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炎恨の魔術師  作者: 涼祈
10/13

試練

 後日、俺はガントに連れられ山に来ていた。

「ハァハァ……。ガントさん! 本当にこんな所で特訓するんですか!」

 息を切らしながらガントの後ろについて山を登っていく。

「おいおい。こんな所でくたばってたら、この先もっと大変だぞ。……それとこの修行をしている時は俺のことは師匠と呼べ」

 ガントは息一つ乱さずに軽快に山を登っている。

 もうすでに心が折れそうだが稽古をつけてほしいと言ったのは俺の方からなので弱音は吐けない。

「うへー……。ガントさん、少し休憩しませんか?」

 慣れない山登りで疲弊した俺は休憩を申し出る。

「…………」

 しかし、ガントは無視して歩き続けてしまう。

 まさか……。

「……師匠。少し疲れたので休みをくれませんか?」

 名前ではなく師匠と呼んでみる。

「仕方ない。まだ修行を初める前だからな。今だけは多目に見てやるか」

 もしかしなくてもこの人チョロいな?

 呼び方を変えただけで態度が一変したぞ。

「ふぅー……」

 近くにあった手頃な岩に座り込んで休憩する。

「なぁ、イグニよ。お前はこの修行で何を身につけたいんだ?」

 ガントも俺の対面にある岩に腰掛けながらそんなことを聞いてきた。

「そうですね……。やっぱり身につけるなら、相手を一撃で倒す必殺技とかですかね……。今の自分には純粋な攻撃力が足りてませんから」

 ビゴリスと戦った時やルークス、アシナと戦った時に思ったことだ。

 どの戦いでも決め手に欠けているため、ジリ貧になった所で負けているからな。

 それを解消するためには強力な技が必要不可欠だと考えた。

「ほうほう、なるほどなぁ……」

 俺の言葉に頷いたガントはその後、何か考え事をしていた。

(あっ、もしかして俺の特訓メニューを考えてくれているのかな?)

 なんだかんだ言ってもキチンと考えてくれるガントには頭が上がらない。

「よし、もう十分休憩できただろ。先を急ぐぞ」

 数分後、岩から立ち上がったガントが歩き始める。

 俺も岩から立ち上がり、その後を追う。

「ハァ……ハァ……。やっと頂上に着いたぞー!」

 山を登り始めてから数時間後。

 疲労困憊になりながらもなんとか頂上へとたどり着くことができた。

「おう、お疲れさん」

 倒れ込んでいる俺に向かって労いの言葉をかけてくれた。

「ありがとうございます……。それで特訓はどうしましょう?」

 正直な所、今すぐに特訓すると言われても山登りの疲労でそれどころでは無い。

「まぁそう焦るなって。それより喉乾いただろ? ほれっ」

 そう言ってガントに手渡された物は──。

「重たっ!? 何が入ってるんですか? これ」

 飲み物ではなくガントが背負っていたカバンだった。

「秘密だ。それより、確か麓に飲み物を買える場所があったよな? 今から降りて買ってきてくれ。もちろん、それを背負ってな」

 カバンを渡された理由を考えていると、ガントがとんでもないことを言い出した。

「……はぁ!? 今から!?」

 今登ってきた山を降りてから再び登ってこいだなんて正気の沙汰じゃない。

 しかもこんなに重たいカバンを背負いながらだなんて。

「ほらほら、行くのか行かないのかどっちなんだ」

 カバンを握りしめたまま立ち尽くしている俺を急かしてくる。

(くそっ……! 一体なんだってガントさんはいきなりこんなことを言い出したんだ……!)

 いくらなんでも理不尽すぎる物言いに疑問を持つ。

(……ハッ!? まさかもう修業は始まっているということなのか……!?)

 そうでもなければ突然こんなことを言い出すはずがない。

「行かせていただきます!」

 修業の一環と分かればやらないわけにもいかない。

「よく言ったな。俺は酒で頼む。お前は自分の好きなものを買ってこればいいからな」

 ガントの声を背にして、俺はカバンを背負って山を降りていった。

「……ふぅ。またここを登らなきゃいけないのか……」

 麓で飲み物を買った後、再度山の入口で立ち尽くしていた。

「それにしても、このカバンは一体何が入ってるんだ……。降りてくる時はあまり邪魔にならなかったけど、登りだとかなりキツくなるかもしれない」

 背負ったカバンを見ながら溜め息を吐く。

「……まぁ、考えてても始まらないか。急いで登らないと夜になってしまいかねない。夜の山なんて危険が一杯だから早く登らないとな」

 そう決心するや否や、足早に山を登り始める。

「ハッ……ハッ……。くそっ、まだ先は長いな」

 登り始めてから数十分が経った。

 日が暮れ始めて、辺りが暗くなり始めた。

「こんな所で、装備も何もなしに野宿なんて出来ないぞ……。それに魔物や危険な動物がいつ出現するか分かったものじゃないし……」

気持ちは焦るばかりだが、残念なことに山を登るスピードは先程までと変わらない。

「……ダメだ! このまま行ったんじゃいつまで経っても頂上にたどり着かない。まだ明るくて目が利くうちに夜に備えよう」

 一旦登ることを諦めて、夜に備えて準備を始める。

「まずは明かりの確保だな。後は、食糧と簡易的なベッドでも作るか。幸いにも飲み物はさっき買ってきたから十分にある」

 今やるべきことをハッキリさせて、生き残ることを最優先に考えて動き始める。

(明かりの確保だが……。俺の魔法でなんとかならないかな?)

