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炎恨の魔術師  作者: 涼祈
3/13

孤独

 どれぐらい意識を失っていただろうか。

 目が覚めた時に身体を起こして周りを見渡してみると、戦いの跡が生々しく残っていた。

(一人、か……)

 周りの静寂がより孤独であることを際立たせる。

「明日からどうすっかなー」

 再び寝転んで空を見上げる。

 そこでふと気付く。

(なんか身体の調子がいいな)

 拳を握ったり開いたりを繰り返しながら調子を確かめる。

(さっきのダメージがまだ残ってると思っていたが……)

 かなり強烈な電撃だったなぁと今更ながら思う。

(……まっ、ずいぶん長い間気を失ってたからその間に回復したんだろう)

 あまり深く考えずに思考を戻す。

「とりあえず金を稼ぐ方法を考えないとな」

 今日の夜を越す分には、アネモス達と泊まっていたホテルがあるからいいがそれ以降のあてはない。

「……とにかく今日はもう休もう。いろいろありすぎて疲れた」

 近くに刺さっていた愛用の杖を引っこ抜いて立ち上がり、宿に向かう帰路へ着いた。

 翌朝。

 宿を出た俺は街中をブラついていた。

「結局この街には昨日着いたばかりだからな。これもいい機会だし、ゆっくり見て回るか」

 今までは街から街へ旅をしていたこともあり、滞在しても数日だけで買い物は旅に必要な物資のみってのがほとんどだった。

「おっ、指名手配犯の張り紙が貼ってある」

 凶悪そうな顔が描かれている張り紙がズラりと並んでいる。

「ふぅむ……、こういう指名手配犯を捕まえて賞金稼ぎになるっていうのもアリだな……」

 指名手配犯の顔が描かれている下に捕らえた時の報酬金額が書かれている。

『お前は実力不足だ』

 そんな時にふと昨日の戦闘時にビゴリスに言われた言葉が頭に思い浮かぶ。

「いやー……、うん。止めとくか……。凶悪犯だって手練が多いって聞くしな」

 違うぞ?

 決してビゴリスの言葉にビビって止めたとかじゃないからな?

 その場を後にして歩いていると、どこからか美味しそうな匂いが漂ってきた。

『はいよー! 美味しいイモシシの肉焼きだよー!』

 屋台から元気なおっちゃんの声が聞こえてきた。

 肉の焼ける香ばしい匂いが鼻腔を刺激する。

(食べたいけど今お金持ってないんだよな)

 空腹になったお腹を擦りながら落胆する。

 ふと服のポケットに何かが入っていることに気付いた。

(ん……? なんだこれ)

 ポケットに手を入れて中身を取り出すと、手にはお金が握られていた。

(おぉ! 多くはないがお金が手に入ったぞ!)

 まさかポケットにお金が入っているとは思わなかったので、喜びに打ち震える。

(しかしどうして俺のポケットにお金なんて入ってるんだ?)

 パーティーの財布の紐はリーダーのアネモスが握っていたはずだ。

(まさか俺の所を去る時にポケットに入れておいてくれたのか……?)

 そんなことをふと考える。

(いやいや! アイツらは俺の事を捨てたんだ! そんなことするわけないよな。このお金は偶然入ってたんだ)

 首を横に振り、浮かんだ考えを否定する。

「おっちゃーん! 肉焼き二本くれー!」

『あいよ!』

 とやかく考えるよりも腹ごしらえが先だ。

 肉焼きを二本注文して、屋台のおっちゃんに手渡しされる。

『まいどー!』

 おっちゃんの気前のいい声を背に、散策を再開する。

「しまったな……。いつもの癖で二本頼んでしまった」

 両手に持った肉焼きを見ながら悩み込む。

(いつも美味しそうな物を見つけると、俺とアネモスの分を買って一緒に食べ歩いてたっけな……)

 その頃の癖で思わず二人分を購入してしまった。

「えぇい! あんなやつのことなんてもう知るか! この肉焼きもやけ食いじゃ!」

 肉焼きを二本同時に頬ばろうとしたその時ーー。

 ぐぅぅぅぅぅううううう。

 大きな腹の虫が鳴った。

(誰の音だ? 俺もお腹は空いてたがそこまでではないぞ)

 音の出処を探るため、周囲をキョロキョロと見渡す。

 近くの路地裏に目を向けると、そこには小さな女の子がいた。

(まさかこの子が音の出処か?)

