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「何でこうなったかな……」


 借金を背負い、父親と別れ、ヤクザの組長の妹になり、人間から抱き枕にジョブチェンジし……さて、今は何をしているでしょうか。



「黒川佐凛さん。お話をお伺いしてもよろしいですか?」


 最近、黒川さんは以前ほど過保護でなくなってきた。

 新しい街にも慣れてきて、道も覚えた。今まで送り迎えは車だったが、ついに昨日から歩きになった。

 これであの過保護野郎の束縛を一つ解放した!


 が、弊害はある。


「黒川佐凛さん、少しお話をお伺いしてもよろしいですか?」


 そんな何回も言わなくたって聞こえてるってば。


 黒川さんや後藤さんが、何度も注意するように言っていた刑事が、今目の前にいる。

 日本警察は優秀だ。

 多くのヤクザに見張りをつけ、動向を監視している。戸籍上黒川さんの妹である私も、マークされることになるのだろう。

 他の人はともかく、私は何もしていないんだが。


「あの、黒川佐凛さん!」


 大声で叫ばんでくれ。

 貴方の声が聞こえてないんじゃない、無視してるんだよ!

 だが刑事は諦めた様子もなくしつこい。


 聞いた話、黒川組は警視庁のあらゆる課から追われているらしい。どんだけ悪いことをしているんだ。

 何とか黒川さんを良い方向に導けないかと思っていたが、多分無理だ。すっかり諦めた。


「お兄さんについて何かご存知ですか? すみません!」


 無視しても無駄なようで、刑事はまだ根気強く迫ってくる。

 この人は一生懸命仕事をしているのだろうけど、私にとってみれば、不快以上の何物でもない。

 そもそも、私はヤクザじゃないわけで、兄が何をしようが私には関係ないし、何も知らない。

 かといってこのまま家までついてこられても面倒なので、今のうちにやれる事はやっておこう。


「任意ですよね? しつこいです、お引き取りください! 」



 ***



「黒川さぁん……」

「よしよし、良い子ですね」


 私は走って刑事を撒いた。

 刑事は慌てて追いかけてきたけれど、すぐに見失ってくれた。裏路地の多い町で良かったよ。

 お陰で若干迷子にはなったが、無事、家に帰ってくる事ができた。一応報告という形でそのことを話すと、黒川さんに褒められた。


 刑事を撒いて褒められるなんて、嬉しさの欠片も転がり落ちてこないのだけど。

 それとは関係なく、私が猫なで声を出したのは、決して、 決して甘えているだとかそういうわけではない。ちゃんと原因がある。


「さっきネットサーフィンしてたら、『猫のツボ」なるものを見つけたんです」

「はあ。それで?」

「やってみて良いですか? 刑事を撒いたご褒美です」


 い り ま せ ん!!

 そう、言いたかったのだけど。近くに銃が置いてあったので抵抗できませんでした。


 私はベッドに押し倒された。

「猫のツボ」って……私これでも人間なんですけど。

 いや、抱き枕からペットにグレードアップしたと考えれば良いのか?


「此処ですかねぇ...?」


 馬乗りにされると、どうにも身動きが取れない。

 無闇に逃げようとしても、嫌がる顔を見てドSな黒川さんは喜ぶだけだしな……。

 こうなったら、もう身構えて待つしかない。


 ニコニコしながらツボを押してくる黒川さん。

 なんか、気持ち良いというか……そういう類のものではないが、全身の力が抜け、体が軽くなったような感覚に襲われる。

 あれ、普通にツボマッサージじゃないか? これ。


「勿論、サリンは何も言っていませんよね?」

「そりゃあまあ。しつこかったので怒鳴りましたけど、それ以外は何も」


 黒川さんがツボを押して一人で楽しんでいる間に、私はあの刑事の名前と特徴を教えた。

 しかし、彼は首を傾げる。


「聞いたことのない名前だ。うーん……新人かもしれないですね。ですが、一人でサリンに話しかけるなんて、随分と肝の据わった男のようだ」


 聞いたことのある名前があるのか?


「いや、私は黒川さんとは違って、不用意に人を傷つけたりしませんよ?」

「いえいえ、傷つけるのはサリンではなく...」

「俺だよ。」


 耳元で突然囁かれた声に、思わず鳥肌が立った。

 後藤さん、何でベッド脇にいるんですか……。


「殺ろうかと思ったが、途中で思いとどまったよ。中学生の女の子に、血しぶきを見せる必要はないからな」


 うわ……私、子供で良かった。



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