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炎恨の魔術師  作者: 涼祈
7/13

同志

 とんでもない入学式が終わった後、教室へと案内された。

「ここが君たちの教室だ。席は自由に座ってくれ」

 ルークスに案内され教室に着いた俺たちは適当な席に座る。

「そして私が今日から君たちの担任になるルークスだ。先日の試験も担当していたので、見たことがある者がほとんどだろう」

 そのまま壇上に登り自己紹介をしている。

「あー、それと先程はすまなかった。ここの校長は割と武闘派でな。なにかとすぐに手を出す変じ『聞こえてるぞ、ルークス』ゴホン。危険人物なので注意するように」

 結局大して変わってないぞ。

「本日はガイダンスと学園の案内、そして入寮の手続きを行う」

 入……寮……?

 予想していなかった言葉が聞こえてきて、間抜けな顔になってしまう。

「……どうやら何も知らない生徒がいるようなので、説明させてもらう」

 俺の方を見て、ため息混じりに話し始めた。

 仕方ないじゃん。

 合格したのが嬉しくて、ピクニック前の子どもみたいな心境で前夜を過ごしてたんだから。

「ここアビリタ学園は全寮制の学校だ。この学園の近くに寮があり、そこで皆と寝食を共にしてもらう」

 そうだったのか……。

 なんにしても住む所が出来たのは助かる。

 いつまでも日銭を稼いで、宿でその日暮らしをしているわけにはいけないからな。

「この寮は、学園に通う人間が遠方から来ることや食住に困ることなど、そういう余計なことに時間を使わせまいとする校長の計らいだ」

 素晴らしい校長じゃないか。

 いきなりとてつもない魔法を使われたけど。

「全寮制の理由はこんなところだ。次は……そうだな。この学園について説明でもしよう」

 俺たちに背を向け、黒板に何かを書き始める。

「この学園は元々、個人の能力を底上げするだけの学校だった。ただ、今から数年前この学園から異能を手に入れた者たちが現れた」

 異能ーー。

 俺が目指している力だ。

「だが、ここ数年異能を手に入れられた人物はほぼゼロだ」

 やはり異能を手に入れるのは生半可なことでは無理らしい。

「正直な所、噂が先行しすぎている感じがあるのは否めない。この中にもその噂を聞いてきた者もいるはずだ」

 俺もその一人だけどな。

「この中から異能を身につける者が現れるかもしれないし、現れないかもしれない。……いずれにせよ、この学園についてこられないようではお話にならないからな」

 その一言で教室内の空気がピリッと引き締まった。

 果たして俺はついていけるのだろうか。

「さて、では次は授業内容について説明しよう。この学園の授業内容は、学園で行うものと外で行うものの二種類がある」

 学園の方はなんとなく想像がつくが、外ってどこのことだ?

「アビリタ学園はギルドと提携しており、学生でも出来る依頼を学園の方に回してもらっている。それを実際にやってもらうのが外での授業だ。言わば、実戦授業と言ったところだな」

 俺の疑問に答えるように説明をしてくれた。

 ふーむ、なるほど。

 ということは、一足先にギルドで仕事をしていた俺は周りより一歩先に進んでるのではないだろうか。

 仕事といっても、数日だけしかやっていないけど。

「細かいことについては、その都度説明していく。それでは学園の案内……といきたいところだが、この学園はとてつもなく広い。ゆっくり歩いて見て回ったのでは、一日かけても終わらないだろう。それでーー」

 懐から何かを取り出して、それを空中に放り投げた。

(あれは……鏡?)

 いくつもの鏡が風魔法で空中に固定されていた。

「この鏡に、主要な施設を映して説明だけで済まそうと思う。もし、興味がある施設があったら後日、個人で見てきてくれ」

 そんなに広いなら学園内を探索するだけでも、いい時間つぶしになりそうだな。

「それでは映していくぞ」

 指をパチンと鳴らすと、鏡に様々な施設が一斉に映し出された。

「ここが教室などがあるメインの建物だ。今、私たちがいる所だな」

 一国の城と見間違うぐらいの大きさの建物が映し出されている。

「次は医療棟と作業棟だ。医療棟は生徒の治療のみではなく、薬などの様々な研究が可能だ。作業棟では、武器や防具の作成や修理ができる。他にも、戦闘に有用な物を作っているので時間があれば覗いてみるのもいいだろう」

 ほう、何もかも興味を引くものばかりだな。

「これは、訓練場だ。いくつかの建物に分かれていて、様々な地形や環境の訓練場が存在する。空いていればいつでも使用可能に加えて、その場にいる生徒や教師と模擬戦闘を行うこともできる」

 そんな戦闘狂みたいなやつらがいる場所には絶対に近づきたくないな。

「そして、最後にこれが君たちの住む寮だ」

 そこに映し出された寮は、かなり大きな建物だ。

 確かに、この学園の生徒全員を収容するのだからこの大きさも納得だ。

「部屋は二人で一つの部屋を使ってもらうことになる。部屋の振り分けに不満がある場合は、相談してくれれば対処はするつもりだ」

 つまり気に入らないやつと無理してルームシェアする必要はないってことだな。

「大まかな施設はこの辺りだな。細かい施設については、こちらも使う時に随時説明させてもらう」

 まだ他にも施設があるのか。

 どれだけ広いんだ、この学園。

「ガイダンスはこれぐらいにしておこう。今日は寮へ行き、身体を休めてくれ。本格的な授業は明日から行う」

 ようやく休める。

 今日一日気を張りっぱなしで疲れてるんだよな。

「寮の部屋割りは入口に掲示しておく。……と、その前に配っておくものがあるのを忘れていた」

 ルークスに手渡された物を手に取って見てみる。

(長方形の形をした……なんだこれ?)

