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炎恨の魔術師  作者: 涼祈
5/13

試験

「ハァ……ハァ……。な、なんとか倒せた……」

 疲労困憊になりながらもなんとか街に戻ってきた。

「ボスが出てくるのは反則だろ……」

 結局回復アイテムやらなんやらで手元に残ったお金は僅かになってしまった。

(とりあえず泊まれる宿を探して明日に備えるか)

 宿を探しながら街を練り歩く。

「それにしても……」

 歩いていると自然にため息が出てしまう。

(まさか自分がここまで弱かったとは……。あれを子どもでも倒せるって本当かよ……)

 落ち込みながら歩いていると、手頃な宿を見つけたので部屋の予約をする。

「ふぅ……、つっかれたー……」

 部屋に着いた途端、ベッドに突っ伏してしまう。

「……これ、どうすっかなー」

 ポケットから今日ガントに見せてもらったパンフレットを取り出す。

(アビリタ学園か……)

 パンフレットをボーッと眺める。

(異能を身につけられるってのはすごいよな……)

 ガントに言われた言葉が頭を反芻する。

(異能を身につける、か……)

 確かに異能を身につけられることが出来れば、今の俺なんか比じゃないくらい成長できるだろう。

 ただーー。

「俺は異能を身につけて、なにがしたいんだ?」

 そんな強い力を得ても、俺にはなんの目標も夢もない。

(アイツらとは結局ケンカ別れみたいな感じになったからな……)

 アイツらと旅をしていれば、こんな力でも使い道があったんだけどな。

「そうだ!」

 ベッドからガバッと起き上がる。

「ここで俺が異能を身につけて、ビゴリスにも負けない実力を身につければアイツらだって俺を見直すかもしれない!」

 自分の中で決心がついた。

「入学するためには……っと。ゲッ、試験があるのか」

 改めてパンフレットをよく見てみると、入学には試験があるらしい。

 しかも明日。

「試験か……。筆記はまだしも、実力を見るとか言われたら少しキツイかもな……」

 子どもでも倒せるモンスターに苦戦しているようでは、不合格になるかもしれない。

「……まぁ、当たって砕けろだ。今の俺に失うものはないしな。落ちたらギルドで腕を磨きながらお金を稼ぐのもいいだろ」

 再びベッドに横になる。

「とりあえず……今日は……寝て英気を養おう……」

 初めてのギルドの仕事ということもあり、疲労がピークに達してしまって横になったらすぐに寝てしまった。

「うーーん、よく寝た」

 翌朝。

 窓から差し込む朝日で目覚めた俺は身体を軽く動かしていた。

「よっし、体調は万全だな。その辺で朝飯でも買ってから、試験会場に行くか」

 ベッドから降りて支度してから、宿を出ていく。

 宿を出て途中で食料を買って、試験会場へ行くと老若男女、多くの人で溢れかえっていた。

(かなりの人数だな……。ここから何人ぐらい合格するんだ?)

 予想以上の人数に面食らってしまう。

(いや、でもそれもそうか。異能が身につく可能性があるんだから、これでも少ない方か)

 それでも人の多さにキョロキョロしてしまう。

(って、いかんいかん! 他人は他人だ。俺は自分のことに集中しないとな)

 頭を振って余計な考えをなくす。

「おはよう、諸君。今日はこのアビリタ学園の入学試験を受けてくれて感謝する。本日試験官を務めるルークスだ。よろしく頼む」

 突如、試験会場に大きな声が響いた。

 ルークスと名乗った試験官は壇上に登り、会場が見渡せる場所に出た。

「本日行うのは、筆記試験と実技試験の二種類だ。まず始めに筆記試験を実施し、その後実技試験をおこなう。ついてこい」

 それだけいうと壇上から降り、颯爽と歩き始める。

 その後を受験生がゾロゾロとついていく。

(とりあえず俺もついていくか……)

「ここが筆記試験の会場だ。席は好きな所に座ってくれ」

 指示されたとおりに適当な席に座る。

 席に座ると目の前の机から問題が浮かび上がってきた。

「それが問題用紙だ。解答はそのまま記入してくれて構わない。それでは、筆記試験はじめっ!」

 試験官の合図で、受験生が一斉に問題に取り掛かる。

 俺も問題に目を通し始める。

(俺はこんな所でつまずいていられないんだ!)

