陸拾
期末試験の範囲表が配られた。
そういえばもうそんな時期で、カレンダーは7月の頭。
2週間後には期末試験、3週間後には夏休みが控えている。何だかあっという間の一学期だったように思う。
試験範囲をざっと確認する。
古典、現代文A、英語、数学、化学基礎、生物基礎、政治・経済、世界史A、家庭科……9科目か。2週間もあればそれなりの点数が取れるだろう。
首席で入学した以上、今後の試験もトップでありたい。
「黒川、俺の代わりにランスに勉強を教えてやってくれないか? 俺は今回、お前を超えなきゃなたないんだ」
放課後になるとジャパニーズプリンス、改め西園寺君が絡んできた。
彼には、私に勉強で張り合おうとする可愛げと度胸がある。面白いから相手をしてやろう。
「ふーん。ランス君を教えながらじゃ私に勝てないのー?」
「は? ランスぐらい教えられるし」
「僕はどっちでも良いけど……何だか今回やる気が出ないな」
いつも世界の何もかんも全部楽しい!みたいな顔して生きてるランス君だが、期末試験には気が乗らないようだ。
恐らく怒涛の暗記地獄ーー政治・経済と世界史Aのせいだ。母国語ではないというハンディキャップのせいか、彼は暗記科目が苦手だ。
「じゃあ3人の点数で対決しないか?」
西園寺君の提案に、彼は良い顔をしない。
「えー。絶対僕がドベじゃん」
「主要科目の古典、現代文、英語、数学の合計点だけの勝負なら、ランスも張り合いあるんじゃないか?」
「確かにそれだけなら……」
「罰ゲームとかあるの?」
友達と点数で競うなんて、何だか高校生っぽい!
私は乗っちゃうぞ。
「じゃあ、最下位は一日だけ他の奴らに絶対服従、ってのは?」
「……聡、下心が隠れてないよ」
「おい」
良いよ別に。
学年1位になればこの勝負でも勝ちでしょ。やることは変わらないよ。
「黒川、本当に……本当に下心とかはないから引かないでくれ……」
必死に言ったらガチっぽくなるからやめなよ。
うーん、西園寺君かランス君を好き勝手できるのか……想像してみると悪くないな。人道の範囲内でこき使ってやりたい。
「分かった。勉強しながら何やらせるか考えとくね」
「余裕そうだな黒川。でも俺は今回の試験には自信があるんだ。ランスと2人でお前を超えてやる」
「お互い健闘しようね」
うわ〜〜〜、青春ドラマっぽ〜い!
心中喜びで満ち溢れている私を横目に、2人は勉強の計画を立て始めた。
友達付き合いって思っていたより楽しい。
「お前、暗記は今日からやっとけよ」
「うげぇ。明日からで良い?」
そんな言葉の投げ合いが聞こえる。
これがきっと、いつもの2人の光景だ。
ランス君が書くノートを西園寺君が上から覗き込み、ああでもない、こうでもないと言っている。
急に自分がよそ者のように感じた。
ずっと一緒だった2人に割り込んで良かったのかと、ほのかな罪悪感が胸に刺した。同時に、2人の友情が羨ましくもあった。
***
黒川さんは私に勉強させたくないんだろうか。
「サリン〜! いつまで勉強しているんですか」
「重いです。くっつかないでください」
私が試験勉強を始めるや急に距離を詰めてきて、物理的に邪魔をしてくる。勉強に熱中して自分に構わないのがご不満らしい。まるで飼い犬だ。
いつもなら適当にいなしつつ勉強するが、試験期間中は本当に勘弁してほしい。一人で集中したいんだけど。
「私の成績が落ちても良いんですか?」
「大歓迎ですよ! そうしたら、私が勉強を教えられるでしょう?」
「ああ……」
なるほど。だから邪魔してたんだな!?
そういえばこの家に来たばかりの頃、やけに「何でも教えますよ」と言ってきて、勉強している私の側で待機していた。
結局、一度も彼に勉強を教えてもらったことがないが……それが不満だったんだな。
「1+1って何でしたっけ? 教えてください」
「2ですけど......サリン、そういうことじゃないんです。もっと心から私を求めてください」
心から出て行ってほしいと思ってます。
あしらわれることに痺れを切らしたり、私の言動が気に食わなかったりすると、彼は私の左腕を触る。
「サリン。手を止めてこっちに来なさい」
この平坦で無機質な声を聞くと、いつも心臓を掴まれたような気分になる。
ふざけた口調でなくなるのは、”そろそろ怒るぞ”という合図。こうなったら私は彼に従わざるを得ない。
だからといって、勉強ができなかったなんて言い訳はできない。
西園寺君とランス君をめっためたにやっつけて、学年1位の座に君臨してやる!