 今まで見たことがない物なので、これが何か想像もつかない。

「これは、魔法式携帯通信機だ」

 聞きなれない言葉で頭にハテナが浮かぶ。

 周りの生徒も似たような表情をしている。

「簡単に言うと、持ち運びが出来る通信機のようなものだ。動力は魔力なので、誰にでも使える」

 そんなものがあるなんて初めて知ったぞ。

 でも、これどうやって使うんだ?

「使い方は簡単だ。画面上で番号を入力し、ボタンを押しながら魔力を込めるだけだ」

 確かに恐ろしいぐらい簡単だな。

「先生、質問よろしいですか?」

「なんだ」

 通信機を眺めていると、真面目そうな青年が挙手をしていた。

「番号……というのはなんのことですか?」

 ナイス質問だ青年。

 俺もそれが知りたかった。

「まぁ、そう焦るな。順を追って説明する」

 質問をしてきた青年を手で制止し、説明を再開する。

「この通信機には、それぞれ個別に番号が割り振られている。……そうだな。一度誰かに手伝ってもらって、実演した方が手っ取り早いかもしれない」

 キョロキョロと教室を見渡すルークスと目が合った。

 ……嫌な予感。

「イグニ。君に手伝ってもらおう」

 えぇ、知ってましたよ。

「俺はなにをすればいいんですか?」

 ゴチャゴチャ言っても、結局やることには変わらなそうなので大人しく従う。

「私が言う番号を入力して、実際に通信をしてきてくれ」

 俺も触ったことないのに、うまくできるかな。

「000。0が三つだ。……どうだ? 入力できたか?」

 画面をたどたどしく操作して、指示された番号を打ち込む。

「入力終わりました」

 なんとか番号を入れ終えた。

「それでは、ボタンを押しながら魔力を込めてくれ」

 今度も指示通り、ボタンを押しながら魔力を込める。

「うわぁ!?」

 すると、画面が光りCONNECTという文字が浮かび上がってきたと思ったら、ルークスの顔が画面に映し出された。

「このように相手の顔が画面上に映し出され、声が相手に伝わる」

 す、すごいなこれ。

 かなり便利だぞ。

(でも、これ魔力がなくなった時はどうすればいいんだ?)

 戦闘中に使うとしても、その時に魔力切れで危険な状況があるかもしれない

「……魔力がない時はどうすればいいんだ、という顔をしているな?」

 なぜ分かる。

 俺ってそんなに分かりやすい顔してるかな。

「魔力がなくなっても、この端末には自立した魔力が備わっている。いざとなった時はその魔力を使って通信が出来る」

 緊急時にも対応しているのか。

 ……あれ。

 それなら、わざわざ魔力を込めなくてもその魔力を使えばーー。

「それならばその魔力を使って通信機を使用すればいい、と思ってるだろ?」

 だからなんで分かるんだよ。

「それは本当に緊急用の魔力なんだ。安定性もなく、持続性もない。しかも使えるのは一度きり。これを常に使うのは無理なんだ」

 これまた分かりやすい説明を受けた。

「この通信機の説明は以上だ。なお、通信機にはすでに君たちと同じ学年の者の番号は記憶させてある」

 なんという準備の良さ。

「他の学年の者や教師と通信したい場合は、個別に番号を記憶させ合う必要があるので、そこだけは注意だ。ちなみに自身の番号も通信機の中に記録されているので、後で確認しておけ」

 ルークスの説明が一通り終わった。

「それでは、今日は初日なので寮までは案内しよう。次の日からは自分たちで移動することになるので、しっかり覚えておくように」

 俺たちは壇上から降りて移動するルークスに着いていった。

「でっっっっけぇなぁ……」

 先程ルークスの鏡で見たが、いざ実物を見ると想像以上の大きさに驚愕する。

「こっちだ、ついてこい」

 ルークスに連れられ寮へと入っていく。

「そこに部屋割りが貼ってある。各自で確認して部屋に行っていいぞ」

 指し示された方向に貼られている紙を確認しに行く。

「ーーちなみにだが、この寮では異性間の寮の移動は禁止されている。男の寮から女の寮へはもちろん、女の寮から男の寮へ行くのも禁止だ。男女で会いたい場合は、共有スペースで会って話をしてくれ」

 こんな一つ屋根の下とかいう全男の夢のようなシチュエーションで、そんなことって許されていいのか。

 しかし、ルークスに逆らう勇気はないので大人しく自分の部屋に向かう。

「えっと、俺の部屋は……。おっ、あった。ここだな」

 入口の貼り紙を確認して、自分の部屋を発見する。

(そういえば同室になるやつはどんなやつだろう。……変なやつじゃなければいいが)

 変なやつだったら、即ルークスを通信機で呼び出そう。

「お、おじゃましま〜す……」

 おそるおそる扉を開けて、部屋に入る。

(まだ誰もいないのか?)

