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炎恨の魔術師  作者: 涼祈
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行先

 扉を開けて中に入ると、多くの人で賑わっており活気に満ち溢れている。

(えぇと……。とりあえず受付に向かうか)

 若干雰囲気に気圧されながらも受付を探す。

「すみません」

 なんとか受付を見つけることが出来たので、カウンターに立っている女性に声をかける。

「はい! ……あっ! ギルドの加入申請ですか?」

 こちらが何かを言う前に察してくれたようで、カウンターから書類を取り出してくれた。

「そうです。……よく僕が申請に来たって分かりましたね」

 あまりにも察しが良すぎたので少し尋ねてみた。

「私は毎日ここに立ってますからね。見覚えのない人が私の所に来たら、ほとんどの人がギルドへの加入を申請してきますから。それで分かったんですよ」

 なるほど。

 受付嬢はそういう所も見てるんだな。

「それじゃあこちらの書類に必要事項を書いてください」

 受付嬢の仕事ぶりに感心していると、書類とペンを差し出してくる。

 軽く目を通してからペンを持って書き始める。

 数分後。

「書けました」

 特に書くことは多くなかったので、書き終わるのにそこまで時間はかからなかった。

「はい、確認しますね」

 受付嬢が書類を受け取って、中身を確認する。

 中身を確認してもらってる間、手持ち無沙汰になったので近くの椅子に腰掛ける。

(ふぅ……、これでなんとか当面の生活の保証はできそうだな)

「よう、兄ちゃん。新入りかい?」

 なんとか生きていけることに安堵していると、隣に座っている白髪混じりの髭が生えた男性に声を掛けられる。

「え、えぇ。今書類を出してるんで、それに不備がなければ今日からここで……」

 いきなり話しかけられて戸惑いながら返答する。

「ハッハッハッ! そうかそうか。まっ、無理しないで怪我なくやれよ。命あっての物種だからな」

 酔っ払っているのか、上機嫌で話しかけてくる。

「……ここにはな。夢を追ってる若者も夢に疲れた老兵もいる」

 上機嫌かと思ったら、今度はしみじみと語り出す。

「兄ちゃんはどっちかな?」

 俺の方を見て品定めするように問いかけてくる。

「俺はーー」

 言葉に詰まってしまう。

「イグニさーん! 書類の受理が完了しました!」

 答えに困っていると、受付嬢が声をかけてくる。

「あっ、はい。ありがとうございます」

 結局答えることなく話が流れてしまった。

「いえいえ、不備も特になかったのでスムーズに確認できました! ……あー! ガントさんまたお酒飲んでる!」

 先程まで俺と話していた男性に向かって声を上げる。

「もう! お酒は程々にしてくださいっていつも言ってますよね!」

 プリプリ怒りながらガント、と呼ばれた男性から酒瓶を取り上げる。

「おいおい、んな殺生な。老体のささやかな楽しみを奪わないでくれよ」

 ゲンナリした様子で落ち込むガント。

「なーにが老体ですか。まだまだ現役バリバリじゃないですか!」

 酒瓶を棚に戻して、こちらに戻ってくる。

「お待たせしてすみません。こちらがギルドの証明書になります」

 カウンターから長方形のカードを取り出して渡してくる。

「これはいつでも再発行可能なので、もし無くした場合はすぐに言ってくださいね。無くしたままだとギルドで依頼を受けられなくなるので、注意が必要です」

 カードを受け取りながら受付嬢の話を聞く。

「それではこれで申請は終わりです! 改めて自己紹介させていただきますね。私はこのギルドで受付嬢をしております、アンナと言います。これからどうぞよろしくお願いしますね!」

「こちらこそよろしく」

 深々とお辞儀をしてくるアンナに倣って、俺も頭を下げる。

「これからどうなさいますか? この建物を見て回ってもいいですし、これからすぐに依頼を受けても大丈夫ですよ」

 アンナが尋ねてくる。

(どうするかな……。この建物自体にも色々と興味はあるんだが……、とりあえずお金を稼ぐか)

 建物の見学はいつでも出来るので、今はお金を稼いで生活の基盤を整えよう。

「それじゃあ依頼を見てみようと思います」

 椅子から立ち上がってアンナに告げる。

「分かりました! 依頼書が貼ってある場所はアチラになります。そこで依頼が書かれている紙を取り、私の所まで持ってきてください」

 案内された場所に向かうと、様々な依頼書が貼られた掲示板があった。

「これがそうか……。色々な依頼があるんだな」

 ざっと見ただけでも、○○を討伐してほしい,○○を取ってきてほしい,人を探してほしい等といった様々な依頼がある。

「おっ、コイツ懐かしいな。この間倒したやつだな」

 一枚の依頼書が目に留まり、掲示板から手に取る。

 そこに描かれていたのは、襟の部分に襟巻のようなものがついているリザードだった。


(コイツ、エリマキリザードって名前だったのか。そのまんまだな)

 あまりにもそのままな名前だったので内心笑ってしまう。

(そうだ、初仕事はコイツにするか。……ただコイツら群れを作るうえに一匹でも少し厄介なんだよな)

 依頼書を手に持ちながらアンナの元へと歩いていく。

「すみませーん、これお願いします」

 カウンターに立っているアンナに依頼書を差し出す。

「はーい! ……あら?」

 俺が差し出した依頼書を見て不思議そうな顔をする。

 俺なにかおかしなことしたか?