 ………………。

「そこまでっ!」

 試験官の声が響くと同時に、問題が消えていった。

「筆記試験はこれで終わりだ。次は実技試験だ。全員外に出ろ」

 今度も試験官の後についてゾロゾロと移動する。

(ふぅ、結果はまぁまぁかな)

 椅子から立ち上がり先程のテストの出来を確かめる。

 ものすごく難しい試験問題というわけでもなかったので、そこまで差が出るようなものではないだろう。

(これが異能が手に入る学校の試験なのか? それとも……)

 拍子抜けな試験に油断してしまいそうになるが、もう一つの実技試験が残っている。

(筆記試験で差がつかないのなら、実技試験でふるい落とす可能性が高いな)

 実技試験の会場に向かいながら、試験について考える。

 そんな事をしているうちに実技試験の会場に着いてしまった。

「それでは、これより実技試験の説明を始める」

 話し始めた試験官の傍らに、なにかが置かれていることに気付く。

「実技試験一つ目の課題は、これの破壊だ」

 隣にある的がついた棒をコンコンと叩きながら試験の説明をしている。

 なんだ、それなら簡単そうーー。

「ちなみにだが、この的は……」

 ドゴォン!!

 いきなり横を向いたかと思うと、思いきり的にパンチをした。

「このようにかなり頑丈に作られている。破壊は容易ではないと分かってもらえたかな?」

 受験生全員から緊張感が伝わってくる。

「剣で切るもよし、打撃で木っ端微塵にするもよし、魔法で消し飛ばすもよし。とにかくこれを破壊すればクリアだ」

 それだけ言うと、その場を後にしようとする試験官。

『あのー……、制限時間とかは?』

 受験生の一人が試験官に質問をする。

「無制限だ。何時間、何日でも続けられる者は続けていい。もちろん、途中リタイアもアリだがリタイアした時点で受験資格を失うことになる」

 サラリととんでもない事を言い出した試験官。

「破壊した者から私に申告をしてくれ。他に質問がなければ、これで開始とするが……」

 試験官が会場を見渡す。

「なさそうだな。それでは、これより実技試験を開始するっ!」

 試験官の号令とともに、そこかしこで音がひびき始めた。

 そして、俺も目の前に置かれた的に意識を集中する。

(とりあえず、試しに魔法を一発撃ってみるか)

 試しに火球を一発的に向かって放つ。

 ドォンという大きな音はしたが、的はビクともしなかった。

「こいつは中々骨が折れそうだな……」

 様々な轟音が鳴り響く中、ひとりごちる。

 ドゴォォン!!

 その後しばらく火球を的に当てていると、会場の一角で大きな音が聞こえザワザワと声が聞こえてきた。

「……目標、破壊しました」

 試験官に報告をしている無機質な少女の声が聞こえてきた。

「かなり早い達成だな。今まで、この早さで破壊出来た者は数える程しかいないぞ」

 試験官もあまりの早さに驚きを隠せないようだ。

「…………」

 少女は大した反応を見せないで、あさっての方向を見つめている。

「それでは、係の人間に案内をさせるのでそれについていけ」

 試験官がそう言うと少女はコクリと頷いて、あとから来た係の人についていった。

(あ、あんな少女がこの早さでクリアするのか……)

 焦った俺は急いで自分の持ち場に戻り、また火球を的に向かって放ち始める。

「ハァ……ハァ……」

 あれからどれぐらい経っただろうか。

 明るかった空は暗くなってきて、俺たちを照らすのは会場の明かりと誰かが放つ魔法のみだ。

「クソっ……、一体いつになったら壊れるんだこの的は……!」

 悪態をつきながら目の前の的を睨む。

 目の前の的は何度も当てられた火球により、赤くなって高熱を持っていた。

(今のところ壊れる気配すら見えないぞ……。本当に壊れるのかあの的)

 一番に合格したあの少女以降、随所で破壊に成功した人が現れ始めた。

 また、それと同時にあまりにも難解な課題に途中リタイアする者もでてきていた。

(あまりにも壊れなくて俺も心が折れそうだ……)

 リタイアしていった人と同じように心が折れかける。

(いや、落ち着け。まだ魔力の貯蔵は十分ある。時間だって無制限なんだ、諦めるにはまだ早い)

 一度大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

(……よし! まだまだやってやる!)

 チュンチュン!

