証明
ビゴリスに連れてこられた広場で、俺とビゴリスは対峙していた。
「チャンスをくれたことには感謝するが、手加減はしないぞ」
魔法用の杖とダガーが一体となった愛用の武器を構える。
「ハッハッハッ、言ったら手加減でもしてくれたのか?」
豪快に笑いながら、スラリと剣を抜く。
(剣士か……。魔法で遠距離から攻撃しながら、接近されたらダガーで応戦するか)
脳内で大まかな作戦を決めて、改めてビゴリスに向き直る。
(くそ……。コイツさえいなければ、俺は今まで通りに旅をする事が出来ていたのに……!)
内心で相手に対する憎しみが募ってくる。
「おいおい、人でも殺しそうな目をしてるぞ。力抜け、力」
肩を竦めながら窘めてくるビゴリス。
「チッ、余裕ぶりやがって……。その態度がいつまで続くかな」
話すのは程々にして、臨戦態勢をとる。
俺が臨戦態勢をとると、ビゴリスも武器を再度構え直す。
「はぁ!」
俺が放った炎の魔法によって戦いの火蓋が切られた。
「おぉっと。狙いはいいが、スピード,威力ともにまだまだだな」
俺が飛ばした火球を軽々と避けながらビゴリスが軽口を叩いてくる。
「それなら……、こいつはどうかな!」
今度は先程撃った魔法を、数倍……いや数十倍にして放つ。
先程の一発の火球とは、比較にならない程の量の火球がビゴリスに向かっていく。
「おぉ。こりゃ中々壮観な景色だな」
眼前を覆い尽くす火球を見ても、怯む所か呑気に感想を呟いているビゴリス。
そんな余裕でいられるのも今のうちだ。
「喰らえっ! 百火葬!」
俺の合図で火球が一斉にビゴリスへ襲いかかる。
しかしーー。
「なっ!?」
その火球に対して逃げるのではなく真正面から向かってきたのだ。
「一発一発は弱くても数で圧倒する……。中々いい作戦だな。だがーー」
ビゴリスが目の前に来た火球に対して剣を振るった。
すると、普通の剣であれば切れないはずの火球が真っ二つに切断されてしまった。
「詰めが甘い」
大量にあった火球は、紙一重で避けられるか避けられないものは手に持っている剣で切断されてしまう。
「くそっ……! くそっ……!」
なおも火球を飛ばすが、ビゴリスはゆっくりとした歩みで着実に俺に近づいてきた。
「ほいっ、到着っと」
かすり傷一つ付けることすら叶わず、目の前まで進行を許してしまった。
「くっ……、離れろ!」
この至近距離で魔法を使用すると、自分自身も巻き添いを喰らう可能性があるので、ダガーを使った近接戦闘に切り替える。
「いい判断だ。それに、魔法使いながら中々の剣捌きだな」
この至近距離では、武器が短い俺の方が有利なはずなのに全ての攻撃を受け止められてしまう。
「うるせぇ! いつまでも余裕でいられると思うな!」
ダガーを地面に突き刺し、意識を集中させる。
「爆炎!」
ダガーと俺自身を中心として周りに小規模な爆発を起こす。
「うぉ!?」
これにはさすがのビゴリスも反応が出来なかったようで、俺の爆発に直撃した。
(よし……! ようやく攻撃を当てられた!)
倒すまではいかなくとも、ダメージは与えられたはずだ。
「ゲホゲホッ。いやぁー、虚をついたいい攻撃だったぜ」
煙の中から出てきたのは、服が少し焦げ付いただけでピンピンしているビゴリスだった。
「なにっ!?」
行動不能になるとまではいかなくとも、多少のダメージを期待していただけに驚きが大きい。
「さて、と……。今までの戦闘で底は知れたな」
服についた汚れを払いながら、改めて剣を構えるビゴリス。
底は……知れただと……?
「まだ俺が使える魔法の全ては見せてない! それで俺の底が知れただと!?」
俺を見下すビゴリスに食ってかかる。
「最初に火の魔法を使った所を見ると、普段から使い慣れてる魔法だってのがよく分かる。その魔法があの程度だということは、多少の差はあれど他の魔法もそう変わらないだろう」
ズバズバと遠慮なく言われる。
「いよっし、それじゃあオジサンも少し本気を出そうかねぇ!」
落ち込んでいる俺をよそに、軽く準備運動をしているビゴリス。
(本気だと……? なら、それを迎え撃って俺の方が優れていることを証明してやる!)
そう決まれば話は早い。
すぐさま立ち上がり、再び臨戦態勢をとる。
「これで……、吹きとべぇ!」
魔力を最大限まで溜め、巨大な火球を作り出して放つ。
「はぁ……。馬鹿の一つ覚えか」
ため息混じりに跳躍しながら、巨大火球へと突っ込んでくる。
ザンッと剣を一閃する音が聞こえ、巨大火球が真っ二つに割れる。
「アブゾーブ」
そう呟いた後、再び剣を一閃させた。
すると、切られた俺の巨大火球がビゴリスの剣に吸い込まれていき剣に炎が纏った。
(コイツーー! 魔法剣士か!!)
魔法剣士とは、魔法の効果を武具に付与し攻撃力や防御力を飛躍的に向上させる事が出来る職業だ。
俺のように近接戦闘が程々に出来る魔法使いとは格が違う、剣にも魔法にも精通しているエキスパートだ。
「炎技・火閃」
炎を纏った剣で、そのまま切り込んでくる。
(まずい……! このままダガーで受けてしまえば、武器を破壊され俺自身も炎に包まれてしまう)
「くっ……、蒼炎!」
このままやられるわけにはいかないと、水の性質を保有している蒼い炎を発生させる。
その炎を目の前まで迫ってきているビゴリスに向けて放つ。
ジュゥゥゥウウウウ!!!
ビゴリスの纏う炎が消えていく音なのか俺の放った蒼い炎が蒸発している音なのか。
判断がつかない音が眼前に鳴り響く。
「面白い魔法を使うな。だが、これで終わりだ」
ビゴリスの声が聞こえたかと思うと、蒼い炎が飛び散り俺に降り注ぐ。
普通の炎とは違い熱くはないが、燃えているのに冷たいという不思議な感覚が身を包む。
「ここで終わってたまるか! うぉぉおお!」
再びダガーを構え、ビゴリスに向かっていく。
「言ったろ? これで終わりだ、って」
「ガッ……!?」
走り出そうとした瞬間、身体に強烈な電流が走りそのまま倒れ込んでしまう。
「俺謹製の即席スタンロッドだ。どうだ? 効いたろ」
剣を持っていた方の手とは反対側の手に、バチバチと電気を帯びた鞘を持っていた。
「ぐっ……クソ……!」
(あの派手な炎の剣はおとりだったのか……!!)
起き上がろうとするも身体が痺れて言うことを聞かない。
「無理をするな。最後の炎、あれは水の性質も持ってるやつだろ。それを浴びた状態で俺の電撃を喰らったんだ。しばらくは動けないだろう」
剣を鞘に収めながら立ち去ろうとするビゴリス。
「まっ……待て……」
這いずりながらも去っていくビゴリスに手を伸ばす。
「お前の敗因は単純な実力不足だ。いいか? 魔法ってのはもっと自由なものなんだ。そして、人間もだ。お前にも他の生き方がある。もっと自由に生きろ」
そこまで聞いて意識が薄れていく。
(クソ…………)
『お……やめ……そんな……プラ……傷……』
『かま……ん。私が……出来……償い……いし……から』
誰かの話し声が聞こえてきたが、俺の意識はそこで途切れた。