 部屋を見渡すが、特に人のいる気配はしない。

「うーん、特に場所のこだわりはないが、決めるのはもう一人が来てからの方がいいよな」

「そうそう、やっぱり決めるなら二人揃ってからだよね〜」

 コイツの言う通りだな。

 一人で決めて、後でトラブルになっても困るからな。

「……ん?」

 さっきまで部屋には誰もいなかったはず。

 俺は一体誰と話してるんだ。

「うわぁ!? お、お前誰だよ!」

 声のした方を見ると、長身のイケメンが立っていた。

「アッハハハ! いい反応してくれるね〜」

 俺を指さしながら軽快に笑ってくるイケメン。

「ぐぐぐ……! 質問に答えろよ!」

 バカにされている感じがしてムキになってしまう。

「ごめんごめん。君があまりにもいい反応してくれるからさ」

 涙を拭いながら謝られる。

「いや、いいけどさ……。それより! 結局あんた誰なんだ?」

 もしかしたら一緒のクラスにいた人物かもしれないが、まだクラスメイト全員の顔を覚えられていないので判断ができない。

「えー、悲しいなぁ、イグニくん。そんなつれないこと言わないでくれよ」

 ひょうきんな言い方がなんだか鼻につく。

 ーーって。

「どうして、俺の名前を?」

 俺はまだ名乗っていないはずだ。

「それは君に興味があるからさ」

 俺のことをジッと見つめてくる。

「えっ、お前そういう趣味なの……?」

 自分の身体を手で覆い隠して後ずさりする。

「アハハッ、面白いこと言うね。君の肉体には興味はないよ」

 またしても軽快に笑う謎のイケメン。

 よく笑うやつだな。

「まぁ、そんなことはどうでもいいさ。とりあえずお互いに自己紹介でもするか?」

 同じ部屋に住む以上、お互いのことを知っておくに越したことはない。

「そうだね。それじゃあ僕から自己紹介させてもらうよ」

 お互いに手頃なイスに座り、向き合う。

「僕の名前はフェイン。一応、魔法剣士として活動してるけど、基本的にどんなことでも出来るかな? 好きなものは面白いこと。嫌いなものは退屈」

 フェイン、と名乗った人物は簡潔な自己紹介をした。

(てか、コイツも魔法剣士かよ……。しかも、それだけじゃなくオールラウンダーで動けるとか……。はぁ、世の中には才能でありふれた人間の多いことよな)

 苦渋を舐めさせられた魔法剣士、ビゴリスのことを思い出して渋い顔をしてしまう。

「次は君の番だよ」

 フェインに急かされて、俺も自己紹介をする。

「俺はイグニ。魔法使いとして活動してる。好きなものは……美味いもの全般。嫌いなものは特にないかな」

 俺の方も、これまた簡潔に自己紹介を済ます。

「ね、ね。イグニはどんな魔法を使うんだい?」

 イスから身を乗り出して聞いてくる。

「俺はそう大した魔法は使えないよ。よく使うのは火の魔法かな。火の玉を飛ばしたり色々と……」

 うん、嘘は言ってないな。

「ふーん。でもそれだけじゃ、あの試験は突破できないよね? どんな方法を使ったんだい?」

 先程までの軽い雰囲気とは打って変わって、なにかを探るような鋭い視線を向けてくる。

「い、いや……。向こうが根負けしてくれたような感じ……かな?」

 あまりの雰囲気の変わりように、たじろぎながら質問に答える。

「ふぅん……」

 納得がいったのかいってないのか分からない反応だ。

「……火の魔法を使うって言ってたし、暑さの耐久勝負でもしたのかな?」

 チラチラと反応を窺っていると、柔らかな雰囲気に戻ったフェインにまた質問された。

 あれでよかったのか。

「あ、あー! そうそう。そんな感じだよ!」

 これ以上なにか言って、気まずい空気になりたくないのでとりあえず肯定しておく。

「あははっ、イグニは面白い戦い方をするんだね! ……いつか戦ってみたいな」

 またしてもピリッとした雰囲気を纏うフェイン。

(なにがスイッチになってるんだよー!!)

 さっきからこいつの地雷が分からん。

「い、いつかな!」

 この場を収めたいので、とりあえずの口約束はしておく。

「そうだね! その時が来るのを楽しみにしてるよ!」

 ふぅ、なんとか収まったようだな。

 こんな口約束なんて、どうせすぐ忘れるだろ。

「楽しみにしてるよ」

 獲物を狙うような目で、こちらを見てくる。

 あっ、これ逃げるの無理そうだな。

(はぁ……俺、こんなんでこの学園でやっていけるのかな……)

 これからの学園生活に一抹の不安を覚えるのだった。

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