(……き、気合いを入れたのはいいが、まさか徹夜で的を攻撃することになるとは)

 外から小鳥のさえずりが聞こえてくる。

(それにしても、だいぶ人が減ったな)

 あれほど人が多くごった返していた会場も今では半数以上の受験者がいなくなっており、当初の騒々しさはそこにはもうなかった。

 そして、会場に残っている受験生も俺と同じく的に攻撃を続けている者や気を失ってぶっ倒れている者もいる。

 会場が死屍累々のような凄惨な状況になってきている。

「ふぅ……、さすがに一晩ぶっ続けで魔法を使うのは骨が折れるな」

 その場に座り込んで少しだけ休息をとる。

 長い間休憩しているとリタイアしたことになってしまうので、できるだけ休憩の時間は短くする。

「一体どうすればあの的を破壊できるんだ……」

 相変わらずビクともしない的を遠目に見つめる。

「よっこいしょっと……」

 遠くからではなく近くで見ることによってなにかヒントが得られないかと思い、立ち上がって的の方へと歩いていく。

「あちち……、 さすがにあれだけ火球を当てれば熱くもなるか」

 的に近づくと俺が当て続けた火球の影響で、熱を帯びていた。

(火球の熱で溶かそうともしたが、俺の魔法じゃ火力が足りなかったんだよなぁ)

 どれだけ硬くとも熱によって溶けることは防げないと考えたが、どうやら考えが浅かったようだ。

「どうすっかなー」

 的をダガーで切りつけながら次の策を考える。

(熱を与え続けてもダメなら反対に冷やしてみるのはどうだろうか)

 ここまで熱を帯びた的を急激に冷やして壊れやすくするのはいい案かもしれない。

「よしっ!」

 そうと決まれば話は早い。

 俺の火球で温められた的を蒼炎で一気に冷やして、ダガーで破壊する。

 この作戦でいこう。

「蒼炎っ!」

 的に向けて魔法を放った。

 ーーはずだった。

「で……出ない!?」

 数日前には確かに出ていたはずの魔法が不発に終わってしまった。

(まさか魔力切れか……?)

 試しに火球を撃ってみると普通に出てくる。

(魔力切れじゃなければなんだ……!? 魔法が出なくなるなんて聞いたことないぞ!?)

 徹夜により身体に不調が起きているせいなのか、はたまた全く別のことが要因なのか。

 何も分からないまま、何度も蒼炎を試してみては不発を繰り返していた。

「クソッ!」

(一体どうしたっていうんだ!)

 またしても会場で夜を迎えてしまった。

(ビゴリスとの戦闘の時は出たのに、どうして今になって出ないんだ……!)

 疲労と睡眠不足による焦燥感や不安が付きまとってくる。

 それらを振り払うように、火球を的に向かって飛ばし続ける。

(もう周りにもほとんど人がいない……)

 二日目の夜にもなると、受験生のほとんどが達成かリタイアをしており会場に数十名しかいない。

 それが余計に焦燥感に駆られる原因となっている。

 結局その日は蒼炎を出すことは叶わず、的に火球を当てるだけに終わってしまった。

 チュンチュン!!

 試験会場に来てから二度目の朝。

 夜のうちに一人、また一人とリタイアをしていったため、ついに会場には俺一人になってしまった。

「俺は……絶対に諦めないぞ……」

 なんとか言葉による奮起を促すも体力面、精神面ともに限界が近かった。

(ここでリタイアなんてしたら、アイツらを見返すことなんて到底できないんだからな)

 かつてともに旅をしていたパーティーメンバーを思い出す。

(あんなやつらすぐに見返して……、見返して……見返してなにがしたいんだ俺は?)

 ふと自分の思いに疑問を持つ。

(アイツらを見返したところで、パーティーメンバーに復帰させてくれる保証はどこにもない)

 じゃあ俺はなんのためにこの学園を受けて、異能を手に入れようとしてるんだ?

(いや、ちがうーー)

 友の顔を思い出し、自分の本当の思いに気付く。

(俺はアイツらを見返したいんじゃない。ただ……認めてほしかっただけなんだ)

 身体を包み込んでいた焦燥感や不安が消えていくのを感じる。

(俺もアイツらと一緒に戦えるということをーー)

 自然と杖を構える。

「蒼炎っ!」

 ほぼ無意識に蒼炎を放っていた。

(で……出た!!)

 放たれた蒼炎は真っ直ぐに的に向かい、高熱を帯びた的に命中する。

 ジュゥゥゥウウウ!!!

