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参拾参

 

「それで、進路のことなんですが……」


 黒川さんが銃の説明に満足したところで、私は話を切り出した。

 今まで知らなかったが彼、銃がかなり好きらしい。一般的な武器オタクっていうのは飾ったり、愛でたりーー使用するにしてもモデルガンだろう。

 実際に使用するのは銃好きのあり方ではないと思う。


 黒川さんは私の鞄を勝手に漁ると、面談でもらったパンフレットを取り出した。


「ああ。やっぱり神楽坂ですか。確かにここらでは有名ですからね」

「特にこだわりはないので、ここにしようと思います」

「えっ」


 えって何だ。その話ぶりからして、高校に行かせてくれるんじゃないの?


「何を言ってるんですか。サリンにはちゃーんと学校を用意しておきました。こら、そんな顔しないで。普通の学校ですよ」


 そう......ですか。

 黒川さんの用意した学校だから、どんな悪党育成機関かと思ったが、普通の学校だったら安心……安心、して良いよね。


 黒川さんは違うパンフレットを渡してきた。

『玲海堂学園』ーー手触りが良く、豪華でお洒落なパンフレットだ。パラパラとめくって中を見ている最中、私はあることに気がついた。


「こ、これって、日本有数のお金持ち学校じゃないですか……!」

「そうですよ。何か問題でも?」


 問題しかございませんよ!


 玲海堂学園。何だか聞いたことがあると思ったら、やっぱりそうだ。

 日本各地の令嬢や令息の通う、まさにお金持ちだけの学校。金があったら誰でも入れるわけではなく、名門に相応しい知力も要求される。

 スポーツも有名で、野球部は毎年甲子園に出ているくらいだ。基本はエスカレーター制だが、外部からの編入も可能らしい。


「だ、大丈夫ですか? 私、ド庶民ですよ。超がつくほど一般ピーポーなのに」

「私を誰だと思っているんですか? ”あの”黒川真人ですよ。そして貴女はその妹です」


 自分で言うか?


「黒川の家業をお忘れですか。今は裏の仕事はあまりしていませんが、その代わり、お飾りだった会社の事業をどんどん拡大しています。今じゃコングロマリットです。サリンは立派な令嬢ですよ」


 うわ、嬉しくなーい。

 まぁ、良いか......。ずっと屋敷に閉じ込められるよりはマシだし、黒川さんなりに考えがあってのことなのだろう。

 それに、お金持ちの人たちが大勢通う学校ならセキュリティもしっかりしているだろう。今までみたいな危ない目に遭う可能性がかなり下がるはずだ。

 それにしても、黒川さんなら女子校を選ぶと思っていたから、ちょっと意外だ。


「受験日はいつですか? こういうのってちょっと特殊ですよね」

「確か1月です」

「早いですね……頑張って、トップ入学します」

「期待していますよ」


 黒川さんが私の代わりに手続きを済ませておいてくれた。

 本当は自分でやらなきゃならないんだけど……。私がやるより、黒川さんが直々にやる方が確実で信用できるか。


 滑り止めの学校へ出願をしようと思ったが、必要ないと言われた。

 どうやら入学は確定らしい。

 入学試験とは何なのでしょうか。お金持ちの闇が見える……。


 とはいえ、みっともない点数は出せない。

 手を抜くなんて馬鹿らしい。

 過去問を解いてみたが中々骨のある問題ばかりだし、その方が勉強のしがいがある。


 そういうわけで私は、かまえかまえとうるさい黒川さんを適当にあしらいつつ、受験勉強に徹した。

 勉強する私を尻目にベッドでゴロゴロしているのがむかつく。

 ゴロゴロ、というのは比喩でも何でもなく、ベッドが広いおかげで端から端まで一回転ができる。それがどうしようもなく視覚的にうるさい。


「サリン〜、もう寝ましょうよ〜」

「今勉強中です。一人で寝なさい」

「ええ〜、サリンがいないと眠れない〜」

「じゃあ一生寝るな」



 黒川さんの扱いにも慣れてきた。

 が、あんまり長い間無視し続けると、 拳銃を笑顔で突きつけてくるようになる。

 諦めて一緒に寝たフリをして、黒川さんが寝付いたらまた始めよう。



 こうして、 遂に受験日がやってきた。


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