第一幕:思遺出 前日譚ー出会いの前にー
美しい庭園の中に二人の影が伸びていた。幼い風貌の少年と、未だ少年の面影が残る青年だ。少年が兄様、兄様、と呼びかけ、青年がそれに応えて優しく抱き上げる様は、とても微笑ましく、美しい。
この二人は、血の繋がりの無い兄弟である。
そして、――――――ヒトでは、ない。
これは、ヒト為らざるモノの、美しくも儚い『兄弟ごっこ』のお話。
遠い、遠い昔。東の果ての海に浮かぶ、島が御座いました。島に住む人々は、島の自然に守られ、時に脅かされながら、幸せな暮らしを送っておりました。
人々は、己に恵みと災いをもたらす自然というモノに、『神様』の存在を見出しました。
彼等が特に畏れたのは、太陽。彼等は太陽を『お天道様』と呼び、太陽の神様を『天陽主尊神』と名付け、天陽様、と呼んで居りました。
却説、お話を始めましょう。
島の人々が神様を創った、少し後。神の御声を賜った、という少女が、人々を寄り集め、『クニ』をお造りになりました。少女が言うには、天陽様が神子様をお産みになった、と。人々は歓喜しました。よもや、よもや。己等の敬愛する神々が、本当にいらっしゃったとは、と。
人々は、天陽様への敬愛を込めて、クニを『日の輪』と名付けました。
そうして、人々は変わらず幸せに暮らしました。
――――――それから凡そ数百年。
日の輪の一人の青年が、漁の途中で嵐に煽られて行方不明になってしまいました。家族は悲しみ、墓標を立てました。・・・しかし、青年は戻ってきたのです。
何故か見上げるほど大きな船に乗せられて。
青年の話によると、その船は『桃華の園』という国の船で、桃華の園の海岸に流れ着いた青年を保護して呉れていたそうです。
―――話は変わりますが、桃華の園について、少しだけ。
桃華の園にも、日の輪の国で崇められる『神子様』と似たようなモノが存在していました。・・・名は『煉馬』と言う、少年の風貌のモノでした。
『神子様』と『煉馬』。この二つのモノが出会う時が、刻々と近づいていました。