 せっかく炎の魔法が使えるのでそれを使って光源を確保したい。

 焚き火をするとなると、燃えそうな木を探してこないといけないが、今は悠長に木を探していられる時間もない。

「物は試しだ。一度やってみるか」

 手元に火球を発生させ、その場に留まるようにしてみる。

「あっ」

 しかし、火球はいつも通り手から放たれていき、遠くに消えていった。

(うーん、当たり前だがいつも通りにやってるようじゃダメだよな。なにか別の方法を考えないと)

 疲れで頭がろくに回らない中、なんとか試行錯誤をしてみる。

「そうだ! 形を変えてみよう」

 色々と考えた結果、火の魔法の形を球状から変えることを思いつく。

(いきなり新しい形にするのは難しいかもしれない。球状を基本の形として、そこから派生させていこう)

 円柱、三角形、キューブ形など様々な形を試しみる。

「むむむ……。難しいな……」

 何度か試してみるもそのまま発射されてしまったり、形が上手く保てなかったりとどれも上手くいかなった。

「はぁー……、どうすっかなー」

 思わずその場に座り込む。

(発想はいいと思うんだけどな。その発想を形にする実力がないということか……?)

 手のひらで火球を弄びながら考え事をする。

(やはり俺には才能も実力もないということか……)

 自分で考えて自分で落ち込んでしまう。

「……やめやめっ! 今は落ち込んで時間を浪費している場合じゃないな」

 手を地面について立ち上がる。

「おろ?」

 その時、ふと気付いた。

 手のひらで弄んでいた火球を消さずに手を使って立ち上がったせいで、地面と手のひらの間で火球が押し潰されて平たい円盤状になったこと。

「こ、これは……!」

 偶然から発生した産物だが見逃さなかった。

 今の形と感覚を忘れないうちに、もう一度手のひらで円盤状の火を形成する。

「よ、よし……。これでどうだ……!」

 しかし、円盤状に広がった炎は空中に留まることなくスライムのような形になって手のひらに落ちてきた。

「あれー? おかしいなー……」

 一つの壁を超えたところで、またもう一つの壁が立ち塞がった。

「ダメだ! どうしても出来ないぞ……」

 その後、何度も挑戦するも上手く空中に浮かせることができない。

「くそっ……、こんなもの!」

 出来ないことに苛立ちを覚えた俺は、手のひらでダラりとしていた炎を遠くに向かって投げた。

「ん?」

 偶然は続く。

 先程投げた炎が猛烈な回転を起こしながら、遠くに飛んでいった。

「そうか!」

 今の光景を見て、円盤の炎を空中に保持するための案を思いついた。

「これを……こうして……こうだッ」

 手のひらに出した円盤状の炎に回転を加え、空中に浮かせることに成功する。

「よしっ! 上手くいったぞ!」

 思わず大きな声を上げてしまう。

 二度の偶然から着想を得たにしては、中々ちゃんとしたものができた。

「ん?」

 安心したのもつかの間、回転をしている炎の様子がおかしいことに気付いた。

 バチッ!

「あっつ!?」

 様子を見ていると、回転を加えていた炎が弾け飛び周囲に炎を撒き散らした。

「あつつ……。回転が速すぎたのか?」

 炎が掠った場所を擦りながら、失敗した原因を考える。

「それなら今度は回転を遅くしてみるか」

 もう一度円盤の炎を回転させてみる。

 しかしーー。

「これじゃあさっきまでと一緒だな……」

 遅くしすぎると先程までと同じようにスライムのようにダラりとなってしまう。

(いや、待てよ……? 発想を変えてみるか。回転の速度を変えるのではなく、速く回転しても弾けないように周りをコーティングしてやればいいんじゃないか?)

 まずはいつも通り円盤の炎を生み出す。

「蒼炎!」

 そして、円盤の炎の周りに蒼炎をまとわりつかせる。

「せ、成功だ……!」

 蒼炎をまとわりつかせた円盤の炎は、どれだけ長く回転させても炎が飛び散ることはなかった。

「つ……疲れた……」

 思わずその場に倒れ込んでしまう。

 そして気付けば周囲はとっくに日が沈み、暗闇が広がっていた。

「な、なにか食べないと……」

 時間を忘れて飲まず食わずでやっていたせいで、体力は限界が近い。

「確かポケットに非常食を入れていた気がする」

 寝そべりながらポケットをまさぐると、カンパンとチョコレートが出てきた。

「とりあえずこれを食べて寝るか……」

 疲労で動かない身体を無理やり動かして口元に食べ物を運ぶ。

「……ふぅ。とりあえず……明日のことは……また……明日……」

 体力の限界を迎えた俺はそのまま意識を失った。

 ーー近づいてきた足音に気付かないまま。

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