ、「カルミー困らせたり泣かせたりしたら殺す」と音も立てずに言われたのだった。
***
「ヤグル様。それで本当にどうしたの?」
買い物では無いのだろう?と目の前に座る彼女に再度問いかけられた。
「お爺様に……呼び出されてルミーに迷惑をかけるなと怒られた」
「王都のタウンハウスに帰れ」と爺様からの手紙を受け取り、帰って早々彼女に迷惑をかけるなとお小言をかれこれ半日以上言われ、無意識にふらふらとここに来ていたのだ。
「……ルミーなんで爺様に言ったのさぁ〜」
「私の事は機密事項なのよ?陛下に報告するのは義務だわ。それに報告を怠れば機密事項を漏らしたと責を負うのはダル様でしょ?」
「ルミー何故爺様を愛称で……」
「友人ですので」
なんて事ないように答える彼女は従者の入れた紅茶をゆったりと飲んでいる。
爺様と彼女は当主同士だ友人となってもなんら問題ない。
「ダル様に『ヤグルを顎で使って構わんし、度が過ぎてるなら焼くなり煮るなり好きにして良いぞ。許可する』と言われたのだけれど」
爺様が彼女を気に入っているからこそこう言ったのだろう。彼女はとても砕けて話してくれるようになったのだからそれなりに親しくなったのに、僕の心にもやもやと得体の知れない感情が渦巻く。
「ヤグル様?」
「ねぇルミー」
「何かしら?」
「どうすれば爺様に勝てると思う?」
「……経験をもっと積んで頑張るとしか言えないわね」
僕が経験を積むごとに爺様の経験値も増えるのだから遠回しに無理だと言われた気がしてならない。
「ダル様はダル様、ヤグル様はヤグル様ですよ。お互い得意なことは違うのだからそこを伸ばせばいいと思うの」
彼女は優しく笑った。
『ヤグル悪い事は言わない。お前は、伯爵家当主にいずれなる人間だ。令嬢は男爵家当主この意味わかるよな?令嬢は婿探しをしないといけないんだから……』
ヤナギが以前言っていた言葉がふと浮かんだ。
友人に留めておけと暗に言われた。けれど――
(困ったなぁ~彼女の隣に他人が立つのを想像するだけで駄目だ。僕が傍で見ていたい)
少しでも面白いなと思っていただけましたら応援よろしくお願いいたします。
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