開始
チュンチュン──。
「ん〜、もう食えねぇって……。ハッ!?」
鳥のさえずりと木々の隙間から差し込む朝日の光で目が覚める。
「うぅん……、ここは? ……そうだった。昨日ガントさんに連れられてこの山に来たんだ」
目を擦りながら周囲を見渡して状況を確認する。
「おっ、昨日苦労して作った光源もしっかり動いてるな」
付近には昨日の夜に火の魔法で作った光源が消えることなく俺を照らしていた。
「俺が寝ている間も守ってくれたんだな」
無事に朝を迎えることが出来たということは、しっかりと魔物避けや動物避けとしての効果を発揮していてくれたようだ。
「──よし。時間がかかったがガントさんのいる頂上を目指すか!」
宙に浮いていた火の魔法を消してから昨日の残りの軽食を食べ、荷物をまとめてから再び山を登り始める。
「はぁ……はぁ……。つ、着いたぁー……」
山登りを再開させること数時間。
ついに俺は昨日たどり着いた山頂に再びたどり着くことが出来た。
「ガ、ガントさーん? 俺です。イグニです。飲み物買ってきましたよー」
山頂に着いた俺はガントを探すために周囲に呼びかける。
「…………」
しかし反応がない。
(もしかして俺があまりにも遅すぎたから先に帰ってしまったのか?)
不安になった俺は周囲を探し回る。
「ガントさーん? どこにいますかー? いてっ」
周辺を歩いていると、足元に転がっていた何かを蹴飛ばしてしまう。
「なんだこれ?」
蹴飛ばした物を拾ってみる。
「これは……酒瓶?」
本来であれば山頂にあるはずのないものを見つけて困惑する。
「一体どこから……」
辺りを見渡して酒瓶の出処を探る。
「あれ?」
辺りを見渡していると、ある一点にだけ捨てられている酒瓶の数が多くなっていることに気付く。
「まさか……」
嫌な予感がした俺は酒瓶が転がっている方に向かう。
「やっぱり……」
「ぐがー、ぐがー」
そこには酒瓶を抱いて眠るガントの姿があった。
「ガントさん、ガントさん! 戻ってきましたよ」
「うぅん……、ん? おぉ、イグニ。ようやく帰ったか」
身体を揺さぶると寝ぼけまなこを擦りながらガントが起き上がる。
「今さっき戻ってきたばかりですよ。──それより! どうしてこんなに酒瓶が転がってるんですか? 俺が麓まで買いに行った理由は!?」
アクビをして眠たそうなガントに詰め寄る。
「あ? そんなもん俺が飲みたいからに決まってるだろ。それ以外に理由があるか?」
何を当たり前のことを言ってるんだという目で見られる。
「はぁ……。いや、もうそれでいいです……」
二度目の登山で疲れきった俺は反論する気力すら湧かない。
「まっ、時間はかかったが無事に戻ってきてなによりだ。俺が渡したそれも役に立っただろ?」
俺が持ってきた飲み物を物色しながら、買い出し直前に渡してきたカバンをアゴで指す。
「え? このカバンに何か入ってたんですか?」
ただ重たいものを持たせて特訓をさせているのかと思ったが、この言い方だと違うようだ。
「え? 俺はどうせ一日で登ってこられないだろうと思って、野営セットを渡したつもりだったんだが……」
ガントが手を止めてこちらを見てくる。
「…………」
「…………」
二人の間に気まずい時間が流れる。
「と、とにかく無事でよかった! あえて自らを過酷な環境に置くことで自身の成長を促したんだな!」
なんだか無理やりな理屈をつけて褒めてくる。
「い、いやぁ。それほどでもないですよ、アハハ……」
その言葉を適当に流しておく。
「ところでガントさん。さっきから気になってたんですけど、酒瓶に混ざって足元に転がってるその武器みたいなものはなんですか?」
ガントの足元には、木でできた武器のようなものが酒瓶と一緒に地面に置いてある。
「おっ、よく気づいたな」
そう言ってガントは足元に落ちていた物を一つ拾い上げた。
「これは俺が夜なべして木から作った武器だ」