 水が蒸発するような音が聞こえ、的に蒼い炎が燃え盛っているのが見える。

(今だっ!)

 すぐさま杖からダガーに持ち替え、的に向かって走りだす。

「いっけぇぇぇえええ!!!」

 目の前まで迫った的に勢いよくダガーを振り下ろす。

 キィン!

 小気味よい音が鳴ったかと思うと、地面に的が落ちた。

「いよっしゃぁぁああ!!」

 ついに、的の破壊に成功した俺はその場でガッツポーズをする。

「おめでとう。君が最後の突破者のようだね」

 拍手をしながら試験官が近づいてきた。

 そういえばこの人、俺たちをずっと見てたがこの人も寝てないのか?

「あ、ありがとうございます」

 少し照れくさくなりながらもお礼を言う。

「君が最後のようだし、係の者ではなく僕が案内しよう」

 歩き始めた試験官の後をついていく。

(そういや最初に達成した少女もどこかに案内してもらってたよな。一体どこに行くんだ? ……いや、それより早く寝たい)

 もはや疲労がピークに達しており、限界が近づいてきている。

「……君は試験が始まってから今までずっと魔法を撃っていたが、まだ撃てるのか?」

 歩きながら試験官が質問をしてきた。

「え、えぇ……。撃とうと思えばまだ撃つことは出来ますよ」

 途中で蒼炎の作戦を思いつかなければ、今もまだ火球を撃っていたかもしれない。

「その魔力量の多さは生まれつきか?」

 さらに質問をしてくる。

「いえ……。幼い頃は一般的な魔力量だったんですけど、ある日急に増えまして……。成長期だったんですかね、ハハッ……」

 気を使って愛想笑いをするが、試験官はクスリとも笑わない。

 なんかスベった感じがする。

「あの魔法はいつから使えるようになったんだ?」

 あの魔法、とは蒼炎のことだろうか?

「蒼炎もある日突然使えるようになったんですよ。……あっ、今思うと魔力量が増えたのとあの魔法が使えるようになったのは同じ日ですね」

 昔のことを思い出しながら、試験官に対して話す。

「……そうか。色々と聞いて悪かったな。着いたぞ」

 試験官の後をついていった俺の目に飛び込んできたのはーー。

「リング……?」

 石でできた大きな四角形のリングだった。

「!?」

 そしてそのリング上には、試験官と瓜二つの人物が立っていた。

「あ、あのー。そちらの人はご兄弟かなにかで?」

 思わず隣に立つ試験官に尋ねてしまう。

「いや、あれは俺自身だ」

 それだけ言うとリング上に進み出し、瓜二つの人物の隣まで行った。

 そしてーー。

「消えたぁ!?」

 ジジっと姿にノイズが走ったかと思うと、リング上にいた試験官の姿が消えていった。

「光魔法の応用だ。さて、それじゃあ最後の試験を始めようか」

 リングのど真ん中に立って臨戦態勢をとる試験官。

 最後の……試験?

「ちょ、ちょっと待ってください! 最後の試験ってどういうことですか!?」

 的を壊せば終わりだと思っていたのに、まさかまだ続きがあったなんて。

 しかも、この感じだとこの人と戦うことになりそうだ。

「さっきの課題は一つ目の課題だと言ったはずだが? 観念して早くリングに上がれ」

 戦わなければここから出してはくれなそうなので、渋々リングに上がる。

「先手は譲ってやる。そこから勝負開始だ」

 ジッとその場で俺の攻撃を待っている。

(やるしかないのか……!?)

 できればやりたくない。

 だって、絶対強いもの。

「〜〜ッ、どうなっても知らないからな!」

 こちらを見つめてくる眼光に耐えきれず、火球を放つ。

 火球は真っ直ぐ試験官の元へと飛んでいき直撃する。

(やったか!?)

