経過
初めての特訓から数日が経った。
ガントとの訓練は日に日に苛烈さが増していった。
「おいおい、どうした? もう終わりか?」
ガントが俺の攻撃を軽くいなす。
「ハァ……ハァ……。まだまだぁ!」
荒い息を吐きながらガントに攻撃を続ける。
訓練の場所は日によって違った。
初めは山頂から。
その後に木が生い茂る森の中。流れが早い川。切り立った崖。野生の魔物や動物が蔓延る林。
様々な過酷な環境でガントと戦闘をした。
「よし、今日はここまでだ」
ガントは手を止めて武器を片付ける。
「ありがとう……ございます……」
その場に倒れ込んでお礼を言いながら息を整える。
「そろそろその武器にも慣れてきた頃か?」
ガントが上から俺を覗き込んでくる。
「そうですね。少しずつですけど、手に馴染んできた感じがします」
ガントとの特訓では場所を変えていったが、使う武器も変わっていった。
最初は剣から始まり、斧や槍などといった基本的な武器は一通り経験した。
「じゃあその感覚を忘れないように、武器をローテーションする頻度を短くしていくか」
ガントがメモを取りながら考え事をしている。
(特訓を始めてから数日。ずっとガントさんと武器を使っての特訓をしているが、このままでいいのだろうか……)
体力や筋力、武器の熟練度は身についてき
てはいるが、肝心の必殺技へのきっかけは何一つ掴めないでいる。
(武器を極めて魔法剣士にでもなるか……? いや、それじゃああのビゴリスの下位互換にしかなれない)
パーティーを抜ける際に決闘をした熟練の魔法剣士について思い出す。
(アイツの技は一度喰らっただけなのに物凄い威力だったもんな……。しかもまだまだ余裕がありそうだった所を見ると、実力を隠していたんだろうな)
試験で先生との戦闘の時に一度真似をして使ってみたが、あの時の十分の一も威力が出せていなかった。
(アイツの真似をしているだけじゃダメだ……。俺が俺なりの技を見つけてアイツに勝てるようにならないと。そうじゃないと──)
パーティーを抜ける際の悔しさも同時に思い出してしまい、武器を握る手に力が入る。
「おーい、イグニ。大丈夫か?」
中々立ち上がらない俺を心配してか、ガントが声をかけてくる。
「は、はい大丈夫です」
急いでその場から立ち上がる。
(この復讐心をガントに知られては面倒なことになりそうだ。なんとしても隠し通さないとな……)
徒に力を振るうことを嫌うガントのことだ。
復讐なんて無駄だと言うだろう。
自分でも分かっているつもりだが、どうしても押し殺せない気持ちというのもある。
「──大丈夫そうだな。それじゃあ今日の身支度でも始めるか」
ガントは武器を片付けながら手早く野営の準備を始める。
「あっ、手伝います」
ガントにばかり仕事をさせるわけにもいかないので、すぐさま俺も手伝いに向かう。
「おう、すまんな。……それでどうだ。今の特訓の中で何か掴めそうか?」
支度をしながらガントが聞いてくる。
「うーん、まだまだですかね……。何か掴みかけているようで全然何も掴んでいないような」
何かきっかけさえあればいけそうなのだが、そのきっかけが何かすら想像もつかない。
「そうか……。もうそろそろ時間も少ない。急がないとな」
ガントに言われて気付く。
この山で特訓を始めて数日。
学校が修繕で休みになっているが、もうそろそろ修繕も終わる頃合いだろう。
「そう……ですね。急がないといけませんね……」
改めて期限が近づいていることを再認識する。
「まっ、焦っても出ない時は出ない。のんびりも出来ないが焦りすぎてもダメだぞ」
カッカッカッと軽快に笑うガント。
「ガントさんもそういう時があったんですか?」
何か手がかりがないものかとガントにも話を聞いてみる。
「んー……。いや、俺はそんなことはなかったな」
サラリと言ってのけるガント。
(くそっ……この才能マンめ……)
思わず内心で悪態を吐いてしまう。
「ただ俺の知り合いに悩んでたやつはいたな」
しかしガントは気になる話を続けた。
「知り合いに……?」
ガント本人でなくともそういう話が聞けるからこの際誰でもいい。
「あぁ。そいつもお前と同じように火の魔法使いだったんだ。ただ魔法の威力がイマイチ伸びなくてな。そのことでいつも悩んでたよ」
その話を聞いて俺は驚きを隠せなくなった。
ほとんどが俺と同じ状況だ。
「そこでそいつは何をしたと思う?」
ガントはもったいぶるように喋る。
「……何をしたんですか?」
答えが思い浮かばなかったので大人しく答えを聞いてみる。
「剣を振るうようになったんだ。朝から晩まで狂ったようにな」
ニヤリと笑ったガントに答えを教えてもらう。
「当然。周りの連中は思ったさ。"アイツは魔法の実力がないから気でも狂ったんじゃないか"ってな」
ここまでの話を聞いて思い当たる節がある。
「それって……」
まるで今俺がやっている特訓と同じじゃないか。
「そうだ。今お前がやっている特訓はこいつの特訓を元にしている 」
まさか俺が今やっている特訓に元があるとは思わなかった。
「そうだったんですか……。あれ? でも今の話を聞く限りだと、その人は剣を練習してたんですよね。俺は剣以外にもやってますけど……」
確かに元となったということは事実なのだろう。
しかし、特訓内容に違いがあるのには何か理由があるのかもしれない。
「まぁそうだな……。そこには理由があってな……」
なぜか言い淀む。
もしやその特訓をしていた人は特に強くならずに終わったとかいうオチでもあるのだろうか。
「もしかしてその人は弱いままだった……とか言うんじゃないでしょうね」
気になったので聞いてみる。
「いや、それはない。そいつは魔法使いの上級職である魔法剣士になれるまで成長したんだ」
ガントは真剣な顔で否定する。
「それじゃあなんでそんなに含みのある言い方をするんですか?」
そこまで強くなったのなら特に隠すことはないはずだ。
「……これは俺の勝手なエゴなんだがな」
俺の追求に観念したのかガントは話し始めた。
「お前強くなりたいだけであって、別に魔法剣士になりたいわけじゃないだろ?」
俺は頷いた。
「確かに魔法剣士も強い。魔法を使いながらも一つの道を極めた結果だからな。だが、俺はお前にもっと色々な可能性を見ている」
真剣な顔でガントは話を続ける。
「お前が魔法剣士になりたいと言うのなら止める気はない。だが、お前には様々な道を見て、そこから進む道を選んでいってほしいんだ」
ガントは空を見上げあさっての方向を見る。
(ガントさんはそこまで俺の事を……)
たまたまギルドで出会っただけの見ず知らずの俺にここまで良くしてくれている。
「……ありがとうございます、ガントさん」
思わず口から感謝の言葉が溢れる。
「ハッハッハッ。なーにいいってことよ。ほらほら、明日からまた大変な特訓になるぞ。ちゃんと食って明日に備えて眠っておけ」
照れ隠しなのかガントは俺を早く眠らせようとする。
「はいはい。すぐに食べて寝ますって」
ガントに言われるがまま、急いでご飯を食べ終わり床に就く。
「おやすみ……なさい、ガントさん……」
疲れから床に就くとすぐに眠気が襲ってきた。
それに逆らうことなくすぐさま眠りに落ちる。
──。
「……なぁ、一体今お前はどこで何をしてるんだろうな。ビゴリス──」




