新技
「おはようございますー……」
修行も終盤に突入した。
「おう、早く顔洗ってきな」
俺より先に起きていたガントに挨拶をして身支度をする。
「もうそろそろこの修行も終わりですね」
修行が始まった当初は先行きが不安だったが、いざ終わりが近づくと物寂しさを感じてくる。
「そうだな。終わるまでには何か成果を得ないとな」
ガントの言う通りだ。
今の所、この修行で得たものは様々な武器の扱い方ぐらいだ。
だが、いくら武器の扱い方を学んだ所で先生やアシナのような強者相手では付け焼き刃にしかならない。
(何か俺だけのスタイルを見つけないとな……)
必殺技を身につけたい気持ちはあるが、俺の今の戦い方ではいずれ通用しなくなるのは目に見えて分かる。
ここらで戦闘のスタイルを変えてみるのもアリだと考えた。
「そうですね。今日の特訓で何か糸口を見つけられればいいんですけどね……」
とは言うものの今の時点では何もピンと来るものがなく、八方塞がりな状態だ。
「かーっ! 前はあんなふうに言ったが、本当に魔法剣士でも目指してみるか? あれだって立派な上級職だし、一度なってみるのも悪くはないだろう」
ガントも俺と同じように手詰まりであることを感じているのか、以前とは正反対に魔法剣士を勧めてきた。
「今日何か掴めるものがなければ考えてみます──」
ガントの手前そう言ったが、魔法剣士にはなるつもりはない。
(俺はビゴリスに勝たなきゃいけないんだ……! アイツと同じ魔法剣士になった所で意味がない)
俺が魔法剣士になった所で、俺みたいな一朝一夕のものとアイツのような長年やってきたものとでは、雲泥の差があるだろう。
「そうか……。まっ、目指したくなったらいつでも言えよ」
それだけ言うとガントは今日の訓練の準備に取り掛かった。
「やっ! ハァッ!」
訓練の時間になり、いつも通り武器を手に持ちガントと打ち合う。
「おっ、手数が増えていい感じだな。だが、攻撃が単調だぞっと」
ガントは俺の猛攻をものともせずに全ての攻撃をいなして、武器を弾いてくる。
「足元がお留守ですよ!」
武器の猛攻はフェイク。
初日にガントさんにやられた仕返しに、今度は俺がガントさんに足払いをする。
「いい判断だ。それじゃあ、ここから避けられたらどうする?」
俺の足払いもいとも容易く避けてくる。
「こうしますっ!」
足払いの勢いを殺さずにその場で一回転しながら手に持っていた武器を投擲する。
空中ならば避けられないはずだ。
「なるほど。ここまでよく考えたな。だが──」
ガントは空中で身を捻って紙一重で投擲物を躱す。
「惜しいな。あと一歩及ばずって所だな」
ガントは俺の攻撃を全て避けた。
──ただ一つを除いて。
「ガントさん……。俺の攻撃はまだ終わってませんよ!」
ガントが空中で完全に油断していたタイミングで、ガントの背後から魔法で作った剣を射出する。
「なにっ!?」
さすがのガントさんもこれは予想外だったようで、驚きの声をあげる。
「いっけぇー!!」
俺の放った魔法はガントに直撃し、爆炎を上げた。
「やったか──!?」
爆煙でガントの姿が見えないので、どうなったのか分からない。
「ゲホゲホッ。あーっ、あっぶねぇ。あやうく黒コゲになるとこだったぜ」
爆煙の中からガントが咳をしながら出てくる。
「そ、そんな……」
会心の一撃だったはずだ。
手数で翻弄し、空中に浮かしてからの二段構えの攻撃。
まさかそれで傷一つ付けられないとは思いもしなかった。
「ったく……。今まで武器だけで戦ってたのに、いきなり魔法を使うやつがあるか」
ガントが身体に付いた煤を払いながら近づいてくる。
「す……すみません……」
思わず熱くなって魔法を使ってしまったが、元は俺の基礎能力の向上に武器のみを使ってくれていたのだ。
それなのに俺はガントに一発当てることに執着し過ぎてしまっていた。
「だが、怪我の功名だな。今のを見ていい案が浮かんだぞ」
ガントはニヤリと笑った。
「いい案って……?」
今の戦闘で何かいいきっかけでも見つかったのだろうか。
