肆拾伍
「生徒会?」
学校権力の最たるところ!
教師もひれ伏す絶対的な権力!
とにかくすごい権力!
……あれ、権力があるくらいのイメージしかないぞ。後、生徒会長が理事長の息子、みたいな偏見もある。
「そう。生徒会執行部というのがあるんだ。厳密に言うと部活ではないんだが、部活のような扱いを受けている。選挙で選ばれた役員と、一般生徒の執行部員で学校運営をしているんだ。すごく楽しいぞ」
なるほど、彼は私に執行部員になってくれないかと言っているのか。
中学の生徒会は体育祭や文化祭を計画したり、清掃や給食の効率化を図っていたりしていたが、玲海堂でもそんな感じなのだろうか。
話を聞いてみると、玲海堂ではあらゆる行事が生徒会主導で行われるようだ。
他にもーー学校の予算にケチをつけたり、条件は厳しいが教師を解雇したりすることも可能らしい。
私立だからか高校だからか、明らかに生徒の権限が強い。
「生徒会の暴走を防ぐために、必ず一定数の執行部員を入れなくてはならない。何でも昔、その解雇権限を悪用して理事長すら逆らえないようにした生徒会長がいたそうで……」
やば……そんな「THE 悪徳」みたいな生徒会長、現実に存在するんだ……。
「だが執行部員は役員の推薦だから、あまり抑止力にはならないと思うがな。執行部員の方が人数で勝るから、多数決となると役員を抑えられるかもしれないが」
彼に悪いことをする気がないのなら、決定事を円滑にするため、執行部員を味方になる人間にしておくのは間違った戦略じゃない。
確かに私が執行部員になったらーー反対意見くらいは言うだろうがーー全面的に彼に同意するだろう。
「君を執行部員にして……あわよくば、君を次期生徒会長に推薦したいんだ!」
「ええ……?」
いやいやいや、超がつくほど向いてないと思うよ。
生徒会長なんてとんでもない。自分のいじめすらまともに対処できてないってのに。そもそも私、クラス中から嫌われてるから人望もないし。
「君の総代挨拶を聞いて確信したんだ。皆がどうして西園寺じゃないかと騒つく中、平然とやってのける胆力! それに君から溢れ出るカリスマの素質!」
この人には一体、私がどう見えているんだろうか……。
「それに、学年の総代が生徒会長になるというのは言わば『お約束』なんだ。俺も総代だったし、前の会長もそうだった。嫌なら無理強いはしないがな!」
ごめんなさい、生徒会長だけは嫌です。
執行部員になるならまだしも、人前にしょっちゅう立つような仕事をするのはごめん被りたい。
その口ぶりからして、神楽坂先輩は生徒会長なのか。
そう尋ねると、
「ああそうだ! この赤いバッチが生徒会役員の証。執行部員は緑のバッチがもらえる。残念ながらつける奴はあまりいないが……。で、どうかな? 興味を持ってくれたかい?」
「興味はあります。でもどうしようかな……」
生徒会が女子だけなら、黒川さんは二つ返事で了承してくれるだろう。
しかし彼がいる時点で女の園という可能性は潰えている。
「もし会議なんかで拘束されるのが嫌なら、行事の時だけ手伝ってくれれば構わないよ。実は毎年人数が集まらなくて大変だから、名前貸しだけでも助かるんだ」
うわぁ、なんて魅力的な提案。
そうかそうか、それなら黒川さんも良いと言ってくれるかもしれない。ただでさえ青春の機会が奪われてるんだ。これくらいやらせてくれたって良いじゃない。
「持ち帰って考えてみます」
「ありがとう! 良い返事を待ってるよ!」
***
「えっ、生徒会執行部?」
夕食時にその話をすると、黒川さんは酷く驚いた様子を見せた。まさか私から生徒会の話が出てくるとは思わなかったのだろう。
神楽坂先輩(男)の話をするのは嫌だったが背に腹はかえられないーー勧誘されたことくらいは言うかと口を開こうとしたら、彼は勝手に納得し始めた。
「ああ。総代はお誘いがきますからね。それにしても懐かしいな。何年前の話だろう」
「10年くらい前だと思います」
「もうそんなに経つのか」
二人の会話を聞きながら、いつもと違うドレッシングのサラダを口に入れる。バルサミコ酢がきいて美味しい。
「黒川さん、おいくつでしたっけ」
「今年で27になります。サリンとは11歳差ですね」
「ギリ一回りじゃないのか……」
私は16歳になった。
入学したばっかりなのに、何でもう16歳かって?
誕生日が4月4日なの!!
入学式前、始業式前だから、だーれも誕生日なんて祝ってくれない。……まぁそもそも、誕生日を祝ってくれるような友達はいないんだけど。
「話を戻すと、私は生徒会長をしていたんですよ」
「俺は副会長やってた。あの時の写真も倉庫に残ってるはずだから、後で探してみるわ」
うわぁ、黒川さんが生徒会長とか凄い似合う。
きっとあれだ。金と力にものを言わせて学園を牛耳っていたんだ。教師とかを顎で使って……ん? 似たような話を、つい最近誰かから聞いたような……。
「楽しかったですよ。規則の穴をついてやりたい放題やっていました」
「理事長が菓子折持ってきたときはびっくりしたな。組長、あれ何やったんですか?」
「ちょっと脅しただけだ。教師陣もそうだが、あれくらいでビビるなんて柔な連中だ」
規則の穴をついて、教師陣にビビられて、やりたい放題やってた?
「卒業した途端、すぐに生徒会会則を変えられました。今は役員とは別に、執行部員がいるんですよね?」
お前が例の悪徳生徒会長か!!!!
うわぁ、自分の保護者が爪痕残しまくってるとか知りたくなかった。
「組長が理事になってあいつら、『黒川が帰ってきやがった!』とか思ってるんですかね」
「思ってそうだな。……まぁ、私も良い大人になりました。抑え気味にやりたい放題やりますよ」
ちょっと、そんな怖いこと言いながら二人で爆笑しないでください!!
私、黒川さんの再来とか思われてたらやだな……。
「組長、生徒には結構好かれてたんだぜ。金持ち学校じゃ反骨的だと、ちょっとばかし憧れの的になったりするのよ」
「じゃあ、それはそれはモテたんでしょうね」
「そうですね。でもサリン以外の女は喋る雑草にしか見えません」
今すぐ謝りなさい。
黒川さんはどうしてそう女が嫌いなんだ。私に好き好きアピールをしたいのかもしれないが……女に興味がない、というより、憎悪の念を感じる。
もしかしたら彼もーー私が男に良い思い出がないようにーー女に良い思い出がないのかもしれない。私はここまで捻くれてないが。
「そんなことより、生徒会に入りたいんですか?」
「黒川さんが許してくれるなら入ってみたいです」
「うーん……」
彼は考える素振りを見せた後、すぐに顔を上げた。
「名前だけなら良いんじゃないですか」
「行事運営だけでも楽しいよ」
「行事は理事会も協力します。一緒に楽しみましょうね!」
お前、それ目当てか……。