 女の子の視線が俺の持つ肉焼きに向けられている。

 どうやら彼女が先程の腹の虫を鳴らした張本人らしい。

 スタスタと路地裏を歩き、少女の元へ向かう。

「……食うか?」

 少女と目線を合わせながら肉焼きを差し出す。

「(コクコク……!)」

 少女はパァっと顔を輝かせながら、ものすごい勢いで首を縦に振った。

 肉焼きを手渡し近くの木箱に腰をかける。

「どうだ? 美味いか?」

「(コクコク!!)」

 肉焼きにかじりつきながら笑顔で頷く少女。

 俺も少女に続いて肉焼きを食べる。

「おぉ、美味いな」

 ジューシーな肉汁とふくよかな味わいが口の中に広がる。

「(ジーーッ)」

 あまりの美味しさに食べ進んでいると、隣から向けられた視線に気付く。

「……これも食いたいのか?」

 俺が食べていた肉焼きも少女の方に差し出してみる。

「(アーン)」

 大きく口を開けて、差し出した肉焼きを食べようとした。

 ここで少々イタズラ心が芽生える。

 少女が肉焼きを食べようとした瞬間、サッと肉焼きを横に避けてみる。

「(キョロキョロ……?)」

 突然目の前から肉焼きが消えたことで不思議そうにキョロキョロと周りを探している。

「(!!)」

 避けた肉焼きを見つけるとまた食べようとしたので、食べる瞬間にまたサッと避ける。

「(シャーッ!!)」

 同じことを何度か繰り返していると、痺れを切らしたのか爪で顔を引っ掻いてきた。

「いってぇ!?」

 突然の反撃に怯んだ隙に、手に持っていた肉焼きを取られてしまった。

「(〜〜♪)」

 やっとのことで取れた肉焼きを満足気に食べてる少女。

「プッ、アハハ!」

 その様子がなんだかおかしくって、つい笑えてしまう。

「(??)」

 突然笑いだした俺に、肉焼きを咥えながら首を傾げる少女。

「あぁ、悪い悪い。なんでもない」

 謝りながら、少女の頭を撫でる。

「(♪♪)」

 頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。

(すごいサラサラの髪の毛だな。それに動物の毛みたいにフワフワしてるし)

「(ケプッ)」

 手触りのいい髪の毛に驚いていると、食事に満足したのか眠たそうにウトウトしてきている。

「眠たいのか? ちょっと待ってろ」

 路地裏から出て眠れる場所を探そうとして立ち止まる。

「そういえば君の家族はーーってあれ?」

 振り返って家族について尋ねようとすると、少女の姿は消えていた。

「おかしいな……。まさか俺が見ていたのは幻覚か幽霊……?」

 足元に落ちていた肉焼きが刺さっていた串を見ながら考えるが、結論は出ない。

(……結局なんだったんだろうな)

 特になにかされたわけではないのでいいが、なんとも言いようのない感じが残る。

(まっ、いい気分転換になったからいいか)

 結論が出ないことを考えても仕方が無いので、路地裏から出て散策を再開する。

『なぁ! お前本当にあのドラゴン倒しに行くのか!?』

『あぁ、ギルドの依頼にちょうど俺でも倒せそうな依頼が来てたからな』

『……一人で大丈夫なのか?』

『お前の力が必要に決まってるだろ、相棒』

 ある建物の前を通った際に、そんな会話が聞こえてきた。

 ドラゴン云々や他の事はどうでもいいが、 一つ気になる言葉が耳に残った。

『ギルド』

 俺たちみたいな個人の旅人や賞金稼ぎと違って、組織に所属してギルドに来た依頼をこなして報酬を貰う集団のことだ。

(そこなら自分のレベルに合った依頼を受けられて危険もないし、キッチリ報酬も出るから食いっぱぐれることはない)

 そうと決まれば話は早い。

 早速ギルドに所属するために建物の扉を開けて中に入る。

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