「イグニ。最後に俺を魔法で攻撃してきた時、お前は一体どんな形の魔法を打ってきた?」
ガントに尋ねられ、今さっき起きたことを思い返す。
「えっと……。こう……、剣の形の火の魔法でした。ちょうどこの剣と同じような形です」
手に持っているガント謹製の木の剣を指し示す。
「やはりそうか」
ガントは一人納得したような空気を出している。
「ガ、ガントさん。一体何が思い浮かんだんですか? 俺にも教えてくださいよ」
もったいぶって話さないガントに問い詰める。
「いいか、イグニ。お前は魔法剣士になる必要は無い。魔法で武器を作って戦う魔法使いになればいいんだよ!」
ガントが興奮したような声で答えてくる。
「魔法で……武器を?」
イマイチピンと来ない。
「そうだ。さっきみたいに炎を剣のような形にして相手に射出するのもよし。その剣をそのまま自分で持って武器にするもよしだ」
ガントに言われてハッとする。
「それ強くないですか!?」
思わず子どものように喜びの声を上げてしまう。
「あぁ、強い。魔法剣士だと通常一つの武器に魔法を付与するため、どれだけ凄い魔法剣士であっても攻撃出来る手数は限られているんだ」
ガントの話を黙って聞く。
「それに魔法剣士は武器が破壊されてしまうと大幅に弱体化する。これらの弱点を全てカバー出来ているのが今のお前の魔法だ」
確かに魔法で武器を作るのであれば、魔力が続く限り半永久的に武器を生み出せる。
「な、なるほど……」
ここまで一通りガントの説明を受けて、納得する。
「で、どうする? 時間はもう少ないが、新しくそっち方面の修行にシフトチェンジするか。今までの修行を続けるか」
そんなこと言われるまでもない。
「もちろん、新しい修行をやっていきましょう!」
俺の心は元より決まっている。
「それにしてもとんだ偶然の連鎖だな。お前が夜の山で魔法の形を変える特訓をして、その後の修行でお前の手に武器が馴染んだことで、こうした魔法が生まれたんだ」
ガントがしみじみとした顔で喋っている。
「そうですね──って、どうして俺が夜に魔法の形変えていた事を知ってるんですか?」
あの時周りには誰もいなかったはず。
俺が尋ねるとガントは口が滑ったのか気まずそうな顔をしていた。
「あー……、それはだな。……夜の山は何かと危険が多いからな。お前に危険が訪れないか見張ってたんだ」
ガントは照れくさそうに頬を掻きながら答える。
「そう……だったんですか。迷惑をかけてすみません」
頭を下げて謝るとガントは俺の頭に手を置く。
「なぁに。謝ることはないさ。こんな所で死なれちゃ俺も寝覚めが悪いからな。それよりさっきの言葉を少し訂正させてもらうよ──」
顔を上げるとガントは満面の笑みを浮かべていた。
「この魔法は偶然の産物なんかじゃない。お前の努力によって生まれたお前の魔法だ。お前の頑張りにお前の魔法が応えたんだよ」
そう言われて思わず自分の両手を見る。
(俺の努力に……俺の魔法が……)
ただ魔力の量だけ多く、威力もあまり高くなかった俺の魔法がこうして応えてくれた。
その事だけで嬉しさで胸が溢れそうだ。
「ただこの魔法も名前がないと格好がつかないよな。そうだな……。炎武ってのはどうだ?」
自信満々の顔でガントさんは話す。
「炎武……」
ガントが考えた名前を繰り返す。
「気に入らなければ自分で考えても大いに構わないが……」
勝手に決めてしまったことに少し負い目を感じたのかガントは気まずそうな顔でフォローしてきた。
「──いえ、炎武がいいです。せっかく俺の師匠が名付けてくれたんですもの」
名前自体気に入ったのもあるが、ガントが俺のために名付けてくれたことがなにより嬉しい。
「そうかそうか。お前がそれでいいなら俺はもう何も言わないさ」
ガントは嬉しそうな顔をしてこちらを見つめてきた。
「よし、それじゃあ今から残りの時間は炎武の上達に全て使うぞ! ついてこれるか、弟子!」
武器を振り上げたガントは大きな声を上げる。
「はい! ついていきます、師匠!」
それに応えるように俺も大きな声を出す。
こうして、俺の初めての修行は幕を閉じた。