 今思えば、俺だけじゃなくあの人も二日間寝ずにいたんだ。

 動きが鈍っていても不思議ではない。

「どうした? それが本気か?」

 試験官の声が目の前から聞こえた。

「ぐふっ!?」

 声が聞こえたと同時にお腹に衝撃が走り、膝をついて倒れ込む。

「このままでは試験には不合格だな……」

 俺を見下しながらため息混じりに呟く。

「ふざっ……けんじゃねぇ!!」

 火球を地面に向かって放ち、その反動で無理やり立ち上がる。

「ここまで来て、不合格なんかになってたまるか……!!」

 杖を構えながら試験官を睨みつける。

「大した威勢だが、どうするつもりだ?」

 俺の動きを観察するような目で見てくる。

「こうするんだよ!」

 地面に杖を突き刺し、ドーム状の炎を作り出して俺たち二人を取り囲む。

「これは……どういうつもりだ? このまま共倒れにでもなるつもりか?」

 炎のドームで囲うことで外からの空気を遮断し、なおかつ炎が燃え続けることでドーム内の酸素をも徐々に奪われていく。

 俺の意図が読めたのか呆れた顔をしている。

「ハッ! そんなつもりはないね!」

 杖を引き抜き構える。

「それにーー」

 またしても試験官の姿が一瞬にして消えた。

「魔法使いでありながら、近接戦を挑むなど愚の骨頂」

 目の前がパッと光ったかと思うと、試験官の姿が目の前に現れた。

「魔法使いだからって、近接戦が出来ないと決めつけるのも浅はかです!」

 繰り出された拳をダガーで弾く。

「なにッ!?」

 まさか魔法使いが自分の拳を止めると思っていなかったようで、驚きを隠せていない。

「隙ありッ!」

 弾かれてよろけた所にダッシュで近寄り、ダガーを振り下ろす。

「くっ……!」

 しかし、試験官もすぐさま体勢を立て直しダガーに拳を当てる。

 キィンという音が鳴り、ダガーと拳がぶつかり合う。

「ふむ……、魔法使いでありながら中々の近接戦闘の技術の高さだな」

 体勢を崩させたはいいが、すぐに冷静さを取り戻す試験官。

「そんな余裕ぶってて大丈夫ですか?」

 拳とぶつかり合っていたダガーの動きを止め、スッと横に移動する。

「なにを……、ッ!?」

 俺の動きを不審に思ったが、俺の後ろから来た火球には避けられずに直撃する。

「さっきよろけてる間に火球を発生させて、ダッシュした時に後ろに付かせておいたんですよ。気付かなかったでしょ?」

 作戦が上手く決まったので得意げに話す。

「ケホッ……、確かにいい作戦だ。だが、決定力には欠けるな」

 だが、相手に致命傷は与えられていなかった。

「さて、そろそろ……!?」

 こちらに歩み寄ってきた試験官がふらつく。

「あれあれ? どうしましたか? 体調でも悪いんですか?」

 わざと煽るような口調で尋ねる。

「くっ……、だが君とて条件は同じ。このまま共倒れするつもりかね?」

 共倒れぇ?

「するわけないでしょ、そんなこと!」

 この炎壁の目的は今この瞬間の足止めのため。

 そして、もう一つの目的のため炎壁をダガーで切り裂きながら破壊する。

「……? 何をしているんだ?」

 俺の行動に困惑している。

 それもそうだ。

 自分で出した壁を自分で壊し始めたのだから。

(もう少し……、いい感じだ。……よしっ! いける!)

 ダガーで炎壁を切る事で、無理やりダガーに炎を纏わせたのだ。

 炎壁には、酸欠による足止めと武器の強化の二つの役割を持たせていたのだ。

(そしてぇ! 見よう見まねの!)

「炎技・火閃」

 数日前にビゴリスから受けた技を見よう見まねで再現してみる。

(本当はこんな技使いたくなかったけども!)

 内心では嫌がりながらも、身体は素直に動いてしまう。

「この技はっ……!?」

 大きな音とともに、試験官に対して技が叩き込まれる。

(あの時の半分とまではいかなくても、それなりの威力は出たな)

 俺が使ってこの威力なのだから、ビコリスの技の威力がとてつもなかったことが分かる。

(さて、どうなった……?)

 土埃で見えないが、今のは相当ダメージが入ったと思う。

 一歩近づこうとしたその瞬間ーー。

「ガッ……!?」

 身体に強い衝撃がきた。

「まさか君がその技を使えるとは驚いたよ。だが、本物には遠く及ばないね」

 そこには無傷ではなかったが、そこまで深刻なダメージを負っている様には見えない試験官が立っていた。

(嘘だろ……、あの技でもダメなのかよ……)

 炎壁による酸欠と技を放ったことによる疲労で立ち上がることができない。

「くそ……、俺は……こんな所で……」

 意識が遠のいていく。

「それではこれで試験終了だな」

 その言葉を聞いた時、俺は意識を失った。

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