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肆拾壱

 

 今から地獄の尋問タイムが始まる。

 黒川さんはきっと全てを知っているに違いない。


 私の監視、警護をしているのは後藤さんしかいないが、彼は私の行動を常に把握している。

 この間、冗談で「本当に監視してるんですか?」と聞いたら、その日の私の行動を順番ずつ空で言い始めた。

 トイレのタイミングまで把握されているのは誠に遺憾だが、ちゃんとお仕事しているらしい。誘拐は阻止できてないけど……。


 おそらく身体か手荷物のどこかに、発信器や盗聴器が仕掛けられているはずだ。

 となると、私とあの金髪マゾ王子とのやりとりは聞かれているわけで……忠誠心の厚い後藤さんのことだ。報告しているに違いない。



 車に乗った時点で彼の領域。私に逃げ場はない。

 ああ、左腕の古傷が痛む……。



「サリン、友達はできましたか?」

「逆に聞きますけど、できると思います?」


 思わないでしょう。

 おい、笑うな。


「フフッ……ところでサリン。この16年間で、合計して何人くらい友達がいました?」

「まず友達の定義を教えてください」

「定義を求める時点で、友情を構築するのに向いていないと思います」


 何だこいつ。今日すっごいつつき回してくるじゃないか。

 そういう黒川さんは友達いるんですかー? 後藤さんだけですよねー?


 ……はあ、結局似たもん同士か。

 でも黒川さんはその容姿だからキャーキャーされてただろうし、生徒会長もしてたってんだから、友達はいなくても人気者ではあったんじゃない?

 対して私は……うう、悲観的になる。


 それにしても不愉快だ。

 よくもまぁ、そんな清々しい笑顔で酷いことが言えたもんだ。現実は、自分で見つめ直すより他人に突きつけられた方がきつい。


 

 それから、黒川さんは一度も教室での騒動や金髪マゾ王子、ジャパニーズプリンスとの絡みについて触れてこなかった。

 ただ自分の学生生活の話をしたり、後藤さんのように無精髭がある方がかっこいいか聞いてきたりーーそんな、他愛のないいつもの会話。


 でも油断はできなかった。

 もしかしたら泳がせて、私の気が抜けたところで急に襲ってくるかもしれない。それからじっくり、ゆっくり食べられるんだ……。

 遺書を書く時間はくれるだろうか。



 ***



「今日はカレーで良いですか? 後藤が新しいルウを買ってきたんです」

「良いですよ」



 ……あれ?



「サリンは中辛ですよね。実は私、こう見えて辛いものが苦手なんです」

「意外ですね。激辛に唐辛子ぶっかけるタイプだと思ってました」

「私を何だと思ってるんですか……?」



 ……あれ?



「サリンはイケメンとフツメン、どっちが良いですか?」

「えっ、何ですかその女子高生みたいな質問」

「組長と俺、どっちが良い?ってことだよ」

「どっちも遠慮します」



 ……あれ?



「そうですか。サリンは私が良いんですね! 嬉しいなぁ」

「ねぇ組長。いっちゃん耳鼻科行きません?」



 ……あれ?


 ……ん? もしかして、黒川さん知らないの?!



 そうかそうか、後藤さんだって四六時中私の会話に聞き耳を立ててるわけじゃない。ちょっと聞き逃したって不思議じゃないよな。

 はぁ〜、本当に良かった〜!



「サリン、シャワーあがりました」

「随分と早いですね」

「ええ。サリンと少しでも長く一緒にいたくて。本当は一緒にお風呂に入ってイチャラブしたいんですけどね〜」



 浸かる派だった私がシャワー派に変わったのには、ある理由がある。


 ここに来た当初、黒川さん妙に一番風呂を嫌がる上、お風呂に入る時間が長いなと思っていたところ、後藤さんが「組長は残り湯でいかがわしいことしてんだよ」と教えてくれた。

 当時の私は割とガチでドン引きして、次の日からシャワーに変えた。


 今考えると、あれは後藤さんなりのジョークだったんだと思う。あの人はそういう笑えない冗談を言う。

 とはいえ、奴が私の残り湯をただ排水溝に流すだけとは思わないので、未だにシャワーだが。




「さてサリン。ゆっくりお話しましょうか。ランスフォード・フラットと、西園寺聡について」

「あっ、はい……」


 ヤバイ、ちゃんとバレてた。



 ***



 私は床に座らされ、ソファに座った黒川さんに髪を乾かされる形で話をすることになった。

 いつものことだから慣れたが、初めは屈辱的だった。


 人に髪を乾かしてもらうなんて習慣がなかったし、こいつは私が気づかないと思って髪をはむはむしてくる。

 幸運なことに髪の毛に神経は通っていないが、頭皮の感覚で何となく、何をされているかは分かってしまう。

 そんな変態行為にも、しばらくしてすっかり慣れた。慣れって怖い。



「あ、あのですね。えーっと、何と説明すれば良いのか……」


 何と言えば、彼の機嫌を損ねずに済む?

 いや、しかし……今日の黒川さんはなぜか怒っていない。全くネガティブな感情が感じられない。むしろ帰ってきてからずっと機嫌が良いくらいだ。

 言いあぐねていると、黒川さんが言った。


「もしかして、私が怒っていると思っていますか? あの程度はとるに足りません。西園寺グループは黒川の傘下ですし」


 あれ、お知り合い?


「フラットは王族ですから、流石の私も手出しが難しい。それに、アヴェリアでは良い鉱石が取れるんです。仲良くしていて損はない。まぁ、ボディータッチは許しませんがね」



 いつもと変わらない声で。優しく、暖かく、それでいて不気味な。


 一体どういった風の吹き回しだろう。

 彼は容認しているが、これ以上あの人たちと関わるのは止めよう。




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