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 ー黒川真人視点ー


 サリンが俺の元に来るーーだいたい一ヶ月くらい前の話になるだろうか。

 その頃の俺は、今思えば馬鹿らしくなるほど四六時中イラついていた。新しく始めた事業が上手くいかず、行き詰まっていたのだ。


 碌に仕事に集中できず、煙草や酒に溺れても溺れきれない。

 日頃からのストレスがここで爆発したのだろうと後藤は言っていた。

 組を継いで三年。

 自身の身体や心を労った記憶はーーない。


「組長、赤城の件、どうなさいますか?」


 部下の一人がそう聞いてきた。

 赤城というと、組のブラックリストに載っているあいつだ。組のトップである俺ですら名前を知っているくらい、組の中では有名な男だ。

 5億の借金は先代組長の代からのもので、今でも利子が増えるばかり。金貸しにはあまりやり過ぎるなと言ってあったんだが……。


 ただの一般人に、返せるはずがない。


「そういえば娘がいたろう」

「臓器ですか? それともソープ?」

「任せる。俺の手を煩わせるな」


 ああもう、過去に戻れるなら、この時の俺をぶん殴りたい。

 本当に最悪だ。

 イライラしていたからなんて関係ない。

 あの可愛いサリンの臓器や体を売らせるなんてーー考えるだけで吐き気がする。そんなこと絶対に認めない。


「写真を見せろ。面倒なのだったら困る」

「はい」


 部下は内ポケットの中から一枚の写真を取り出した。


 写真には、目を見張るほど美しい少女がいた。カメラ目線ではない。明らかに盗撮だ。

 人の容姿を見て心を動かされたのは初めてだ。今までたくさんの女と交わってきたが、これほど異常なまでに整った顔はなかった。


 まともな家に生まれていたら、さぞかし幸せな人生を送れただろうにと思いながら、俺は写真の少女の目を見た。

 俺は物心ついた時から、人の本性が分かる能力を身につけていた。


 その人間の目を見ただけで、心の奥底で何を考えているのか、何を思っているのかが分かる。

 見た目は美しく、可憐な少女。


 だがその裏に、とてつもない異常性が垣間見えた。


 この不穏なざわめきは……一体何だ?


「ふ、フフフ……面白い娘だ」


 なぜだかは分からない。ただ俺のその真っ直ぐな目に惹かれた。その容姿に惹かれた。

 調べさせると、少女は中学生である事を隠し、バイトまでしているようだった。他にも、性格、趣向、行動パターンーー何もかもを調べさせた。文字で示せる情報だけなら、本人よりも俺の方が知っているんじゃないだろうか。


 失敗して怒られている所や、僅かなお金でも喜んでいる様子を見るとーー無性に情欲をそそられる。

 心から何かを欲しいと思ったのはこれが初めてだ。


 しかし、ただ手に入れるだけではつまらない。

 俺はもっとお前が見たい。もっと色んな顔が見たい。



 偽の請求書はもう飽きた。そろそろ実行に移すとしよう。



 ***



「やっと来ましたね。いつかいつかと、楽しみに待っていたんですよ」


 言葉遣いを改めた。でないと心ないことを言ってしまう気がしたから。

 それにーーこの子だけは特別だ。

 そう本人と周りに思わせる必要があった。


 かくしてサリンは俺の妹になった。

 これで毎晩のように抱きしめられるし、いじめられる。


 普段は小生意気だが、父親をネタに脅すとまるで小動物のようにしおらしくなる。まるで子猫のようだ。

 とはいえ、今更父親のことで脅しても嘘になるんだがな。


「どうしてですか? 組長」

「ん? お前は知らないのか」


 部下の問いかけに、俺はこう答えた。



「あの子の父親は、俺が殺したんだよ」



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