手で軽く弄びながらそれについて説明してくれる。
「武器……ですか? それが?」
見た感じ、刃は潰れており武器としての機能は果たしていないように見える。
「あぁ。といってもこれは訓練用だな。俺との稽古に使う道具だ」
稽古と聞いて気が引き締まる。
(そうだ……。俺はガントさんに強くなるための特訓をしてもらうんだ)
「だが、これはお前の地力を高めるためであって、お前が望む必殺技には繋がらない訓練かもしれない。それでもやるか?」
ガントが真剣な眼差しでこちらを見つめ、確認をしてくる。
(確かに必殺技を手に入れるだけなら、魔法を使う俺にとってこの訓練は不必要なものかもしれない)
頭の中で答えを考える。
(だが、俺が望むのはもっと先──。アイツらが見て経験している世界を俺も見てみたい)
戦力不足でパーティーを追い出された俺には高望みなことかもしれない。
それでも今の自分からでは見られない景色を見ることで、また違う何かが見えるかもしれない。
「ぜひ、やらせてくださいっ! お願いします!」
頭を下げてガントの提案を受け入れる。
「おっし、よく言ったな。そこまで言うなら俺がビシバシ鍛えてやろうじゃないか」
俺の答えに満足したのか。
ガントはニヤリと笑って上機嫌になった。
「お手柔らかに頼みます……」
ガントの腕前は知らないが、今の俺では太刀打ちできないレベルだろう。
せめて死なないようにしなければいけない。
「よっし、それじゃあ早速始めるか」
ガントが準備体操しながら突然そんなことを言い出した。
「いっ!? 今からですか!?」
ボロボロで疲れ果てた状態で、いきなり訓練が始まるとは思ってもいなかった。
「おいおい。敵はお前が疲れているからって言って攻撃をやめてくれるのか?」
ガントが呆れた顔で言ってくる。
「それは……確かに待ってくれませんけど……」
相手を疲弊させ、その隙を叩く。
それも立派な作戦だ。
「だろ? それに、疲れている時に訓練をすれば疲れている時の身体の動かし方も分かるだろ?」
それも一理ある。
「まっ、しっかり休憩も取ってやるから今は頑張れ。幸い、ここは山頂で空気も薄いし、しばらくすれば慣れて体力もついてくるだろ」
そう言いながらガントは足元の剣を二本拾った。
そしてそのうちの一本を俺に向かって投げてきた。
「それじゃあ構えてみろ。なぁに最初は不格好でもいい。次第にそれがお前の型になる」
言われるがままに剣を構えてみる。
「それでいい。……それじゃこの石を上に放り投げるから、これが地面に着いた時が開始の合図な」
ガントは足元にあった手頃な大きさの石を一つ掴み上に放り投げた。
「ハァッ!」
カランと石が地面に落ちた瞬間、ガントがすごい勢いでこちらに迫ってきた。
「くっ……!」
その勢いに怯んだ俺は、思わず後退してしまう。
「あれ……!? ガントさんは一体どこに……」
次の瞬間には目の前からガントは消えていた。
「これぐらいの気迫にビビってるようじゃ、お前もまだまだだな」
後ろからガントの声が聞こえてくる。
「後ろっ!?」
思わず振り返りざまに剣を振るう。
「ほらほら。足元がお留守だぞっと」
振るった剣を簡単に避けられ、そのまま足払いをされる。
「あいたっ!」
その場に尻もちをつく。
「ほらっ、これで終わりだ」
急いで立ち上がろうとするも、顔の前に切っ先を突きつけられ立ち上がることは出来ない。
「くそっ……! 何も出来なかった……」
悔しさから思わず地面に拳を叩きつける。
「初めてじゃ誰でもこんなもんよ。大事なのは諦めない気持ちだ」
そう言ってガントは俺に手を差し伸べてくれた。
「……はい……! 次こそガントさんに一太刀浴びせてみせます!」
ガントに励ましてもらい、やる気を出す。
「バーカ。百年はえーよ」
ガントはケラケラと笑いながら俺を引っ張って立たせてくれた。
そうしてガントと俺の特訓は始まった。




