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「金出しやがれオラ!」

「さっさと財布出せば良いんだよ!」


 こんな光景を日常としていたのは、一体何ヶ月前の話だろう。


 ある日の学校の帰り道。

 冬場で日が落ちるのが早く、すっかり辺りが暗くなってしまった。数学の先生に質問をしていたのだがーー最終下校時刻までずっと付き合わせてしまって申し訳ない。

 早く家に帰れるように、今日はいつもと違うルートで帰っていた。


 人が少なく、街頭もあまりない。

 近道ではあるが、この道はあまり好きではない。一応黒川さんに連絡はしたし、後藤さんが見えないところで護衛しているから大丈夫だとは思うけれど。


 そんな帰り道の途中で、私はある光景を目にした。


 高校生くらいの男子五人組が、一人の男性を蹴っている。

 男性は道に寝転がり、大きな紙袋を胸に抱えたまま、彼らの暴行に耐えていた。


「す、すみまぜん……」

「謝ってるくらいなら金出せよ!」

「お兄さん社会人だろ? 未来ある若者に、何万か投資してくれよ!」


 こんな光景を見るのは我慢ならない。

 度の過ぎたカツアゲを受けている男性が、ヤクザに暴行を受けていた父と重なる。


 ここは表通りから離れていて人目がない。ちょっとした犯罪行為をするにはうってつけの場所だ。

 私だって怖いもんここらへん。柄の悪い人が多いし(黒川組)。


 後藤さんを探して辺りを見回すが、そう都合よく目のつく場所にはいない。

 どこだよあの人……どっかにはいるんだろうけど。


 どうにかしたいが、私は何の武芸も嗜んでいない。

 アニメの主人公よろしく不良たちを倒すなんてできっこない。


 ひ弱な女の子にできる唯一のこと。

 それはーー


「おまわりさーん、こっちです! 男の人が襲われてます!!」


 私の大声を聞きつけた不良たちは慌て出す。


「おいサツはヤベえぞ」

「逃げろ!」


 不良たちの背中が完全に見えなくなってようやく、私は暴行を受けていた男性の前に姿を現した。


「大丈夫ですか?」


 壁に背中をついて尻餅をついている男性に、私は急いで駆け寄る。

 冬場で着込んでいるせいか傷があるかは分からない。でもあんなに蹴られていたんだから、体のどこかしらを折っていても不思議じゃない。


 男性はすっかり怯えきっている。

 よっぽど長く暴行されていたのだろう。可哀想に。

 お金目的というより、ストレス発散のためにやられていたのかもしれない。


「あ、あの……警察は?」

「嘘ですよ。呼んでいる暇なんてありませんでした。騙されてくれて良かったです」


 男性はほっとため息をついた。


「お名前は?」

「な、波角竜太です。あの…….」


 私は波角さんを観察する。

 顔は前髪で隠れてよく見えない。どこにでもいそうな細身の男性だ。仕事帰りだろうか。スーツを着ている。


「ありがとうございます、お陰で助かりました」

「いえ、こちらこそ。丁度居合わせて良かったです」


 まったく……成人男性に子供がこんなことするかな、普通。

 とりあえず制服が近くの高校だったし、後で匿名で通報しておこう。


「私は黒川佐凜です」

「サリン、さんですか。本当にありがとうございました」

「いえ……さて、立てます? 」

「はい。……あっ」


 立ち上がったは良いものの、足を捻っているのか、バランスを崩して私に向かって倒れてきた。咄嗟に支えたので倒れはしなかったが……顔近っ。


 あれ、前髪で隠れて見えなかったけど、波角さん、結構イケメンだな。


「波角さん……綺麗な顔ですね。よく言われませんか?」

「あ、ありがとうございます……」


 初対面の人にいらんことを言ってしまった。


 足の様子を見せてもらったが、紫色に変色していた。自力で帰るのはほぼ不可能だろう。

 家が近くだと言うので、送って帰ることにした。


 しばらく波角さんと話しながらゆっくり歩いて、家まで送り届けた。

 あらここ、かなりの高級住宅街なんですが。

 ここらへん、金持ちが多い割には治安悪いよね。ヤクザの組長の家も近くにあるし。


「本当に、ありがとうございました!」

「いえ。お大事に。しばらくあそこは通らない方が良いですよ。」



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