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「く、黒川さん……いや、誰だって良い。とりあえず助けて……」


 波角さんが黒川さんを殴るとか馬鹿なことを言いやがり、部屋から飛び出していって体感一時間。

 正直、あの人が黒川さんの下まで辿り着けるとは思えない。

 どれだけ武装して行ったとしても、あの屋敷には黒川さんを警護すべく集まった精鋭のヤクザたちがいる。なす術もなく返り討ちにされてしまうに違いない。


「くそ、私があの男を必要とするときが来るなんて」


 この際、助けてくれるんなら誰でも良い。

 手首の拘束がどうにも取れない。縄や結束バンドならまだしも、金属製の拘束は鍵がなければどうしようもできない。


 監禁は辛い。

 手足を拘束されたり身動きが取れなくなったりすると、いつも決まって嫌な記憶が蘇る。

 とっくの昔に克服したかと思ったが、再び同じような目に遭ってみると……やはり不安になる。息苦しい。


 その点、自由が許されているだけ黒川さんはマシだ。

 家の中の自由は保証されているし、平日は普通の子供のように学校に行かせてくれる。手錠や首輪で縛ることはしない。

 別に、私に対して酷い人ではない。

 変態でねちっこいが、私の気持ちを尊重してくれる。だから恨もうにも恨みきれない。

 父と私を不幸のどん底に陥れた人だがーーそれはもう過去の話だ。


 私は今の生活を悪くないと思っているし、父も新しい人生を歩んでいるのだから。



 ***



 私が餓死するのが先か、助けが来るのが先か。


 なんて考えてしまうくらい、長い時間が経過しているような気がした。一度うたた寝してしまったせいで、私の体内時計は全くあてにならなくなった。


 すると、部屋のドアが乱暴に開けられる音が聞こえた。

 殺気だった様子の侵入者は、私の姿を見つけると顔を高揚させる。


「サリン! 無事ですか!」


 部屋に入ってきたのは黒川さんだった。彼は急いで駆け寄ると、私を強く抱きしめる。

 なぜだろう。

 心に募っていた不安が一気に霧散し、不本意ながらも嬉しかった。


「大丈夫ですか? 何もされていませんよね?!」

「ええ……それにしても、何でこの場所が?」

「そりゃあ、あの男に拷……無理やり吐かせたからです」


 ん? 拷ーー何だって? まさか拷問だなんて言わないよな?

 ……さっきの感動を返してくれ。良い人だと思った私が馬鹿だったよ。


「ちょっと待ってください。今すぐ拘束を外しますから」

「あの、波角さんは?」

「ああ、あの馬鹿なら若い連中に返り討ちにされて、今頃病院ですよ。自業自得です」

「病院……」


 黒川さんは小さく頷くと、鍵を使って私の拘束を外した。

 死ななかっただけ運が良かったかもしれない。いや、私が心配しすぎたのか。いくら天下の黒川組といえど、ただの一般人を殺したりはしないか。


「私のサリンをこんな目に遭わせて、ただで済むと思ったら大間違いですよ。彼の父親ーー波角会長と、それはもう穏便に話をつけました。お詫びに今後、波角財閥は黒川を支援してくれるようで」


 ひ、ひええ……。

 波角さんのお父さん、うちの兄が本当にすみません。

 穏便に話をつけたなんて嘘つきめ。


「よし、外れました。立てますか?」

「ありがとうございます」


 金属製の拘束が音を立てて外れる。

 私の手首には青痣ができており、触ると痛んだ。袖で隠そうとしたが、黒川さんには見つかってしまった。

 腕を掴まれ、痣を凝視される。


「可哀想に……」


 その声は震えていた。

 悲しみか怒りか、私には分からない。


「く、黒川さん。大丈夫。これくらいならすぐに治ります」

「痛いですか?」

「痛くありません」


 分かりやすい嘘をついた。

 彼は気づいていたようだったが、これ以上言及してこなかった。


「さあサリン、帰りましょう」



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