決裂
「しばらくこのパーティーから離れてくれないか?」
魔王討伐のために今のパーティーと旅を始めてから早数年。
大切な話がある、と呼び出されて向かった矢先にいきなり解雇通告をされた。
「ハッハッハッ、冗談キツいよ。……え? 冗談だよね?」
冗談めかして仲間に問いかけるが、気まずそうな顔をして目をそらされてしまう。
えっ……マジ?
「い、一体どういうことなんだ!? どうしていきなりそんなことを言い出すんだよ!」
仲間の態度から今の発言が冗談ではないことを察した俺は、理由を問い詰める。
「いや……、それは……だな」
俺の幼馴染であり、このパーティーのリーダーでもある戦士のアネモスが言い淀む。
「俺たちの仲でも……言えない理由なのか」
幼い頃から一緒にいる分、お互いに言いたいことは包み隠さずに言ってきたつもりだったんだが……。
「ちがっ、そういうわけではーー」
「じゃあどういうわけなんだよ!! ハッキリ言えばいいだろ!! 俺が必要なくなったんだって!!」
アネモスの煮え切らない態度に、つい語気を荒らげてしまう。
突如大声を出したことで驚いたのか、アネモスの傍に控えていた二人の女性が身体をビクッと震わせた。
俺の怒鳴り声が響いた後、部屋には静寂が訪れた。
その静寂を破ったのは部屋の扉が開く音だった。
「おぉい、リーダーさんよ。出発の日取りをーーっと、悪いな。取り込み中だったか」
扉を開けて入ってきたのは、立派な髭を貯えたワイルドな風貌をした中年の男だった。
「いえ、ビゴリスさん。大丈夫です。別室でこれからの予定を確認しましょう」
ビゴリス、と呼ばれた男性に見覚えはない。
そして先程聞こえてきた言葉から予想出来るのはーー。
(……コイツが俺の後釜か!!)
ビゴリスと呼ばれたこの男が、俺の代わりにこのパーティーに入るということだ。
(どうして……、こんなやつが俺の代わりなんだ……!!)
パーティーを外された理由も分からず、目の前に自分の代わりになる人物が現れ、なんだかやるせない気持ちになる。
「では、ビゴリスさん。別室で今後の予定について話し合いましょう」
アネモスが俺との会話を打ち切り、ビゴラスと部屋から出ていこうとする。
「おい、ちょっと待て。まだ話は終わってないぞ!」
アネモスが部屋から出ていこうとするのを制止する。
「すまない、イグニ。お前と話すことはもう、ないんだ」
それでもなお、部屋から出ていこうとするアネモス。
「お前にはなくても俺にはあるんだよ!」
言い争いを続ける中、不意に視線が向けられていることに気付いた。
「……なにか?」
一応初対面ということもあり、なるべく丁寧に対応したつもりだが、おそらく不満な気持ちが顔に出てしまっただろう。
「はっはっはっ、そう睨むなって! 別に取って食いやしねぇよ」
そう言いながらもジロジロとこちらを値踏みするような目で見てくる。
「まぁ、気にすんなよ! この世界では実力不足で戦力外通告されるなんて日常茶飯事だからよ!」
ガハハと笑いながら大声で励ましてくるビゴリス。
……今、なんて?
「実力……不足?」
そんな事は初耳なので驚いた顔をしていると、ビゴリスの笑い声がピタリと止まった。
「あー……、もしかしてこれ言っちゃいけないやつだった?」
ビゴリスがアネモスの方を向きバツの悪そうな顔をする。
「……えぇ、まぁ。内密にしておくつもりでしたが、言ったところで何も変わりませんから大丈夫ですよ」
少し呆れ顔でフォローをいれたアネモス。
しかし、そんな声すら俺の耳には届いていなかった。
(実力不足ということは……俺が足手まといってことなのか? そしてコイツらは足手まといの俺より、実力のあるこの男を選んだということなのか?)
あまりのショックに椅子にへたり込んでしまう。
「ま、まぁなんだ少年! 人生はまだ長い! このことで腐らずにもっと精進してくれよ!」
耳障りな声が聞こえてくる。
「…………せぇよ」
「ん?」
「うるせぇよ!!」
ついに耐えきれなくなり怒号をあげてしまう。
「お前に俺の何が分かるんだ! 俺のこと何も知らないくせに軽々しく偉そうなこと言ってくるな!」
実力不足と俺を見限ったパーティーのメンバーも知ったような口で励ましてくるやつも全てが煩わしかった。
「……悪かったな、別にお前さんを怒らせる気はなかったんだ」
頭を下げて謝るビゴラス。
「……別にアンタに謝られても何がどうなるわけでもないんだ。もういいよ」
半ば諦めた気持ちで言い放つ。
「そうだ! お前さんもこのままじゃ諦めきれねぇよな? ってことで、ここはいっちょ俺と勝負しないか?」
いい事を思いついたと言わんばかりの声と顔で、とんでもない事を言い出す。
「ちょ、ちょっとビゴラスさんっ。予定も迫ってるのに……」
アネモスが焦りながら止めに入る。
「なぁーに、少しの間だけよ。それに、何のチャンスも無く戦力外通告なんて可哀想だろ?」
突然のことで、俺もアネモスも驚きを隠せないでいる。
「はぁ……、少しだけですよ?」
やがて、アネモスが根負けをした形で俺とビゴラスの勝負が決まった。