「あっ、ごめんなさい! アグニさん戦闘に慣れてそうでしたから、こんな子どもでも倒せるモンスターの依頼に行くのが意外で……。もっと上位の討伐系の依頼に行くのかと思ってました」

 え? このエリマキリザードってそんなに弱いの?

 子どもでも倒せるって嘘でしょ?

「おいおい、アンナちゃん。それはよくねぇよ。人には人のレベルってものがあるんだ。そこをとやかく言うのは感心しないね」

 取り上げられた酒の代わりに、ミルクを飲んでいるガントが話に入ってきた。

 おっさん可愛いな。

「それもそうですね……。イグニさんすみませんでした……」

 アンナが頭を下げて謝罪してくる。

「いえいえ! 大丈夫ですから頭をあげてください!」

 そこまで謝られるようことでもないので、急いで頭を上げさせる。

「い、いやー。久しぶりの実戦だったから、肩慣らしにちょうどいいと思って受けたんですよ。変な誤解させてすみませんでした。アハハ、ハハ……」

 変に思われないように笑いながら誤魔化す。

「そうでしたか……。それでは手続きをしますので、少々お待ちください」

 そう言うとアンナは依頼書を持って、カウンターの奥に行った。

(ふぅ……、なんとか誤魔化せたかな?)

 まさかあのエリマキリザードがそこまで弱いなんて思わなかった。

「………」

 隣でミルクを飲んでるガントがこちらを見てくる。

 やっぱりこの人は誤魔化せなかったか。

「ガントさんーー」

 ガントには正直に白状しようと思ったが、手で制止される。

「みなまで言うな。人にはそれぞれ事情があるもんだ。とやかく聞く気はねぇよ。ただーー」

 飲み干したグラスにミルクを注ぎながら話す。

「いつかは俺と肩を並べて戦えるぐらいにはなってくれよ? カッカッカッ!」

 ミルクを飲みながら軽快に笑うガント。

「……すぐにでも追いついて見せますよ!」

 今の俺とこの人との力の差は分からない。

 ただ、いつかはこの人と一緒に戦ってみたいと切に思った。

「バーカ、十年はえぇよ。……お、そうだ。お前さんにピッタリな所があるぞ」

 何かを思い出したかのように、懐をゴソゴソと探るガント。

「あったあった。ここだ、ここ」

 そう言って取り出したのは一枚の紙。

「アビリタ……学園?」

 手渡された紙を見てみると、とある学園のパンフレットだった。

「そこはな、学園って名前にはなってるが、年齢関係なく誰でも入学できるんだよ」

 ガントさんの話を聞きながらパンフレットに目を通す。

「しかもな。ここだけの話、そこに入学すれば異能を身につけることができるって噂だぞ」

 異能ーー。

 それは、俺たちが普段使う魔法とは似て非なるものだ。

 パッと見は魔法と同じだが、発動する際のシステムが違う。

 魔法とは、自身に存在する魔力を使うことで生み出すものであり、当然ながら魔力が切れると使うことが出来なくなる、有限のものだ。

 しかし異能は違う。

 異能に魔力は必要ない。

 自身が望むものを無限に生み出すことができる、いわば無限に使える魔法のようなものだ。

「その話本当なんですか?」

 いきなりとんでもない話が出てきたので、少々疑いながら確認をする。

「あぁーー。といっても、身につけられる人間は限られたごく一部らしいけどな。異能は魔法と違って、習得方法がハッキリしてないからな」

 再びミルクを飲み干すガント。

 魔法は、書物を読んだり人から教授されることによって誰でも身につけることはできる。

 しかし異能は、習得方法がハッキリしておらず異能を身につけた本人ですら分からないという。

「そう、ですか……」

 いきなりの話で戸惑ってしまう。

「どうだい? 行く気が出てきたかい?」

 グラスにミルクを注ぎながら問いかけてくる。

(俺は……)

「イグニさん、お待たせしました! って、ガントさん! ミルク飲み過ぎですよ! そんなに飲んだらお腹壊しちゃいます! ってことで、これも没収です」

 カウンターの奥から戻ってきたアンナがガントからミルクを取り上げる。

「え、俺飲むものなくなっちゃうよ?」

 酒の次にミルクまでも没収されて落ち込むガント。

「今、梅昆布茶でも作ってきてあげますから。それでは、イグニさん。これで、いつでも出発できるのでご自身の好きなタイミングで行ってきてください。どうかご武運を!」

 アンナが頭を下げて見送りの言葉をかけてくれる。

「……少し考えてみます。それじゃあ、アンナさん、ガントさんいってきます」

 最初はガントにだけ聞こえる声で話し、その後椅子から立ち上がって建物の出口へと向かう。

「はい、いってらっしゃい!」

「おーう、気をつけていってこいよ」

 二人の声を背に建物から出ていく。

 …………。

「お二人共、一体何を話してたんですか?」

「いや、なに。ちょっと未来ある若者の進路相談をね」

「ふーん……。ガントさんみたいな酒飲みにはさせないでくださいね?」

「ちょっとちょっと。まるで俺が酒ばかり飲んで何もしてない人間みたいじゃない」

「あら? 違いましたか?」

「俺だってやることはやってるんだよ? ーーまっ、アイツはあんなこと言ってたが、もう腹は決まってそうだけどな」

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